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  ガラティア2.2  ガラテイア2.2
  【みすず書房】
  リチャード・パワーズ
  本体 3,200円
  2001/12
  ISBN-4622048183
 

 
  石井 英和
  評価:E
  結局、みせかけばかりのハッタリ小説、それだけのものではないかなあ。ポストモダンのなんのというセリフも出てくるが、著者の作家的個性のど真ん中に鎮座ましましているのはむしろ、何かというと些事にウンチク傾けてみたり、古典を持ち出したり詩を詠んでみたりの、古色蒼然たる19世紀的事大主義だ。その自覚がないままに新しがってみせる著者の姿勢が、作品を非常に気恥ずかしいものにしている。しかも、「人工知能」などという古ぼけたテ−マを取り上げ、何か新しい視点の提示があるかと思えば何もない、旧態依然たる筋運び。さらに、延々と続く自己陶酔的な長広舌にもうんざり。よくみんな耐えられるなと思うのだが、帯に麗々しく謳われた「天才作家」なる牽句に反応するような感性の持ち主なら、著者の事大主義やハッタリに共鳴できるって仕組みなのでしょう。

 
  今井 義男
  評価:D
  どちらかといえば競馬よりも人工知能のほうが数倍そそられる。ツボをくすぐるタイトルもよい。当然期待もふくらむというものだ。しかし日頃、神仏を軽んじているせいか、世の中ままならない。なぜ競馬があんなに面白くて、人工知能がこんなに退屈なのだ。読みづらい文章で延々、助走を見せられたかと思うと、盛り上がりもなくぷっつりと終わってしまった。え、ほんとうに? これでタイムオーバー? むしろこれからではないか? 疑問符は果てしなく浮かぶ。作者が《ヘレン》とリチャードに命じた哲学的芝居にどれほど高尚な意図があるのか、私にはわからない。普段、衒学趣味には寛容なつもりだが、これは疲れた。読後、『ダイヤモンド・エイジ』がとてもシンプルな作品に思えてきた。上には上? があるものである。

 
  阪本 直子
  評価:AA
  いやあ失敗した。同じ作者の『舞踏会へ向かう三人の農夫』を先に読んどくべきでした。作中でばんばん言及されるんだもん。しかも前々から面白そうな本だと思っていたというのに。教訓。読みたいと思った本はすぐに読みましょう。
 大学で人工知能をつくる。言ってみればこんな話だが、本当はそうじゃない。コンピュータや生理学や言語学やその他諸々の専門用語、そして文学作品からの引用が奔流のように襲ってきますが、素人も門外漢も心配ご無用。そんなの何も判らなくたって読めます。宮沢賢治が書く鉱物資源の名前のように、ここでは「ニューロン」も「シナプス」も詩の言葉だから。
 読書すること。思考すること。記憶を辿ること。愛情を抱くこと。全編これで尽きている。だからといって早合点しないように。「後ろ向き」でも「現実とは無縁」でもないからね。
筋を追うより、まず味わうべき本です。すぐ終わる本に飽き足りない活字中毒者のあなたへ。

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