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  緋色の時代  緋色の時代
  【小学館】
  船戸与一
  本体 各1,800円
  2001/12
  ISBN-409379104X
  ISBN-4093791058
 

 
  石井 英和
  評価:D
  アフガン侵攻時のソ連兵士たちの物語りに始まり、荒涼たる今日のロシア黒社会の描写が延々と続く。そして・・・どうやら内容はそれだけと見当がつき、こちらの読書欲もすっかり荒涼としてしまったのだが、それでも小説はまだまだ続くぞ、活字2段組上下2巻。いや、こちらも採点員としての使命を帯びているのだから、諦めずに読みましたよ最後まで。が、とにかく単調で退屈で嫌になってしまった。ありがちな暗黒街話が同じような調子でず−っと続くのだ。ひたすらロシア裏社会事情の紹介が、この種の小説特有の力みかえった文体で、ドラマとしての面白みもメリハリもなく、ただ詰め込まれている。この、ドヨ−ンと淀んで走り出さない感じ、これも例の「ノワ−ル」の一種なんだろうか?もう、いい加減にしようよ。帯に「死者累計800人!」とあり。どうやら自慢らしい。

 
  今井 義男
  評価:E
  また内容以前のことを書かねばならない。どうにも気になって仕方がないことがある。全編にわたって執拗に繰り返される会話表現がそれである。作者の困った癖というより、行を埋めるためのマニュアルではないかと勘ぐりたくなるぐらい頻度が高い。加えて、台詞回しがおそろしく一本調子で、話し手を入れ替えてもほとんど差はない。いくら性格を書き分けても、これでは無意味だ。出自の異なる多くの人物を配しながら、誰一人として顔が見えてこないのはそのせいだと思う。暴力や殺人がぎゅうぎゅう詰めの割に、プロットは平板で、それもそのはず、どこかで見たような景色とやたらダブるのだ。帯でネタ元を明かすとは太っ腹である。すべてはアフガンからはじまった? いやいやアフガンでなくともはじまったろう。この小説の主眼はギャングどうしの派手な殺し合いにあるのだから。

 
  唐木 幸子
  評価:A
  『酷く、酷く、酷く!、どこまでも酷く!』と復讐に燃えたマフィアの領袖は殺人を命じる。相手は罪のない女なのに。また、ある男は邪魔になった女を情交の果てに絞殺する。その時の表現はこうだ。「絞めた、絞めた、絞めた。(途中略)ぽっかり開いた口から薄桃色の舌がだらりとはみ出して来た」 よく書くなあ、こんなこと。船戸与一の殺人シーンの表現力には本当に頭が下がる、ってそんなものに頭を下げてどうするのだ。でもページをめくる指は止まらない。最初はロシア版ゴッドファーザー風の話かと思ったが、どちらかというとセブン生首系だ。殺すことも殺されることもなんとも思っていないアフガンツィやサディストが腕を奮いまくる。そして最後はマフィア同士の抗争プラス腐敗した組織犯罪が交錯して、いったい誰が生き残るんだという緊張の大殺戮へと収束していく。ところで数箇所にオサマ・ビンラディンの名が本筋とは関係ないところで出てくる。これはあの事件後、単行本化に合わせて加えられたのか、それとも連載時から書かれていたのか。前者ならあざといし、後者ならやっぱりすごいぞ、船戸与一。

 
  阪本 直子
  評価:EE
  いやはや、読みづらい文章でした。「〜したわけじゃない」なんて表現を地の文で使われるとちょっとなあ。「ではない」って書けよ。会話文は倒置法が多過ぎ。「持ってるのか、乾いた煙草?」「盗聴されてると思うか、ここの電話?」「携帯してるな、サングラス?」……全編これだよ。
 と、細かいことに文句をつけるのは、内容がいただけなかったからに他ならない。上下巻合わせて900頁以上使って、破壊と殺戮、がポルノ小説の濡れ場並に延々繰り返されるだけ。しかも文章に緊迫感がなくて一本調子だから、事の重大さにふさわしい迫力も生まれない。自分は根っからのサディストだとか何とか言って悦に入ってる連中が、ただもう見るに耐えないだけだ。
 下巻の帯に「死者累計800人!」とある。これが煽り文句なんだから呆れるが、「後記」には更に呆れた。作者本人が何と言おうが、私には意図的な際物狙いの本としか思えない。

 
  谷家 幸子
  評価:C+
  冒険小説と呼ばれるものをあまり読まない。
これは、この欄で再三言っているように恋愛小説が苦手、といっているのとは少し違っていて、単に私の中の優先順位の問題だったのだが。
しかし、これを読んでみてもしかしたらやっぱり苦手かも、と思ってしまった。
血で血を洗う犯罪者グループと腐敗した政治家や官僚しか存在しないようなこの世界、リアルではあるんだろうけど、私にとってはSFよりも現実味がなくてどうも乗り切れない。犯罪者や賄賂まみれの官僚以外の、市井のいち庶民の視点がどこかに欲しい。
あと、文体がなあ。ある意味、乗れなかった理由の一番はこれかも。会話で多用される主語と述語の逆転、地の文でこれまた多用される「〜きゃならない」、「〜じゃない」(これは口語体ってことなんですか?すみません、よくわからない)、どうにも違和感が拭えなかった。
でも、ひとに面白かったかどうか聞かれたら、たぶん面白かったよって答えると思う。それがちょっと不思議。

 
  中川 大一
  評価:A
  船戸与一の小説世界を貫く一本の太い柱。それは、ぎりぎりまで抑えつけられた者が上に向かって炸裂させる怒りの連鎖。必然的に舞台は第三世界となり、主役はゲリラとなる。ところが本作は、基本的に犯罪集団同士の抗争がテーマ。ヨコ関係の戦いだね。なーんだ、これなら単に、異国情緒をまぶしたヤクザものじゃないか。それでも。これほどの話し、他に誰が書けるというのか。悪人しか出てこない船戸の物語は無論フィクションに過ぎない。なのに嘘っぽくないのは、私にはこいつらが、あらゆる虚飾を剥ぎ取った人間本来の姿だと感じられるから。それに、ここで描かれた麻薬の流れは現実に十分ありうるだろう。最後に、版元に賞賛と苦言を一つずつ。膨大な取材を要するこんな話し、週刊誌を抱える大手でないと成立しなかったはず。えらい。一方、『模倣犯』の時は黙ってたんだけど、誤植が多いぞ。銃をぶっ放したあと立ちこめるのは、「消炎」じゃなく「硝煙」だってば!

 
  仲田 卓央
  評価:B
  おお、この時期にアフガニスタン! と思ったのだが、メインの舞台となるのはロシア。上巻の帯には「船戸文学史上最大の殺戮と流血のクロニクル」という素敵な惹句、これが下巻となると具体的になって「死者累計800人!」となる。そういう問題でなかろう、と思うのだが。帯で力めば力むほど、なぜか低予算のVシネのパッケージみたいになってしまうところが切ない。しかしこの小説、見事である。なにが? 人間の壊れっぷりが。ポイントは、登場人物の大半が「すでに徹底的に壊れてしまって、何がルールかすら分からなくなってしまった人間」であるということ。アウトロー、とも呼べない人種。壊れているからこそ、簡単に殺せる。だから残虐で血腥い描写のオンパレードであっても、乾いた雰囲気が漂う。とにかくバンバン人が死ぬので、何人死んでも怖くはないし、後半になるとそれに慣れてしまって、贔屓にしていた登場人物が死んでも、あ〜あ、やっぱりこの人も死んじゃったと思う程度になってしまう。戦争を体験したことのない私は、それが怖い。

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