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  【マガジンハウス】
  江國香織
  本体 1,400円
  2001/12
  ISBN-4838713177
 

 
  石井 英和
  評価:C
  そんな奴はいねえよ。この種の小説に出てくる「男のコ」を見るたび、そう呟いてしまうのだ。物語には「男」として登場しているのだが、その感性の基本の所は、あくまでも女性である。皆、付け髭を付けた宝塚の男役のようだ。この作品に出てくる、年上の人妻と恋愛している大学生にしても同じで、恋人への「思慕」や「忠誠」や「嫉妬」の有り様等々、女性のそれとしか思えない。が、それで構わないのだろう。はからずも「宝塚の男役」などと言いだしてしまったが、あれと同様、女性の願望する「理想の男との理想の恋愛」を、あくまでも女性の立場のみから描き出した、これは妄想物語なのだから。こんな男たちとこんな風に愛し合い、憎み合ったら、どんなにか心地よいだろう、と。その妄想が、現実を踏み越えたとてつもない地平に至ってくれれば、こちらも楽しめるのだが。

 
  今井 義男
  評価:B
  この作品の都会的雰囲気はきらいではない。淡々とした会話も耳触りよく、とても<いま>の感触を的確に捉えている。どこか日常から遊離したような低温度の人間関係は、この種の小説では定番中の定番。狂おしい情念も、どろどろしたせめぎ合いも似合わない。あくまで軽く、物憂げに時は刻まれる。これは皮肉でもなんでもない。見当はずれもいいところかもしれないが、私はこの一見無味乾燥な小説空間は『野菊の墓』や『伊豆の踊り子』にみられたリリシズムが、姿かたちを変えて現れたもののように思えてならないのである。桎梏ゆえに届かない幸福と、桎梏のなさゆえにたゆたう幸福は、実は同じものではないのか、と一人意を強くした次第である。平日の深夜にそんなことしてる場合ではないが。ところで、またもや続出する渡来楽曲の連呼。これは流行り病の一種なのかもしかして。

 
  唐木 幸子
  評価:C
  私はそもそも、若い男と年上の女、という構図の恋愛小説は好まない。何故なら類型的な描かれ方が多く、最後に女が金切り声を上げる、もしくは黙って身を引く、という展開に辟易してしまうからだ。もっと違う深い信頼関係、心の交流があっても良いんじゃないか、と思うのだ。そういう点で、本作の場合、私の嫌う類型とは異なる特性を持った主人公達が描かれてはいるのだが、何しろ、2組の男女の年齢差が20前後、ダブルスコアである。とても信頼、理解、心の交流などを求めることは出来ず、ひたすら互いの存在は即物的もしくは謎のままストーリーが展開する。2組の男女のうち、透と詩史よりは、耕二と貴美子の方が受け入れやすい。特に耕二が、寝る時間もないハチャメチャの忙しさの中にあっても、全ての厄介ごとに対応して行動しようとする姿には、若い男の真実、美点をキラリと感じた。

 
  阪本 直子
  評価:C
  行動能力がありすぎる耕二と、いつもぼんやりしている透。19歳の二人は、それぞれ年上の人妻とつき合っている……。
 そう、所謂「対照的な友人同士」モノです。対照的な二人は恋愛の仕方もやっぱり対照的で、という、まあ有りがちなんだけれども面白い。色模様よりも、二人の友人関係がね。相手に対する認識は、両人とも微妙なところで外してる。そりゃそうだ、何しろ殆ど共通点がないんだもの。お互い、自分とは随分違う相手の言動や考えに時々驚きながら、でも好ましく感じてる。熱血でもなければ損得ずくでもなくて、これこれ、友達ってこういうもんだよなあ、と思ったのだ。初めは。
 終盤、ちょっと唖然としてしまいました。な、何でこうなる訳? 急転直下、片方はこんなにも思い通り。で、もう一方はこんな憂き目を見て……釈然としない!
 よって、ラストで急遽C評価決定。何かすっごく後味悪いよ、これ。

 
  谷家 幸子
  評価:A
  恋愛小説は苦手だ。
ということを、何度もこの欄で書いてきた。今も基本的にはそうなのだが、しかし。
今、この世の中で最も苦手な恋をしてしまってるもので、この小説、完全にひとごととして読めない。
もう、「自分のこと」なので、物語に入りまくり。
というわけで、非常に面白かったのは紛れもない事実だけど、こういう精神状態じゃないときに読むとどうなのか、現在の私には考察できないのだった。すみません。
現在つらい恋愛中、のかたにはおすすめ。安定期に入った穏やかな日々をお過ごしの方には、鼻で笑われるかも。

 
  中川 大一
  評価:D
  透と詩史が、メシ食ったりセックスしたりする。耕二と由利が、メシ食ったりセックスしたりする。耕二と喜美子が、メシ食ったりセックスしたりする。以下同。まさかそんなことはないが、基本的にその繰り返しのような印象を受ける。俺と同じ年格好の中年男がまともには出てこないから、拗ねて言ってる部分もちょっとあるけど。肩入れする人物がいないとつらいぞ恋愛小説は。とにかく。タバコで言うならマイルドセブン・スーパーマイルド(そんなのないって)。あまりにも軽いノリ。雑誌連載の時はこれで十分楽しかったのかもしれんが、単行本としちゃキツイぞ。音楽ならBGMにできるし、テレビも別の用事をしながら見られる。でも本ばっかりは、それをメインに据えざるをえないんだからねー。

 
  仲田 卓央
  評価:B
  ものすご〜く、ヤな話である。透と耕二という二人の少年(といっても二人とも大学生なのだが)と、彼らが恋した女の子たち(といっても人妻だったり大学生だったりするのだが)の日常を描いた物語である。しかし、こいつらがもう、物凄くヤな奴らなのだ。女サイドの無神経さと自己正当化に満ちたセリフと行動も激しく腹立たしいが、透と耕二の「自分のやってることはトクベツ」「世の中バカばっかり」という鈍感さと自己陶酔っぷりにも激しくムカつく。なんでこんなに腹立たしいのか。良く考えてみれば簡単で、それは「自分もそうだった」からに他ならない。ハタチの頃を思い出してみれば、「自分だけがエラ」くて、「自分のやってることはトクベツ」だと私もしっかりと思い込んでました。
 こうやって自分が二十歳の頃の「恥ずかしさ」を思い出せること、そしてこれだけ「ヤな話」でありながら、ちっとも「ヤな作品」になっていないことはやっぱり人気作家だけが持ち得る芸なのです。

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