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  偶然の音楽  偶然の音楽
  【新潮文庫】
  ポール・オースター
  本体 590円
  2001/12
  ISBN-4102451064
 

 
  石井 千湖
  評価:A
  年末ジャンボの季節だが宝くじを買ったことがない。ギャンブルもしない。でもどこか遠くに行きたいという逃避願望だけは強い。ナッシュのように突然巨額の遺産がころがりこんできたら、自分は何をするだろうかと考えてみる。マンションを買うとか海外旅行に行くとかつまらないことしか思い浮かばない。『偶然の音楽』は奇妙な小説だ。大金を手に入れた消防士はただただ車でアメリカ全土を走り続ける。そのあとがすごい。予想のぜんぜんつかない展開をするのだ。ポーカーの天才・ポッツィと出会って大きな賭けに出てそのあとは読んでのお楽しみ。とにかくびっくりした。生きていていったい何の意味がある?と疑問を持ったことがあるひとにお薦め。説教臭さはまるでなし。クールだ。

 
  内山 沙貴
  評価:A
  たしか3年前にこの本を読んだ。鼓動が高まり血圧は上がり、呼吸を停止させて精神の淵に立った。そんな状態でその時は読み上げた。悲劇なのに、人が傷つくことさえもいつのまにか楽しんでいる。なぜ不可避だったのかも理解できない圧倒的な暴力のただなかに主人公をぶち込み、もまれ引き裂かれて新しいものの誕生を迎える。冒頭で描かれた高速で飛ばす車の道行きのように、物語は一直線に暴走して突っ切りきった。金を失い、運を失い、夢も自由も失われるうちに、すべての意味を失い、物語の結末も失い、何もかもをめちゃくちゃにして終わった。この暴挙ぶりが堪らなくいとおしいと感じたことを思い出す。

 
  大場 義行
  評価:A-
  強烈なまでに疾走する無気力感。赤いサーブでなにもかもブッちぎれナッシュ。読み終わってみれば、よくもまあこんな話を思いつくものだとしか言いようがない。車でぶっちぎっていたと思ったら、ギャンブル小説になり、気がつけば城を造るはめになる。凄まじい速さで転がり落ちて、穴にはまるって、凄いな。小説というよりも、童話のようで、しかもそれでいて不条理なお話。このお話を読んでいる最中、ずっと、もし、自分がナッシュのような事になったら、どうしているだろうか、そればかりを考えていた。自分はナッシュのように、何かを見いだせるのだろうか。オススメとまではいかないが、個人的には今月のイチオシ。

 
  操上 恭子
  評価:B+
  始まりが唐突だたのでちょっと戸惑ったが、まあ、自分探しの物語の一種といえるだろうか。それにしても、いかにも大金のように書いてあるが、たった20万ドルなのだ。日本円に換算して2千数百万円。そんなもので人生捨てるか? 日本だったらマンションの頭金くらいにしかならないよ。まあ事業を始めるくらいはできるだろうけど、家も仕事も捨ててブラブラできるような金額じゃとてもない。それをナッシュはやってしまうのだ。まあ、中途半端な大金に目が眩んで自分を見失ってしまったということで理解できなくもないけれど。それにしても無気味なのはその他の登場人物たち。どいつもこいつもまったく得体が知れない。最後まで読んでもわからないことだらけ。これは何かのおとぎ話なのか? 寓話性はないけれど。 というわけで、褒め言葉がちっとも思いつかないんだけど、どにかく面白かったんです。是非、読んで下さい。

 
  佐久間 素子
  評価:B
  突然転がり込んだ遺産を使って放浪するナッシュの前に現れた博打の天才ポッツィ。大儲けをたくらむ二人は大富豪との賭に負けて、野原に壁を作る作業にとらわれる。奇妙な物語はそれだけでおもしろいのだが、すべてが寓話のように見えて想像力が刺激される。どのエピソードも、言葉も、考えも、なにかに似ているのに思い出せなくて、物語のすきまにおっこちると、そのまま本の存在を忘れて空想にふけってしまう。決してきもちのいい物語ではないのに。満たされないナッシュが不思議に安定していく、無意味な肉体労働の日々は、皮肉にも明るくて自由すら見えてくる。それがただの幻想なのは、ラストで明らかになるけれど、だからって自由の意味なんてわかりゃしないのだ。

 
  山田 岳
  評価:C+
  「死にいたる病」とはうまく言ったものです。この小説は病の進行過程を具体的にあらわさはったもの。ラストへ向けてぐいぐいと加速していくところは<A>なんやけど、この病が「倦怠」ともよばれるように、最初の33ページが死ぬほど退屈。妻に逃げられた主人公ナッシュに突然20万ドルの遺産がころがりこむ。ただなすすべもなくアメリカ国中車をころがしつづけるナッシュ。遺産も残り少なくなったある日、道でズタ袋のようにしてころがっていたギャンブラーのポッツィをひろう。彼は酔狂にも、ポッツィの1万ドルをかけたポーカー・ゲームに資金援助を決めた。このゲームの行方は、ってあたり(135ページ)からようやく話がおもしろくなってきますねん。しかーし、ゲームが白熱してきた真夜中、ナッシュは部屋をぬけだし、ゲーム相手のフラワーとストーンがすむ屋敷のなかを徘徊する。ナッシュの不在に緊張の糸が切れ、ゲームに負けつづけるポッツィ。夜明けを待たずにゲーム・オーバー。ふたりは一文なしになったどころか、借金まで背負ってしまった。フラワーとストーンは借金の返済に、イギリスの古城から運んだ石を使っての壁の建設、つまり肉体労働をもちかける。肉体労働に<意味・意義>を見出し、快諾するナッシュ。ここまででわかるように、「死にいたる病」にかかってしまったナッシュは、すべてを悪いほうに悪いほうにと賭けていきますねん。契約書をつくりながら、そこに書かれていない食費や生活経費でふたりをおいつめていくフラワーとストーン。それは、もう、えぐいほど。ナッシュはポッツィだけでも逃がそうと考えるのですが・・・。ナッシュの前職は消防士。なのに、クラシック音楽を好み、哲学書を読み漁る<インテリ>。<インテリ>は、くそほどの役にもたたん、という見本のような話。

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