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  クリスマスのぶたぶた  クリスマスのぶたぶた
  【徳間書店】
  矢崎存美
  本体 1,200円
  2001/12
  ISBN-4198614520
 

 
  石井 英和
  評価:A
  著者には申し訳ないが、始めはこの作品を軽く見ていたのだ。遊んであげたゴホウビに子供がくれたキャンディを「ああ、おいちいおいちい」とか御追従を言って舐めるが如くに、読みとばして行った。が、最後のエピソ-ドに突き当たり、「え?」と思いなおして冒頭から再読。それほどたやすい代物ではない、と考えを改めた次第。コドモ相手の甘ったるくコ-ティングされた「癒しもの」のような装いを凝らしつつ、その底に、現実世界の秘めた酷薄な相貌を独特の角度から描き出している作品だ。いくつかのエピソ-ドの積み重ねながら、終始、均質な緊迫感が薄れずに続いているのも評価したい。ただ、これは連作の一部のようだが、この作はクリスマスなる特殊イベントとの相乗効果を成している感もあり、他の作品からも同様の感興を得るのが可能かどうかは不明だ。

 
  今井 義男
  評価:C
  私はこういう架空のキャラクターになんら違和感を持たない。古くはロボット三等兵、快球Xから、スナフキン、R・田中一郎…と、心許ない記憶容量の大半がそんなもので占められている。ただ、なんでも無批判に受け入れたわけではない。たとえばドラえもんでしばしばあっといわされるタイムパラドックス。ネズミ男が演じる痛烈な風刺劇。単にキャラクターに寄りかかっただけの作品でないのは一目瞭然である。ではぶたぶたシリーズはどうか。率直にいうと固定ファン以外にはあまり用のない本だと思う。なぜなら、この小刻みなクリスマス・ストーリーは、どれもぶたのぬいぐるみを登場させるためだけに書かれたものだからである。<可愛い>とか<罪がない>ことを売りものにするなら、小説である必要はない。その役割はすでに幼児向け絵本やおびただしい文具が果たしている。

 
  阪本 直子
  評価:C
  日常の鬱陶しさに、少しだけ打ちひしがれている女の子達(幼稚園児から30過ぎまで)。クリスマス、そんな彼女達の日常が少しだけ変わる。サンタクロースに出会ったから。プレゼントを貰ったから変わったのではない、彼女達が自分で風穴を開けたのだ……という、これぞ!クリスマス・ストーリー。ツボにはまれば、判ってるのにホロリとさせられるという、何とも気持ちのよい世界が味わえた筈……なのですが、しかし。
 女の子達の年齢や性格の違いが上手く書き分けられてない。だからメリハリが弱いんだよね。しかも彼女達の悩みや屈託は、いくら何でもつまんなさ過ぎ。特に最初の二人! 女々し過ぎるぞ女の癖に。
 未読でしたが、評判の高いシリーズのようですね。ひょっとして作者は、自分の生んだ主人公の人気に寄りかかり始めてはいませんか? 用心してないと今に、浅見光彦におぶさってる内田康夫みたいになっちゃうぜ。

 
  谷家 幸子
  評価:C+
  恋愛小説とは別の意味で、自分では絶対手に取らないと思う本だ。
タイトルといい、装丁といい、帯といい、ここまで臆面もなく「かわいい」を発散されるとねえ。いや、「かわいい」ではなく、「かっわゆーい!」か。ぬいぐるみってのも苦手だし。ピンクの服もまず着ないし。
しかしまあ、そういった「むずがゆさ」をとりあえず横においておけば、お話自体はなかなか悪くない。あざといと言えば言えるけど、そのさじ加減はセンスがいいと思う。「桜色のぬいぐるみに会った10人の女の子のお話」(帯の惹句)、なかでも由美子、奈々、貴子のところがよかった。それぞれの女の子が持つ大小さまざまの屈託が微妙にリアルで、ぬいぐるみの「ぶたぶた」の登場がなぜだか違和感がない、よくできたメルヘン。
なんだがしかし。やっぱり自分じゃ買わないよな。贈られても困惑かも。

 
  中川 大一
  評価:B
  知り合いに、人形制作会社に勤めてる人がいてね。ミッキーマウスの手袋を、いかに自然に手にはめてる感じに作るかが腕の見せどころだと、聞いたことがある。なるほどなあ。私は野暮天でぬいぐるみを見ても「ぬいぐるみだ」としか思わんが(そのままやないか)、感性のある人はビビッとくるんだねえ。本書のコンセプトは説明不要。造本を見りゃ一発で分かる。クリスマスに読む、若い女性向けのお話し。全体も薄いが一章一章も短いスナップショット集。ぶたのぬいぐるみがサンタクロースをやってる以外はきわめてリアルな筆使い。ぶたが真面目に振る舞うほどに、ニコニコ笑えます。でももうクリスマスは過ぎたしなあ。いま読むのは若干間が抜けてるかも。あと1年待って読むか贈るかしましょう。

 
  仲田 卓央
  評価:B
  私はキャラクター物が嫌いである。大嫌い、といってもいい。某『こ○ぱん』の「やさぐれているけど。面倒見の良いパン」というキャッチフレーズを見るたびに「やさぐれてるパンて、面倒見の良いパンて、アンタ!」と突っ込まずにはいられない。某外資系企業の黄色い熊(あの蜂蜜大好きの、愚かな感じのアレね)の悪口に至っては2時間言いっ放しでも物足りない。
 さて、そんな私が『ぶたぶた』を読むとどうなるでか。さあ、突っ込むぞ!というように気分にはは、残念ながらならないのである。なぜかというと、この小説に登場する人々は、どこか大人になりきれない人々で(まあ、ホントの子供もいるが)、言うなれば「マイナーに、ダメ」な人々だ。その人々が「ぶたぶた」によってちょっとだけ癒されたり、救われたりするのがこの小説の骨子なのだが、自分の中にその「癒されたい・救われたい願望」がないとは、言いきれない。現代の病、ともいえるその点をこの小説は触り得ているのである。

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