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  ダーク・ムーン  ダーク・ムーン
  【集英社】
  馳星周
  本体 1,900円
  2001/11
  ISBN-4087745589
 

 
  石井 英和
  評価:C
  なにしろ辞書の厚みのある本であり、日頃から小説の異常な長大化現象に不満を抱いてきた私としては、もうそれだけで悪い印象を抱いてしまったのだ。つい、「帯には<闇が熱い街ヴァンク−バ−>とかあるけど、新宿の地名が横文字になっただけの話を延々と書いてるんじゃないのかぁ?」とか憎まれ口を叩きつつペ−ジを繰ってしまった。で、結果。カナダの地におけるアジア人社会の描写等、なかなか興味をそそられる部分もあったのだが、やはり、小説自体の長大化の中に、スリルは埋没してしまっていると感じた。もっと早い時間で走り抜けるべき物語だったろう。この厚みは、著者の思い入れの濃さに比例すると考えられるが、それをこそ切り捨てて疾走する著者を、私は見てみたい。この半分の長さにシェイプアップされていたら採点はB、いや、それ以上になったかも知れない。

 
  今井 義男
  評価:C
  ノワールでござーるノワールでござーる。ただのノワールじゃないでござーる。ものすごい厚みでござーる。さぞかし楽しめるに違いないと、ふたを開けて中を覗いてみたら……。やっぱり覗くんじゃなか、いやいやそんなことはないでござーる。きっとこれはこれで楽しめる人もいるに決まってるでござーる。理解できない私のほうが野暮なのでござーる。ギャングの皆様チンピラの皆様にはこれからもいっそうのご活躍陰ながらお祈り申し上げさせていただくでござーる。え? いえその今後はお目にかかることもそうそうないような気がしたのでござーる。目が回るほど忙しいさなかに無理して読んで、あんたそりゃないだろうでござーる。朝三暮四に欣喜雀躍したサルでも十年一日の意味ぐらい分かるでござーる。犠牲にしてしまった三冊がひたすら悔やまれるでござーる。

 
  阪本 直子
  評価:B
  長い。主要登場人物が何人もいる。漢字の名前に中国語の発音のルビがふってあるんだけど、全部についてる訳じゃないので、時々読みを忘れてしまう。人物一覧は、別紙に刷って本の真ん中に挟んであったりするし……と文句を言いつつ読み始めたのですが、話が動き始めると、それほど混乱もせずに乗れました。長いけどスピーディー、よくできてます。死体の数は多いけど、文章が重くないから読み易いよ。
 うーん、でもなー。腐ってる奴が別の腐ってる奴のことを、批判がましく腐ってると言うのは何か変な感じです。腐ってるのは血統だからだ、という話になるのもちょっとね。何十年も前のミステリなら、「悪の遺伝」で片付けて一同納得、というのがよくありましたけども。今時アナクロ感は否めません。
 タイトルがちょっと意味不明。何で、月なの?

 
  仲田 卓央
  評価:A
  物凄く密度の高い作品である。ヴァンクーヴァーを舞台に悪徳警官、エリート警官、警官崩れのやくざという三人の男の物語は強烈な毒と魅力とを放ちながら加速していく。まともな人間は一人もいないし、まともに生きるということを考えるだけでも馬鹿馬鹿しくなってくる。突き進んで行く先は、破滅。魂の浄化や救済や解放とはかけ離れた場所にある、ただの死。まさに馳星周の真骨頂である。そしてこの作品は馳星周の最高峰といってもいいだろう。またこのパターンか、思いたくば思え。馳星周ってこればっかだよね、と言いたければご自由に。ある人はこの作品をノワールと呼び、ある人は警察小説であるといい、ある人は犯罪小説というだろう。しかしこれはもう、『馳星周』というジャンルである。

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