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  【文春文庫】
  藤田宜永
  本体 552円
  2001/10
  ISBN-4167606038
 

 
  石井 千湖
  評価:C
  内容はねっとりしているはずなのだが何故か薄味に感じてしまった。故障中のプロ野球選手とピアノが弾けなくなったピアニストのいわゆる不倫の恋。個人的には全裸でピアノを弾くシーンで大爆笑してしまった。想像してみるとマヌケだと思うがどうか。それとも男のひとはグッとくるのかなあ。全裸エプロンと同じくらいわけわからん。でもラヴェルの「水の戯れ」は聴いてみたくなった。映画の「ピアノ・レッスン」や「髪結いの亭主」を彷彿とさせる大人の恋愛小説は、ロマンを解さない人間には高級すぎたようだ。だって裸で椅子に座ったら下半身が冷えてお腹を壊すだろう、なんてことを考えてしまうから。

 
  内山 沙貴
  評価:C
  一度乗ったら二度と降りられない線路を辿る。美しい恍惚のプリズムに侵された光の神の道を目指して。日常的な非日常の世界。ちょっとだけファンタスティックなワイドショウ。四角く切り取られた被写体の中にあるモノクロの愛と極彩色の好奇心が混じり織り成す音の無いフラッシュ・シャワー。いかないで、でももう降りられない。音も無く走る列車はもう二度と止まることはない。主人公たちには人生をかけて大切にしてきたものがあったはずなのに、気付けば彼らの世界観は愛が至高となっていたという、頭の中では整理しがたい難しい話だったが、鋭い刃をちらつかせたような、印象的な作品だった。

 
  大場 義行
  評価:B
  ちょっとムカツク投手を主人公に据え、ヒステリックなピアノ教師と絡んでいく。最初はなんでもない小説だな、なんて思っていたけれど、気が付くと登場人物にはいりこんでいた。これは多分復活にかける思いなんてのが、いつのまにかこちらに伝わってきたからなのか? やっぱり体育会系ものには弱いという為か? あまり恋愛小説を読まない自分だけれども、ちょっとこれは面白い、なんて思い始めてもいた。その為、あのラストに茫然自失。通勤電車のなかで口をぽっかり開けてしまいました。それはないんじゃなかろうか。ちょっとこのショックから立ち直れませんです。

 
  小久保 哲也
  評価:D
  帯を見て、解説も読むと、なにやらものすごい恋愛小説のような気にさせられてしまうが、それに騙されてはいけない。心を病んだピアニスト・千香子とリハビリ中のプロ野球選手・達郎の、あくまで自己中心的な恋愛小説である。もうひとつ言えば、千香子の姿がよく見えない。彼女の存在感がもっとしっかりとしていれば説得力があるのだけど、それがあまり見えないために、「達郎の復帰物語」にチョイ役で出てくる女優さん、という程度の印象しか残らないのが残念だ。

 
  佐久間 素子
  評価:D
  リアルにしろバーチャルにしろ、恋愛において鍵になるのはやっぱりエロでしょう。恥ずかしさとか後ろめたさとか、そういうとっても個人的で後ろ向きなエネルギーを、他人と共有したいっていう気持ちは、醜いばかりじゃないのが不思議なところ。私ってどうしてこうなわけ?っていう、ため息混じりの自覚にこそ、エロは宿る。そんな私のエロ観からいくと、本書はちっともエロくない。二人が堂々としているのは、お互い自分しか見ていないからとしか思えないし、裸+ピアノ=官能って演出も勝手にやってろ感が高くて、もうすっかり冷静。「恋愛小説の第一人者」の恋愛小説にひたれない感受性ってのもやばいかしらん、と不安を残しつつ秋の夜は更けてゆくのであった。

 
  山田 岳
  評価:A
  怪我のリハビリを続けるプロ野球投手達郎が通訳の住田からピアノのレッスンをすすめられる。住田の妻、千香子はプロのピアニストだが、交通事故の怪我からなかなか復帰できず、苦しんでいた。達郎のピアノ教師となることで、千香子もまたリハビリへの勇気を得るのではないかと、よく考えると住田は達郎のことより千香子のことを考えての依頼だった。おなじ苦しみをかかえるふたりはたちまち恋におちいり、同居までしてしまう。が、立場のない住田に、同情する読者はおそらく、いない。それほどまでに、ふたりの<純愛>がたくみに描かれている。やがて千香子の故障は、怪我が原因ではなく、彼女の母親が原因であることが明らかになってくる。怪我を克服していく達郎、対照的に、トラウマを克服できない千香子。優勝をかけた一戦での達郎の復帰、物語はクライマックスをむかえる。うーむ、TVドラマにしたらヒットしそうな展開だ。しかし、誰の誰への<求愛>だったのか。ふつうに考えれば、達郎の千香子への求愛だろうが、そのことを彼がはっきりと自覚するのは、悲劇的な結末をむかえた後のことだった。ストーリー・テリングの巧みさを楽しんでください。

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