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  ちょん髷とネクタイ  ちょん髷とネクタイ
  【新潮社】
  池内 紀
  本体 1,800円
  2001/11
  ISBN-4103755032
 

 
  石井 英和
  評価:A
  いくつかの時代小説の背景と、それらの著者たちとその時代を、まるで三角測量のように俯瞰し、彼らが描こうとしたもの、彼らにそれを描かせたものが一体なんだったのかを検証した書だ。読んで行くと、取り上げられた各作品世界の一つ一つや作家たちの相貌が、非常にリアルに立ち上がって来て、その感触が新鮮でスリリングだ。白眉は円朝を論じた「真景累ケ淵を歩いてみよう」だろう。作者の想念に寄り添うようにして、希代の怪談の底にまで降りてゆく著者の丁寧な考察に手に汗握らされる。また、日本文芸史に屹立する、偉大なる混迷の山塊とも言うべき「大菩薩峠」の解題に挑んだ章は、困難な解析の末が一つの日本論として結実して行く過程に、息を呑まされる。著者の筆に触れることにより、書棚の中の本たちの一冊一冊に、ふたたび血が通って行くようだ。

 
  今井 義男
  評価:A
  いきなりだが『大菩薩峠』は相当なシロモノだそうである。本書では他にも色々すごいものが紹介されている。評価の高い時代小説だからといって読者は油断してはならない。プロの作家がいい加減なものを書くはずがないという刷り込みは、とりあえず捨てたほうがよい。意外にも時代小説はトンデモの巣窟だった。この出色のエッセイ集は、藤沢周平や松本清張などの精緻な作品についても言及しているが、最大の功績はやはり、祭り上げられた大作・名作の正体を白日にさらしたことだ。しかしてそれらの実体は埃と紙魚にまみれた壮大な無駄としかいいようがない。どなたか百名山を踏破する覚悟でチャレンジされてはいかがだろうか。著者には次回作でぜひ斬りこんでもらいたい小説が二つある。ともに国民的ヒーローを生み出したが、あまりの人気に私は名前を出すのもためらわれる。さて、誰と誰?

 
  阪本 直子
  評価:A
  司馬遼太郎と藤沢周平を我らの手に! 「本の雑誌」本誌の三角窓口でそう叫んだことがある。政治家や財界人が何かというと司馬作品を引き合いに出したがるのにうんざりしていた(彼等は大概、断言してしまうが『坂の上の雲』しか読んでない)。なぜか司馬作品と絡めて語られる自由主義史観とかいうものも謎だった。批判する人達は、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いといわんばかりに、既に故人で反論のしようもなかった司馬氏を罵倒しまくり、そして「藤沢周平の方がよっぽどエライ」みたいなことを言いたがった。
 冗談じゃないよ。二人とも、面白い小説家以外の何者でもないじゃないか!
 という訳で、この本です。藤沢・池波で始まり清張・司馬で終わる人選は至極真っ当なれど、言及される作品の選び方は只者じゃない。時代ものを読んで「あるべきリーダー像」を考えたりなどは絶対にしないあなたに、力強くお薦めします。

 
  谷家 幸子
  評価:B-
  私の時代小説との接点は宮部みゆきのみ。
なので、自分の愛読している小説がどう語られるかという楽しみはなかったが、それなりに楽しく読んだ。
少しどうかなと思ったのは、エッセイのもととなる作品の文と本文とが渾然一体としているところが多く、どこからどこまでが作家の視点で、どこからどこまでがエッセイの筆者の視点かがわかりにくかったことだ。少なくとも私はしょっちゅう迷った。
そこに目をつぶれば、作家やその作品の背景を知る興味深い読み物だと思う。
だけど、この人選だと、もともと時代小説を読む人しか手に取らない気がするなあ。

 
  中川 大一
  評価:B
  好きな本ばっかり読んでると、そのうち倦んでくる。何を読んでも同じに思える、壁に当たった感じ。そんな時頼りになるのが、「WEB本の雑誌」の読書相談室であり(*^。^*)、本書のような読書案内エッセイだろう。本好きにはガイドされることを嫌うムキが多い。でも、たまに碩学の声に素直に耳を傾けてみ。そんなお説教くさくないって。論評してる作品への愛情が背後に流れ、その話しを読んでみたくなる。読者の知らない事実を開陳しつつも嫌味じゃない。わが新刊採点も願わくばかくありたいものだが、とてもとても……。おりょ? 佐久間象山が斬殺された場所って、京都は三条木屋町じゃなかったっけ? 「祇園近く」と言うにはけっこう遠いけどな(こないだ、あのへんで飲み歩いたからやけに詳しいのだ)。

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