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  サグラダ・ファミリア「聖家族」  サグラダ・ファミリア「聖家族」
  【新潮文庫】
  中山可穂
  本体 400円
  2001/12
  ISBN-4101205310
 

 
  石崎 由里子
  評価:B
  主人公のピアニストの女性が出会ったのは、ルポライターの女性、透子。二人は求めあい、過去を知り、今を分かちあい、未来を案じながら愛を育む。そして、互いに深く知しあうがゆえに、一年という歳月で終わりをむかえる。どんなに愛し合っても、二人の間で得られない子ども。透子は、出張先で知り合ったホモセクシャルのピアニストとの間に、桐人という男児を出産する。
 そして、透子は桐人を抱え、主人公の元に戻ってくる。母性を携え、より一層女という生き物として。
 しかし、再び始まりそうだった愛は、透子の交通事故死によりあっけなく終わる。子どもをのこして。
 主人公の周囲には、主人公のパトロンであり、当初は愛人でもあった梅ばあ。桐人の物理的な父である男を愛していた男性、テルちゃん。人を愛することの喜びと、その先にある孤独を知りぬいている人たちがいる。
 主人公が、苦手な子どもとの関わりの中から、のこされた桐人の中に、かつて愛した女性の姿を見出し、生きていこうとする姿は、愛するという感情が生み出す力の大きさを改めて教えてくれる。寒いこの季節、ちょっと高めの温度設定だが、温かくなりたい人にお薦めの作品だ。

 
  内山 沙貴
  評価:A
  真赤な血を連想させる毒々しいバラの花束、土を掘って埋めた死んだ猫の骨…この小説にはそんな不吉な表現が山ほど出てくるけれど、でもなぜかシャガールの絵のように、使われる色は濃い原色なのに全体には透き通るような透明感がある。大人も子どもも残酷さとともに、ガラス細工みたいな繊細で美しく光るものを持っている。赤でも白でもないロゼのワイン。あのかわいくて上品なロゼの芳しい色が、すうっと降りてきて物語の終幕を飾る。カーテンコールは深い宇宙の真空で、一波も打たぬ平静な心で聞きたい。その想いの純粋さに切ないため息が落ちる。終わらせるのがもったいない物語だった。

 
  大場 義行
  評価:A
   あれ主人公男だっけと最初は思うかもしれないけれど、すぐにこれは馴れるはず。で、馴れた挙げ句になんだか、どきどきしてしまいました。まさしく極上の恋愛小説。どうしても中山可穂描く女性たちの生き方に惹かれてしまう。というかいいのだからしょうがない。まず中山可穂の描く女性はいい。ヒステリックでわがままで、どうしようもないのだけれど魅力的なんだなあ。しかも、主人公の魅力だけで読ませるというわけでなく、端役であるマニアックな調律師、梅ばあなんかも魅力的だし、小さなエピソードであるコンサートのシーンなども鮮烈。細かい所まで行き届いている素晴らしい工芸品という感じ。恋愛小説はダメだという自分のような人でも、この中山可穂はベツバラなはず。

 
  北山 玲子
  評価:C
   人生を飾らず、ストレートに生きているゲイの照ちゃんの存在が、この息詰まるような小説に涼しい風を送ってくれる。ありがとう、照ちゃん。あなたがいなかったら読破することはできませんでした。主人公・響子の恋人に対する想いがあまりにもまっしぐらで、重すぎて。おまけに耽美な雰囲気溢れる文体がどうも肌に合わなかったし、登場人物たちの職業がカタカナばかりでいかにもトレンディドラマのような世界だし。けど、そんなことはこの作品を語る上ではたいした問題ではない。私の好みではないけれど、家族を作っていくことの難しさと喜びが実感できる内容であることは間違いない。なによりも、いままでひとりで生きてきた響子が他人と係わり、不器用ながらも家族をつくっていく姿にジーンとくるものがあった。他人と家族を作っていくということは、いろいろと新しい発見があり新鮮な気持ちになる反面、それまでの自分がけっこう世間のことに対していかに無知だったかを自覚させられることでもある。家族とはこうあらねばならないという幻想にどっぷり浸かっている人は一読をおすすめします。少し肩の力が抜けて、気持ちが楽になるかもしれないから。

 
  操上 恭子
  評価:B
   いい話だ。手にとるたびに何度でも読み返してしまう。悲しい話だけれどお涙頂戴じゃないし、主人公響子の造形がとてもいい。登場人物達もみんな個性的で魅力のある人ばかり。同性愛の人たちや、プロのピアニストが実際にどんな風に感じたり考えたりして、どんな生活をしているのかは知らないけれど、不自然さはない。それでも、どうしても違和感が消えないのは、私も子どもが苦手だからかも知れない。最愛の恋人を亡くし、その恋人が一人で育てていた赤ん坊を遺される。恋人への愛情が、恋人の忘れ形見への愛情へと姿を変えていく様は感動的かも知れないが、「子ども嫌い」という主人公本来の嗜好が暴力的に否定されているような気がしてならない。

 
  佐久間 素子
  評価:C
   著者の小説を読むのは4冊目だが、主人公のテンションの高さに毎度ついていけない。公衆の面前でいちゃいちゃするが如きつつしみのなさ。私とあなたとの恋愛が全てで特別と信じて疑わない傲慢(特別なのは私とあなただからで、女同士だからではない。そこでひるむのは間違い)。ああ、苦手。全裸でピアノもあるしな。ただ、本作は比較的素直に読むことができた。物語の3分の1時点で、恋人が死んでしまうからだ。主人公の激しさに多少なりとも納得がいったのだろう。癇の強い主人公と、恋人の残した癇の強い子ども、血のにじむようなぶつかりあいに、死んだ恋人と、他人同然の優しい青年の手がさしのべられる。その結びつきを家族とよぶならば、それは神聖意外の何物でもないもの。

 
  山田 岳
  評価:A
   主人公が「猫背の王子」「天子の骨」とおなじ人物に読めてしまうのは、著者自身が色濃く投影されているからだろうか。<レズビアン小説>と聞いて、ひいてしまってはいけない。主人公、響子はからだこそおんなだが、意識は<男>。かつての恋人、透子への愛と嫉妬は、性的不能の男がいだくそれと何ら変らない。つまり、かつて男の純文学作家が何回かとりあげてきたテーマである。と思ったら、これは導入の<つかみ>だった。魂の死と再生を描いた傑作。

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