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いつか記憶からこぼれおちるとしても
いつか記憶からこぼれおちるとしても
【朝日新聞社】
江國 香織
定価500円(税込)
2005/11
ISBN-4022643544
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  北嶋 美由紀
  評価:★★★★
 6編の連作短編集である。多少視点の異なるものもあるが、主人公はみな私立女子高に通う17歳のクラスメート達である。一見のんびり高校生活をエンジョイしていうようでいて、それぞれが「何か」を内に秘めている。クラスの中では人気者であったり、「浮いた存在」であったりしながら群れているが、彼女達は「個」を持ち、自分自身の中に、あるいは家族の中に「悲しみ」をかかえて若いひとときを送っている。思春期、多感な年頃、だけでは切り捨ててしまえない何かに動かされる少女達の感性が江國流の言葉で表現されている。
「飴玉」がよかった。体が透明で骨が透けて見える熱帯魚を「公明正大だ」と思う主人公が「公明正大」を破壊するに至る複雑な心情をもてあましつつ「窓からはろくなものが見えない」教室にすわる姿が目に浮かぶ。いくつかの話が席がえのシーンで終わるが、新しい席は彼女達にとっていくばくかの気分転換になってくれるのだろうか。

  久保田 泉
  評価:★★★★
 江國香織らしさが、たくさんつまった一冊。短篇は、彼女の物語の持つ雰囲気と魅力を一層際立たせる気がする。都会の、経済的には恵まれた子女の多い私立の女子高校に通う、女子高生たち。若い彼女たちの日常と、ときには鋭利で、あるときは老成したような彼女たちの心が混ざり合い、甘くてほろ苦い六つの物語が紡がれていく。彼女たちは、親をはじめとする、自分たちのまわりのすべてとの距離感をはかりかね、同時に、そんなことは分かりきっていて、途方にくれているみたいに思う。取り分け彼女たちが、同性として、母親を見つめる目は鋭い。“ママはお金をつかうのが大好きだ。お金をつかうのは、ママの復讐なのだと思う。幸せじゃないから。”そして彼女は、ボーイフレンドからの他愛もない贈り物が嬉しくて、嬉しいほど自分の孤独を知ることになる。著者はひらがなを文章で実に効果的に使う。彼女たちの幸福と不幸を通し、あざやかな江國節がこぼれ出す物語。

  林 あゆ美
  評価:★★
 人の生き方には幅があり、お金をもっている人とそうでない人は雲底の差がある。江國香織さんが描く世界は、とりあえず表面的には恵まれているけれど、精神的にはそうではなく見える。
 本書は6つの短編がおさめられ、そのいずれも10代の女子高生の心が描かれている。その年齢だからこそもつ独立心と孤独と残酷さ。そういうのを描かせたら江國さんはとっても上手だ。スノッブになりすぎないようぎりぎりなところでとどまり、親しみやすい言葉をとりまぜながら、屹立した世界。この世界にはまれないと、どうしてこの本を読むのかしらという気持ちになってしまう。なので、こういう世界にひたりたい時と意識的になった時が読みどきなので、それをはずすとちょっと足踏みしてしまう。

  手島 洋
  評価:★★★
 6編の物語が入った短編集。面白いのはすべての作品の登場人物の女子高生が同じ学校の生徒たちで、しかも同じ登場人物や同じ場面が何度も別の作品にも登場してくるところ。最初の短編では意味が分からなかった場面が後にまた登場して、その理由が分かったりする。もうひとつ面白いのは主人公が変わると他の登場人物に対する見方や評価もすっかり変わってしまうというところ。ある友人から見れば、明るくて性格のいい女の子も、他の友人からは何も考えていない頭の悪い女の子だったりする。確かに実際、同じ光景を見ても人の評価というのはそうやって異なっているわけです。それが、人間の面白さでもあり、哀しさでもあるわけで。 
 しかし、江國香織が描くと、東京や田舎の風景が上品で落ちついた空間に見える。栃木出身の私から見た宇都宮はこんなオシャレじゃないんだけどな。東京とそんなに変わらない感じがしてしまう。まあ、それも、ものの見方の違いということなんでしょうか。そんなオシャレな目をもってみたいものです。

  山田 絵理
  評価:★★★★
 女子高校に通う一人一人の、孤独で傲慢で怠惰で残酷で、幸せと不幸せな時間を描く。
 私事だけど、私は女子校というものに通ったことが無い。しかも高校は私服だったので、いわゆる女子高校生気分を味わうことはついぞなかった。自分の思い出とはかけ離れた世界の描かれた本書を、別の意味でふむふむしながら読んでいたのである。
 江國香織独特のふわふわした文体で書かれたお話は、始まりや結末がはっきりせずとりとめなく広がってゆき、読んでいてとても心地よい。なのに女の子たちの本音というのか毒の部分が、さりげなく書かれていて、ドキッとする。
 街中で見かける制服を着た女子高生のグループを見るたびに、彼女らは世界の中心にいて傍若無人にふるまい、でもそれが許されるほどの若さときらめきにあふれているとうらやましく思う。想像するしかない彼女たちの個々の想いを、こんなふうに小説で読むことができてうれしい。

  吉田 崇
  評価:★★★
 多分、その辺にいる普通の女子高生達の日常的な物語である様な本作品、であるから、立派なオトナの僕としては、へぇだとか、そうそうだとか、んなわきゃねーよだとかという激しい反応を示す事もなく、うん、なるほどと思っただけ。判りにくいたとえで恐縮するが、小洒落た雰囲気のケーキの写真とその隣に分量だとかの細かく説明してある小さな文字群を見て、はて、で、この完成品は美味いのかい?、そんな疑問に囚われている様なそんな感じ。複数出てくる女子高生、一人一人に名前はあるものの、タイプの分類くらいにしか感じられないそれらは、だから、いかにもありそうな故に、僕にとってはリアルでない、随分回りくどい言い方になってしまったが、そういう事です。で、最後の一作だけが毛色が変わっていて、ここにだけ、著者の視線が感じられます。多分、連作小説としてのまとまり感の要はこれなのですが、いかんせん、語り手が何か気持ち悪くて、読後感はげんなり。
 僕は個人的には、女子大生の方が好きです。