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  時には懺悔を  時には懺悔を
  【角川文庫】
  打海文三
  本体 590円
  2001/9
  ISBN-4043615019
 

 
  内山 沙貴
  評価:B
  赤いドレスを纏った妖女が、次元の狭間で蠱惑的で終わることのないダンスを踊る。マイナーな感じだが、ぐわっと海の中に足を引っ張られるような巨大な引力を感じた。初めの方の“障害児のことは何も分からない”という言葉には少しムッときたが、しかし所詮人間、他人のことなど何も知らないのだという結末は、なかなか素敵だと思い、分からなさの程度の問題かなとも思った。どこまでも続くエンドレスな感動ではないが、くすぶった落ち葉を焼く火のような、チリチリとした細かな感動を味わえた。特に何かが鮮明に対比されているわけでもなく、ごく日常の感覚にある、自然体な世界に好感を持てた。

 
  大場 義行
  評価:C
  内容からいうと、探偵が探ってしまった複雑な家庭と愛情というもの。後半の不思議な愛情のくだりがとても良いのにも関わらず、どうもこの探偵の男女コンビが好きになれない。だからちぐはぐな印象が拭えきれない、感動出来ないの悪循環。探偵のブロックと、障害児のブロックが、別々の物語のように感じてしまって仕方がないのだ。ちなみに、この本、同じく今月の課題である『愛しき者はすべて去りゆく』と併読すると、同じ様な子供の話なのに、別の結末のため、とにかく落ち込む事間違いなし。この二冊を連続で読んだ自分が云うのだから間違いない。

 
  小久保 哲也
  評価:C
  この作品は、実に惜しい。『愛しき者はすべて去りゆく』が今月の課題図書に無ければ、もう少し評価が良かったかもしれない。もちろん、『愛しき者』とは題材も切り口もぜんぜん違うのだけど、あまりに『愛しき者』の印象が強すぎて、オブラートに包んだようなこの作品は、物足りないという印象が残る。単に日米の探偵の地位の違いなのかもしれないけれど。。。どちらも親子の関係を扱っている作品なだけに、できればぜひ2作品を読み比べて見て欲しいと思う。

 
  佐久間 素子
  評価:C
  ミステリなんだってことが途中でどうでもよくなってしまう。いけすかないハードボイルド風の主人公・佐竹も、どんどん影がうすくなって、もう本当にどうだっていい。調査を通じて盗みぎきされる、重度の障害をもつ新と、さえない父親の生活を書くために、この小説は生まれたのだろう。そして、「みんなが、新に励まされてるんだ」という父親の言葉を書くために。この言葉をうすっぺらにしない迫力と優しさをもつ父子の生活の前では、佐竹の主義主張がかすむのも無理もない。もっとも、佐竹の情けなさがはがゆいのは、読み手もまた情けないからだ。新の人生を想像することで、この情けなさが少しは解消されるといいな、と思う。

 
  山田 岳
  評価:B
  うーん、探偵小説を読んで、障害者の問題を勉強させられるとは。新米探偵聡子が不法侵入の研修中に死体を発見。殺されたのは別の事務所の、やはり探偵。「指導教官」の佐竹は聡子とともに犯人を追う。で、もっともあやしいと思われた明野という男が、重度の身体障害者、新と二人暮しってことやねん。新は二分脊椎症にして水頭症、じぶんで食事をとることも、排泄をすることもままならない。そんな子ども抱えている男が、なんでまた殺人を?という疑問にこたえるかのように、九年前の乳児誘拐事件があきらかになっていく。こまかい描写を重ねた盗聴の段取りは、探偵という職業が、アメリカの作家が描くほど<かっこいい>もんと違ゃうことを教えてくれる。盗聴の内容からは、明野が料理を一度噛み砕いてからスプーンで新に与える、食事のようすがうかびあがる。元小学教師の聡子はしだいに新に感情移入し、明野が逮捕されると新がどうなるかを心配しはじめる。それは探偵の仕事の埒外と、あくまで職業人としての探偵に徹する佐竹。このへんのバランスが絶妙で、話が<お涙ちょうだい>に陥ることを避けながら、読者感情の<ガス抜き>をたくみにはかっている。それだけに、結末がすかしを食らったような・・・。

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