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  オールド・ルーキー シャドウランド
  【創元推理文庫】
  ピーター・ストラウブ
  定価 (各)882円(税込)
  2002/12
  ISBN-4488593038(上)
  ISBN-4488593046(下)
 

 
  高橋 美里
  評価:D
   少年たちは規律の厳しい私立学校へ入学する。この物語はそこから始まっています。一人はマジックの達人とも言えるほどマジックに長けていて、一人はマジックにとても興味を持っていた。少年たちは、まるで引き寄せられるように出会います。ある日学校で起こった盗難事件をきっかけに、学校では不思議なことが起こるように。少年たちの学校生活を描いたファンタジーなのですが、若干訳が読みにくい感じがしてなかなか世界に入りにくい感じがしました。設定も描写もすごいおもしろかったのに、世界に入り込めないファンタジーはちょっと苦しいです。

 
  中原 紀生
  評価:B
   村上春樹さんの『海辺のカフカ』の主人公がそうだったように、15歳の少年は特別な存在だ。善悪を兼ね備えた父親の勢力圏からの脱出や、同年輩の少年との友情と裏切り、そしてミステリアスな少女との出逢いと記憶の中での性的一体化。シャドウランド(影の国)というのは心の世界のことで、だからこの作品は、少年が大人になっていく通過儀礼を描いた物語である。──いや、そんなありきたりな読み方はつまらない。シャドウランドでは想念が物質化し、時間が融解する。ひらたく言えば、思ったことが現実になり、生者と死者が語り合う。それは言葉で書かれた物語の世界と同じことで、だから魔術師とは作家そのものだ。これは作者と登場人物の闘いの記録なのだ。──いや、そんな穿った読み方もひねくれている。これは純粋なファンタジーで、ただただ魔術師の手管に煙に巻かれればいい。その上で、読者(魔術師の弟子)は、この作品が自分にあうかどうかを見極めればいいのだ。

 
  渡邊 智志
  評価:B
   奇妙な雰囲気を楽しむ話。視点の移動と過去と現在の描写の入れ子に馴染めず、文体についていくのに苦労しますが、コツを掴むとこのスタイルはまあまあ面白い。ちょっとずれた感覚の浮遊感を味わえます。初めは「マジック」の意味を「手品」と「魔法」と別々に考えてしまったので、タネのある(?)トリックに幻惑される主人公たちの反応がずいぶん大袈裟すぎるような気がしました。その辺の違いが最後まで違和感は残るのですが、自由な空想のなせるワザ/ファンタジー世界の出来事、と割り切って考えるとけっこう定型に沿った普通の話に見えてきます。でもストーリーテリングは下手ですね。わざと作ったヘンテコさなのか、単に言葉を羅列しただけなのか、判断が分かれるところでしょうが、技量不足のように思えました。騙されたふりで楽しむのが健康的かな。しかしまあ、物語の中の男子校はどうしてこんなに性格のねじ曲がった生徒たちが揃っているんだろう…!

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