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神様
【中公文庫】
川上弘美
本体 457円
2001/10
ISBN-4122039053
石井 千湖
評価:A
好きなひととやむをえない事情で離れ離れになったことがあるならば『春立つ』を読もう。恋愛小説なんて「ケッ」と思ってしまうたちだが、これにはやられた。飲み屋のおばあさんが冬しか一緒にいられない奇妙な恋人(?)との思い出を淡々と語る。短いけれどしみじみといい話だ。寒い夜にこたつでぬくぬくしながら感傷にひたるのもたまにはいいかも。クリスマスも近いことだし。ひとつひとつの言葉がいいので、美味しいお酒でも飲みながらじっくりとどうぞ。他の短篇もお笑い(『河童玉』)ありホラー(『離さない』)ありで面白い。話題になった『センセイの鞄』や他の作品も読みたくなってしまった。
内山 沙貴
評価:C
自然の一部である人間の住む世界と、裏の森の中に住む動物たちとは、一体どこが違うのだろう。昔話の中にしか出てこない生き物たちは、本当はどこかにひっそり身を潜めて暮らしているのではないか。そして、ふとしたきっかけで、人間たちの前にその不思議な姿を現す。同じ世界には、彼らも住んでいるのだということが当たり前の世界になる。怖いも悲しいも楽しいも嬉しいも、なんだかちょっとずつ隠された霧の世界で、人はきっと大切なものを見つけ、大切なものを失う。どこにいても同じだけ太陽の光が降り注ぎ、誰にとっても同じだけの恵みが与えられている。この世界に住んでいるのは人間だけじゃないのだということを思い出させてくれる作品だった。
大場 義行
評価:A
やっぱり川上弘美の言葉は心地良い。すうっと、さらっとなんだか撫でられるようだ。なんでだろう。お隣の熊さんと散歩するとか、謎の自縛霊コスミスミコさんとか、物語もワケがわからないはずなのに、自然と読まされているし。この心地良い文章と、会話が個人的につぼ。
「明日はぼくころぶかなあ」「明日はきっところぶよ、ぼく」
なんて台詞は普通に生きていれば聞かれないはずなのに、川上弘美の世界だとあたりまえなのだ。ちょっと現実逃避気味、でもそこに現実が見えている。古い文学のようで、なんだか新しくてこじゃれた様な感覚。このあたりが川上弘美の魅力のような気がしている。まあ、そんな事より、この文章と会話だけでめろめろです。
操上 恭子
評価:B+
日常の中に、ごく当たり前のように入り込んでいる非日常。それがとても自然でほとんど違和感を感じないのだけれど、時々ふと気がついて「えっ」と思う。この感じ、何かに似ている。そう、坂田靖子のマンガの世界によく似ているのだ。絶対にあるはずがないんだけれど、でもなんとなくあってもよさそうな不思議な話たち。それでいて時には笑わせたり、しんみりさせたりしてくれる。
ちょっとだけ残念だったのは、どうやらこの本におさめられた話が、共通の主人公の連作短編シリーズであるらしいことだ。こういう不思議な出来事が1人人間のまわりで次々に起こるというのは、さすがに違和感がある。それぞれ別の主人公の物語にしてほしかったと思う。話の流れに支障はないのだから。
小久保 哲也
評価:A
最初はメルヘンなのかと思った。あるいは、「おはなし」。でも、読み進むうちに、なにか作者が伝えたがっている言葉があるような気がしてくる。優しい言葉や物語の影に隠れて。なにを伝えたいのだろう?なんどか読み返して、分かったような気がするのだけど喉につっかえて出てこない。懐かしいような、気持ちの奥底にあるような、そんな想いが胸に広がる。心が血を流しているのに、それを隠すために使った包帯の柄があまりにもかわいくて、余計に哀しくて切ない。。という風な。。。とても優しい感じかな。。
佐久間 素子
評価:A
こんなに薄い本に、9つも話がはいっていて、何だか寓話みたいな感じなので、雰囲気を楽しみながら軽く読んでいたのだ。で、『花野』に陥落。あー、油断してた。電車で開いてなくてよかった。実際、この1ヶ月何度も読んでいるのだが(10分くらいで読めるし)、あんまり好きなので、ポケットに入れて歩きたいくらいなのだ。死んだ叔父さんに野原で会ってしまうという話である。叔父さんは思ってないことを言うと、「あっちに還」ってしまう。大まじめな二人がおかしくもかなしい、短い短い話である。なのに、永遠が見えてしまう。きっぱりとしていて、少しだけ恐ろしく、少しだけ懐かしい。死というものに対する美しい解釈だと思う。あと、気に入っているのは、異形のものに好かれてしまう『夏休み』、人魚に魅入られる『離さない』。日常にはいりこんでくる「あっち」側を、あたりまえの顔して受け入れて、なおかつぎりぎりの所までひっぱられたりする「わたし」には呆れてしまうが、その実うらやましくもあるのだ。
山田 岳
評価:B
村上春樹が<現実>とのコミットメントを宣言して以来、たえて、存在しなかった<ものがたり>世界のストーリー・テラー。川上弘美は初期の村上春樹を継承している。壷から女性が出てくるわけないし、熊がしゃべったり、料理を作ったりするわけないのだが、ちっとも不自然ではない<ものがたり>世界。冬になるとやってきてカナエさんをまるめ、カナエさんの心に「すき」という感情が生まれる春先になるとどこかへ去ってしまう男の話(「春立つ」)など、恋愛に対する女性のこころをどこか象徴しているのではないでしょうか。本書は短編集ではあるが、<ものがたり>をたどるうちに、読者は知らず、じぶんの心の奥底に<かくされていた>ものに出会うことになるのです。
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