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  夜の闇を待ちながら  夜の闇を待ちながら
  【講談社文庫】
  R・エアース
  本体 971円
  2001/10
  ISBN-4062732831
 

 
  石井 千湖
  評価:B
  心に傷を負った男と気が強く賢い美女が残虐な殺人事件で出会い恋におちる。で、その美女はサイコキラーの好みのタイプだったりするわけで。よくあるパターンといえばよくあるパターンだけど読みやすくて楽しめた。イギリスの田園風景の描写とヒロインの積極的なところがいい。もう21世紀にだというのに自分から潔く「やりたい」という女は現実世界でも小説中でも少数派だ。トラウマに悩まされっぱなし、女にリードされっぱなしの繊細な主人公はちょっと情けないけれど、戦争はそれだけ体験したものにとっては重いということなのだろう。読後感も悪くないし、よくできたエンターテインメントだと思う。

 
  大場 義行
  評価:A
  これを読んでようやく気がつきました。私、異常な犯人が出てくると、とにかく読んでしまうんです。この本に出てくる犯人は、異常を通り越して凄かった。世界大戦で心に傷を受けた刑事と犯人。ともに戦争を生き残り、過酷だった塹壕戦を引きずっている。ちょっとこれは凄い小説だったのでは。確かに戦争の時の経験をひきずっているというのは、ありがちな設定かもしれないけれど、塹壕掘って女を狙うという犯人はそうそういないんではなかろうか。犯人のきれっぷりが素晴らしいとしかいえない。最初は昔っぽい作品で、いまいちかと思ったけれど、一気に読んでしまいました。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  物語は猟奇殺人の事件現場から始まる。この始まり方が、とにかく印象的。全編を通して描かれる美しいイングランドの風景と、殺人事件の陰惨さが、まるで古きよき時代に紛れ込んだような錯覚を起こす。もちろん、事件そのもののスリリングな展開に加えて、警察上層部の軋轢や、第一次大戦後の時代背景、そして恋までも盛り込んで、まさに読み応え十分。続編が待たれる、久々のヒット。

 
  佐久間 素子
  評価:B
  第一次大戦後の影響を色濃く残したイギリスの田園におきる猟奇殺人。主人公・マッデンの捜査同様、緻密なストーリー展開は、読みごたえたっぷりだ。美しい生活と、大戦の傷跡と、殺人者の異常が並び立った緊張状態がざわざわと心を騒がせる。警察関係者が覚えにくいせいもあるのだが、マッデンがロンドン警視庁に帰るたび、ペースダウンしてしまうのが、いかにも惜しかった。それにしても、地味で暗いマッデンは印象的な主人公だ。殺人を目撃してしまった少女にマッデンが注ぐまなざしも、傷ついたマッデンに注がれるまなざしも、つつましくて温かい。それは、何だか痛くなってしまうほど優しい風景なのである。

 
  山田 岳
  評価:B
  第1次世界大戦が終わってまだまもない1921年、イギリスのサリー州で一家4人が惨殺される事件がおきた。地元の警察は強盗殺人と見ていたが、スコットランド・ヤードのマッデン警部補は物盗りが目的ではないとにらんだ。それでは、何のために?ただひとり奇跡的に生き残った少女は心に傷を受けていたが、心理療法の中で、犯人が毒ガスマスクをかぶっていたことを示す絵を描いてみせた。司法解剖から凶器は銃剣であることもわかった。だが、それ以外の手がかりは何一つない。ウッデンは捜査中に偶然犯人と遭遇、ライフルで殺されそうになる。が、顔を見ないうちにサイド・カーつきのバイクで逃走されてしまう。行き詰まる捜査。マッデンはフロイト派の心理学者に相談をもちかけた。そこで浮かび上がってきた犯人像は・・・。<本格的推理小説>の一言につきる。ロバート・ゴダードよりもうまい! ワン・パターンのアメリカン・ミステリーに食傷気味の人たちにおすすめ。それにしても、舞台を100年近くむかしに設定しないと、<本格派>は描きにくいってことなんだろうか?

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