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  三文役者のニッポン日記  三文役者のニッポン日記
  【ちくま文庫】
  殿山泰司
  本体 880円
  2001/11
  ISBN-4480036806
 

 
  石井 千湖
  評価:B
  竹中直人が殿山泰司役を演じた『三文役者』という映画で、タイちゃん(どうしてもこう呼びたくなってしまう)に興味を持った。酒と女にだらしない自称・三文役者のかわいらしさにやられたのだ。どこへ行ってもモテモテだったそうなのだが納得。男は愛敬だな。で、そのタイちゃんの文章は今回初めて読んだ。うまい、面白い。目線の低さ、観察眼の確かさはもちろんのこと、文体が読んでいて気持ちいいのだ。ベトナム戦争中のサイゴン日記には考えさせられる。今もアメリカさんは戦争してるけど、タイちゃんが生きていたらなんと言うのだろう。やっぱり「沢山の兵員と優秀な武器だけで戦争は勝てるものなのか。そんなことを信じてる人たちをオレは腹の底からケイベツしたい。」かな。

 
  佐久間 素子
  評価:C
  単行本の出版は1967年である。旅行記はともかく、30年以上前の時事エッセイがこうして文庫化されることにまず驚く。それが現役で通用してしまうということにも。日本がまったく進歩していないという情けない事実もあるけれど、殿山泰司という人間がぐらぐらしていないのがやっぱり大きい。タイちゃんの文章は社会を変えたりしないけど、30年先のこんな時代にもそのココロがちゃんと届いてる。軸はしっかりしているのに、フットワークが軽くて、偽悪をきどるのは照れくさいからで、でもやっぱり悪いところもあって、飄々としていて。そういう性格が似合う人なんて、あんまりいなくなっちゃったよ。

 
  山田 岳
  評価:C+
  「サイゴン日記」の章だけだったら<A>「アメリカ日記」の章で<B>「ニッポン日記」の章がついたためにこの評価。はじめの章は、ベトナム戦争中なのに、サイゴン(現在のホーチミン)が意外にものんびりしていて日本人がすんでいる、ということに、まずびっくり。「前線の南ベトナム兵士たちは、サイゴンで革命があろうと、だれが首相になろうと、ほとんど何も知らないという」話にまたびっくり。そりゃ戦争にも負けるわな。「アメリカやフランスに逃れた(ベトナムの)若者たちは、自分の祖国の不幸な青年たちの運命をどう考えているのであろうか」というのは、「逃げてるだけじゃなくて、平和になれる手段を考えろよ」ってこと。その背景には、著者自身日中戦争に従軍した体験を踏まえての「戦争はもうコリゴリ」がある。でも、ベトナム戦争はアメリカが敗退するまで終わらなかったんだよね。次の章、「わが祖国ニッポンでは、アメリカという国をスカンタコだと思っている人間が実に多い」それが、みんなアメリカ大好きになったのはいつからだろう?最後の章、時代の移り変わりはなんともいなめません。と、言いたいが、不況にあえぐ庶民の姿はむかしも今もかわりません。殿山泰司がいまのニッポンを見たら、なんと言うだろう?関西エリアの人たちには、MBSラジオのニュース・アンカーマンM氏と語り口が似ているので、うけるかもしれない。

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