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  うつくしい子ども  うつくしい子ども
  【文春文庫】
  石田衣良
  本体 476円
  2001/12
  ISBN-4167174057
 

 
  石崎 由里子
  評価:B
   主人公は3人きょうだいの中学3年生の長男。その風貌からついたあだ名が「ジャガ」。
 ある日、同じ中学校に通う弟が、妹の同級生を殺した。主人公は、自分の好きな植物観察で会得した「同定と分類方法」で、弟が好んでいたビデオや本、以前に書いている作文など資料の調査を始める。一つ一つの事実を受け止め、認識して、「僕」なりの理解しようと努める姿が、細かな心理描写で描かれている。
 「今の世のなか、ぼくみたいに顔も成績もよくないのに、諦めだけよかったりすると生きていけない」と主人公は言っている。
 弟の殺人など、中学生が受け止めるにはあまりにも大きすぎる問題ではあるものの、誰しも起こりえないことではない。だが、このような問題を、ここまで真っ向から受け止め、一瞬たりとも逃げようとする姿が見えない主人公は、あまりにも優等生的な気がする。
 しかし、大人もかつては中学生だった。大人にとっては些細な問題でも、中学生という存在は、それを回避したり軽減する術を知らないから全部受け止める。あのくらい敏感だった感受性がもう一度欲しい、と感じさせてくれる作品だ。

 
  内山 沙貴
  評価:A
  弟が人を殺した。主人公はそれを自分で認め、弟を理解するために事件の真相を探る。さわやかな風はソワソワと話の中ではどこでも吹くのに、設定が設定だけにただではすまされない、大きなしこりがズンと心の底に残る。幼い頃から知っている、自分ひとりだけの大好きな場所。うっそうとした森にひっそりとした巨木が空を目指す、誰も知らない静かで木洩れ日の輝く場所。神聖な地。底に投射された、醜く歪んだヘドロみたいな、成長の澱。全てはここから始まる…。いろんな意味でおもしろい印象深い作品だった。

 
  大場 義行
  評価:B
   この本、殺人を犯した弟のセリフとか、兄の決心とか、夜の王子とか基本的にはきつい話なのだけれども、突き放しているのではなく、逆に温かい作品だった。もちろん間違いなく元になっている酒鬼薔薇事件を肯定しているわけでもなく、それでいて報道に晒される家族や子供たちに対して優しい。最初から最後まで、石田衣良の優しい眼差しを感じられて、なんだか心地よく読めた。ただ、子供が殺人を犯すのは、この本のように理由がつけられるモノなのだろうか。作者が優しいからこそこの作品は理由があるのだろうけど、現実には理由がないから恐ろしいのではないだろうか。ちょっとそう思うとゾッとしてしまう。

 
  北山 玲子
  評価:A
   殺人事件を扱っているからとはいえ、この作品はミステリではない。13歳で殺人を犯した弟を持つ主人公の成長物語だ。同じ家で一緒に生活してきた弟の信じられない犯行に14歳の兄は動揺を隠せない。しかしやがて事実を真正面から受け止め、弟の事件を理解しようと行動する。周りの大人が事件の不可解さのみを強調し一方的な見方しかしないのに対して、少年は事件を理解したいという純粋な気持ちだけで突き進む。著者はあくまでも事件を少年の視線を通して語ろうとしている。そこには大人のわけのわからないこじつけのような論理は存在しない。少年と共に事件を追い、悩み、考えようとしている姿が見えるようだ。家族を守ろうとする気持ち、傷つきながらも前進していく姿は痛々しいが、物語全体に救われていくような清々しい雰囲気が漂うのは、少年の素直な心をベースに事件が語られるからではないだろうか。文体も無駄な飾りや言い訳で綴られるのではなく、シンプルだからこそ読み手にストレートに少年の気持ちが伝わってくる。ただ、ラストの展開があれでよかったのかどうか、それだけがちょっと気になった。「池袋ウエストゲートパーク」の感動が動なら、本書は静。石田衣良は若者の心理を書かせたら今、一番うまい人だと思う。

 
  操上 恭子
  評価:B+
  実際に起こった事件をモチーフに、斬新な視点で活き活きとした物語をつくり出している。悲惨な事件を扱いながらも暗くはならず、話はテンポよく展開し、主人公にも共感できる。読んでいる時はとても面白いのだが、なぜか読後に違和感が残った。多分主人公ができ過ぎているからだろう。勉強は苦手ながら、頭は良く、しっかりした性格。14歳にして既に「自分はこれだけは得意」というものを持っていて、地道な努力をコツコツと続けていくこともできる。何があっても見捨てないでくれる友だちや教師もいる。家族だって、弟をのぞけばかなりまともだ。きっとこんなことは現実にはあり得ない、というほど恵まれている。ミステリではなくファンタジィだと割り切ってしまえばもう少しすっきりするのだろうか。

 
  佐久間 素子
  評価:B
   ここ数年、「心の闇」という言葉が便利に使われすぎだと思いませんか?本書だって、いってみれば、女の子を殺した弟の心の闇をみつめようとする兄の話、なのだが、こんな要約で本書の魅力が伝わるもんか。14才の兄の、「誰かわかってやる人がいなくちゃ」という決心の前に、「心の闇」という空疎な言葉は意味をなくす。怒りや恨みに我を失うことなく、真実を求めてまっすぐ伸びていく魂が健気でまぶしくて泣けた。夜のクスノキの下、それぞれの事情で精一杯の中学生たちは、それでも何故か軽やかで、愛しい気持ちになった。なぜ殺したか、という謎の答えはたいしたことなくて、ミステリとしてはいまひとつ。ビルドゥングスとして読んでほしい。

 
  山田 岳
  評価:A
   おなじ著者の「池袋ウエストゲートパーク」はコピーライター出身者らしい、きわだった文体だった。本書は、長編ということもあってか、ふつうの文体。となると、後発になったぶん、おなじテーマをあつかった重松清の「エイジ」より分が悪い。話がなかなかおもしろくなってくれないのにも、じれる。それでも後半になるとミステリータッチで独自色を発揮、読ませます。文章のはしばしに現れるマスコミ批判はまったくそのとおり!<いじめ>の問題も取り上げられています。

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