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  キッチン・コンフィデンシャル  キッチン・コンフィデンシャル
  【新潮社】
  アンソニ−・ボ−デイン
  本体 1,600円
  2001/10
  ISBN-4105411012
 

 
  石井 英和
  評価:B
  極彩色のエネルギ−の固まりが、ソ−スやら香辛料やらの匂いを振りまきつつ、駆け抜けて行った。シェフでもあり作家もある、二枚の草鞋をはいた著者ならではの、歯に衣着せぬ調理ワ−ルド報告だ。食通ぶりや芸術家気取りは、リアルな戦場たる調理の現場を生きる調理人たちのアナ−キィな哄笑の向こうにはじき飛ばされてしまう。描写は、常にマキシマム方向に針の振り切れた状態でなされ、この肉食性の躁状態は、ひ弱な日本人の胃袋や感性では、ついて行くのはかなりハ−ドと言えよう。かって小松左京は短編「凶暴な口」で、生物の本質を、何もかもを食いつくそうとする食欲と看破してみせた。ここで描かれているのは、そんな「口」たちの欲望の祭りに奉仕する神官たちの、浮世離れた痛快な冒険談。面白かった。食物の描写には空腹よりも胃もたれを感じたけど。

 
  阪本 直子
  評価:AAA
  職場での必要上、日本の有名シェフの著作や取材記事を読んだ。立派過ぎ恐れ多過ぎて、感心こそすれ、食欲は全く刺激されずじまい。曰く身土不二、曰く「こだわりの」食材、海外要人の晩餐会、超一流ホテル……。
そうかあ、これが「シェフ」ってものなのね。料理は「道」なのだな。と、思い込んでいたところへこの本です。
 読み始めてすぐ、頭の中で鳴り出したのは「ナンタ」の包丁叩きパフォーマンス。NYのレストラン、週末の夜ともなれば戦場だ。パンク・ロックが響き渡る厨房に罵詈讒謗が飛び交い、昔ヤク中、今はヘビースモーカーのシェフが、変人揃いのコック達を部下に、作り上げるはフランス料理。
 美味そうなんだ、これが! あなたが食通や美食家や正しい食の求道者なら、最初は腹を立てるかも。でも読んでいくうちに、必ず目から鱗が落ちる。
生きている喜び、充足感(リビドー)((c)各務三郎)に満ち溢れた本。読め!

 
  中川 大一
  評価:C
  おっ、俺の好きな内幕物じゃないか。内幕物の成否を決するのは、あばく世界に対して込められた憎しみと愛情のバランスである、というのが私の持論だ(いま、考えたの)。本書の舞台は料理人の世界、厨房である。えぐいエピソードの暴露で読者の気を引きつつ、シェフの誇りと悩みを切り分けて示す包丁さばきは見事。愛憎の配分は合格! だが哀しいかな、カタカナだらけの料理用語がちんぷんかんぷん。グリル、ソテー、ベイク、トウスト、ロウスト……ああ、どこがどう違うんだ? 船戸与一の『新宿・夏の死』に出てきた日本料亭の舞台裏は、リアルに迫ってきたんだけどね〜。一つだけ、些末なことかもしれんがお小言を。カバーを外して読んでたら、指先が真っ黒に。表紙のインクがうつっちゃったんだ(+o+)

 
  仲田 卓央
  評価:B
  アメリカ人の書いた料理の話だ。さあ、どうする! 「どうする」といわれても困るだろうが、アメリカのメシがまずいというのは定説と化していて(私は行ったことがないので知らんが、留学していた知人によると「マクドナルドのハンバーガーすらマズイ」らしい)、さらに「破天荒シェフのイカレた生活!」という惹句とペーパーバック風の装丁である。つまり、「すごくジャンクで、かつマズそう」なのだ。ところがこの「破天荒シェフ」、「料理人としての心構え」の第一に「全身全霊を捧げよ」を挙げるぐらい、ものすごくまとも。なにより、性別・人種・習慣といった全ての偏見を排除して美味いものを作り、美味いものを食べようとしている姿勢が素晴らしい。「アメリカ人の書いた食い物の話」イコール「マズそう」と思った自らの不明を反省させられる一冊である。

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