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  どんづまり  どんづまり
  【講談社文庫】
  ダグラス・ケネディ
  本体 1,200円
  2001/12
  ISBN-406273320X
 

 
  石崎 由里子
  評価:B
   何者にも縛られたくないと、自由を謳歌していたつもりのアメリカ人男性。数年ごとに地方新聞記者として職場を転々とし、寝たいときに、寝てくれそうな女性と寝る。そんな男が40歳を目前に、眺めていた地図上でふと目に止まったオーストラリアを旅した。
 車で5時間走っても、一台の車にもすれ違わないような人里離れたうっそうとした地で、大自然というにはあまりにも荒涼殺伐とした地に独り身を置くうちに、次第に心細くなってくる。
 そんなとき、原始人的な活力を感じさせる女性に出会う。しかも若いときたら、通常男性たるもの、よこしまな考えが・・・。
 そこからは先は、当人曰く核戦争。気がつくと、拉致されて、正真正銘の僻地で暮らす女の故郷で、新婚生活が始まっている。干乾びそうな亜熱帯、不条理な法律のもとに、独自の通貨を持ち、不思議で不気味な人的環境 社会から隔絶されたコミュニティ。そこから、必死の逃亡劇が始まる。
 最初は、安部公房の『砂の女』的なストーリーを想像したが、そこは日本とオーストラリア。日本人とアメリカ人? おどろおどろしさよりは、恐怖の中に笑いがあって、終始楽しめる作品だ。

 
  内山 沙貴
  評価:A
  天井からは日がさんさんと降り注ぎ、風の通らぬ囲まれた空間の空気は濁ったままじりじりと酸素を焼く。床には隙間から流れ込んだ赤褐色の泥が素足を汚す。絶望に打たれた彼は、それでもこぶしで壁を叩き割ろうとする。だがいくら声をあげても、隔離した外界に音は届かない。抑圧された閉塞の中で底知れぬ人間のパワーが炸裂し、彼の無為無作な人生が終わり、動き回る人間になる。冗談みたいな嘘の話だった。途中すごく心臓が早鳴り恐怖の吐息もついた。心のどこかでは笑っているのに、怖かった。本全体が、叫んでいないのがおかしく思えるような、強烈な小説だった。

 
  大場 義行
  評価:B
   このどんづまりから主人公が脱出するのか、もしくは脱出できないのか、気になって読みつづけてしまった。まさしく安部公房の「砂の女」もびっくりのどんづまり。閉鎖された空間の説明や風習というか生活様式の設定も魅力的なので、どんどん読めた。ただ、気になるのが主人公。本来ならただのヤリまくり男が、自分のせいでとんでもない事に巻き込まれる、ようするに単なる自業自得なのに、俺は悪くない、悪いのはみんな奴らだ! なんてすっとぼけた事を言ってやがる。まあ、これも魅力のうちの一つとしましょう。

 
  北山 玲子
  評価:B
   主人公のニックは自由を求めてオーストラリアへと旅立つ。束縛を嫌い、欲望のままに生きている彼が、ある女性と出会ったことからひどい目に遭う…。ひとくちにいってしまえば『ミザリー』酷暑編、といったところか。オーストラリアのむせ返るような暑さが、どうしようもない状況に陥ってしまったニックのイライラ感をさらにヒートアップさせる(真冬に読むにはちょうどいいかも)。やはりこのイライラ感を表現するには寒さより、暑さのほうがより伝わりやすい。ひとときの誘惑にあっさりと負けた男の行方をブラックな雰囲気の漂う中、滑稽に描いている。ニックがこの先どんな作戦で状況打破するのか、それが知りたくてけっこうグイグイと読んでしまった。ただ、ニックが連れて行かれた村の住人たちの印象がいまひとつ弱いのがちょっと残念。それにしてもダグラス・ケネディという作家は主人公を苛め抜くのがよほど好きとみた。本書は、『仕事くれ。』でリストラされた男をどんどん転落させていった作者のデビュー作。納得、という感じだ。軽い気持ちで彼女の実家に遊びに行こうとしている男性は読まないほうがいいかも。

 
  操上 恭子
  評価:C
  ここではない何処かへ。未知の地を訪ねてみたいという欲求は多分誰にでもある。しかし、そこに口をあける底なしの落とし穴、、、。オーストラリアの奥地という舞台設定がうまい。アメリカ人から見ればまったくの地球の裏側。イギリス人から見ても中世以来の「地の果ての流刑地」。何が起こっても不思議はない。だが英語は通じるのだ。オーストラリア人がよく怒らなかったものだと思う。だけど映画『クロコダイル・ダンディ』シリーズを見てもわかるようにオーストラリア人のユーモアのセンスって独特だからな。あまりにも荒唐無稽な物語で、読んでいる時は面白いのだが、読み終わってから「なんだかな」と思う。それでも、もしかしたら現実にあり得るかも、と思わせる怖さはある。狂ったユートピア伝説か。

 
  佐久間 素子
  評価:D
   軽い気持ちで寝た女の子が妊娠しちゃって、やむなく結婚を決めたら、婿養子に入れなんて言われたりして、しかも家に入ると舅の性格がものすごく悪かった、なんて人生を送っている人は、身につまされたりするんだろうか。わからん。これ、本当に怖いの?しかも、笑えるって?どっちもまるでだめだったが、それは私が女だからなのかなあ。主人公の陥る状況は確かに悪夢だが、それ以上ひどくならないじゃん。しかも、主人公すぐへたるし。怖がらせるならともかく、笑わせるには、やることなすこと裏目に出て、それでもなお不死鳥のようによみがえる打たれ強い主人公が必要でしょう。いや別に人の不幸を望んでるわけじゃないのだけれど。

 
  山田 岳
  評価:E
   世界中が自国とおなじでなければ気がすまないアメリカ人の海外での危機管理能力のなさを笑っているのだろうか。でも、笑えない。オーストラリアの砂漠がアメリカとは違うと50ページにわたって悪態をつきつづける主人公。そのつぎの50ページは、イケイケ姉ちゃんと出会って、脳みその隅までペニス状態。さらなる50ページは、腕っ節ではまったくかなわないのに、後先考えずに誘拐ファミリーに悪態をつく。ああ、かように救い難い主人公では、読む気力もどんづまりを迎える。

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