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古地図に魅せられた男
【文春文庫】
マイルズ・ハーベイ
本体 752円
2001/10
ISBN-4167651149
内山 沙貴
評価:D
題名はファンタジーのようだが、実際は実話を追った記録だった。著者は古地図の泥棒を続けた人間を知るために、関係者の話を聞くために様々な場所へと飛び回るのだが、事件はすでに終わっているし、追っている対象が非協力的でひどく不可解な人物であるために、著者はどんどん追い詰められてゆき、最後には非常にワイドショー的な自己満足に終わるという、おもしろくない結末を迎えてしまった。が、終わりの部分を除けば、物語はワクワクするような実情や歴史の羅列であり、勉強になったし、この物語には引き込む力がありいろんな世界を探検できたと思う。古地図の業界というものをまずほとんどの人が知らないであろうから、この本で少し覗いてみるのも良いかもしれない。
大場 義行
評価:D
昔の地図造りは確かに成る程大変だ。噂から始まって、事実を聞いて、冒険して、少しずつ少しずつ広げていく。だからって、それにならって書き進める事はないんじゃなかろうか。余りにも遠回りすぎやしないだろうか。一つの事を書くのに、宝島からシェイクスピアのような飛び道具まで使って説明しなくたっていいだろう。ほんとにまわりくどい。知らない地図泥棒の話は面白いのだが、どうなのだろう、このまわりくどさは大切な血肉なのだろうか。個人的には邪魔な脂肪分に思えたのだが。
佐久間 素子
評価:D
とにかく読みづらかった。ものすごく直訳調なんだもの。バイト君がやった下訳のままなんじゃないのーと、しまいには怒りだしたりして。しかも、メインエピソードが図書館の稀覯本から地図をきりとって売っぱらう男についてで、これがまた腹がたつんだ。精神衛生上あまりよろしくない本なのである。地図をめぐる話題はあちらに転がり、こちらに転がり、とどまることを知らないが、作者は地図について語っているのではない。地図への情熱/狂気を語り、それがどこから生まれるのかをときあかそうとしているのだ。私には理解できない世界であった。地図の読めない女の頭脳にはどだい無理な本だったか(←ちょっとくやしい)。
山田 岳
評価:C
東京下町の美術展「向島博覧会」では「自分の足取りを地図上に刺繍する」アーティストがいたが、訳者あとがきを見ると、こうした人は存外多いらしい。訳者自身もまた、翻訳のたびに、物語の舞台となるアメリカ各地の地図を買い込み、地図を見ながらストーリーをたどるとか。いやはや、地図には、見るものをシャーロック・ホームズ気分にさせる謎が隠されているらしい。地図をうろ覚えで出かけては、目的のお店に着けず、すごすごと帰る評者のような人間には思いもよらぬことだ。さて、本書の原題は<失われた地図の島>。大学の図書館から古地図を盗み出した男がつかまったことから話ははじまる。ミステリー・ファンの興味をひくイントロ。だが、古地図を投機の対象に押し上げてしまった男のルポが出てきて、「古地図に魅せられた男」とは著者自身のことではないか、と早くもネタバレの展開。(日本での発行元が「原題では詐欺だ」と思ったのかどうか)著者も地図が好き、だから古地図泥棒に興味を抱いたようだ。古地図とはどんなものか。どのようにしてつくられたのか。それがかつてどんな価値をもっていたのか。(大航海時代、ポルトガルはオランダ人にはけっして航海図を見せなかったとか)地図に興味のない者にも、一生懸命、地図のおもしろさ(「かくされた謎」)を教えてくれようとする。日本だと新書とノンフィクションに分けて書かれる内容が混在している、とも言える。スチィーヴンソンの『宝島』はジム少年が古地図を見つけるところから始まるのだが、「宝物の所有権は?」だなんて、それを言っちゃあおしめえよ。「マルコ・ポーロは中国に行っていない」と言われては、NHKも立場がなくなる(大河ドラマ「北条時宗」では元の都でマルコ・ポーロがなんと日本語を話している!)。「ライターにとって、プロットは出来事のつらなりであり、地図作成者にとってのプロットは地図である」そうだ。そうかもしれない。でも、本書は地図にかくされた謎をたどるあまり迷宮に入り込んでしまった感があり、評者の批評も、迷子の尻切れトンボにならざるをえない。それにしても、なんなんだ、このエピローグは!?
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