年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
トワイライト
トワイライト
【文春文庫】
重松清
定価660円(税込)
2005/12
ISBN-416766903X
商品を購入するボタン
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  久々湊 恵美
  評価:★★★
 この作者の書く子供が好きで、大体の作品は読んでいるのだけれど今回も素敵な子供達が登場します。とはいっても、今は40歳になってしまった元子供達。
登場人物は、皆ドラえもんにでてくる登場人物のあだ名がついています。私は世代からは少し外れるけれど教室にはドラえもんになぞらえられる様な同級生がいたように思います。
未来が果てしなく広がっていた子供時代に比べ、未来が見えなくなってしまった現在。
今の自分にも当てはまるようで、読んでいても息が苦しくなりました。
そういえば子供の頃は、人類は火星に移り住むんだって信じていたしなあ……。
なんだかすっかり弱ってしまっている大人達の疲労しきった生活を読んでいると思い切り暗い気持ちにはなってしまうのですが、それでも子供の頃に想像した大きい可能性ではないけれどささやかな可能性のようなものが感じられました。
大人であるからこそ得ることのできる希望のようなものが提示されているからかな。

  松井 ゆかり
  評価:★★★
 どうしてみんなそんなに重松清が好きなのか。いや、これは純粋な好奇心から問うてみたいのである。
 私も重松さんの力量そのものに疑問を呈しているわけではない。読みやすい文章や、泣かせどころを心得た設定、巧みな人物描写…3つとも揃った作家はそうそういない(1つもない作家だっている)。
 でも、“小学校の卒業記念のタイムカプセルを開封するために集まったかつての同級生たちのひと夏の物語”というあざとさぎりぎりの設定は許せても、私はモデルがいるかのような嫌キャラには寛大になれない。徹夫・真理子夫妻も嫌だが(暴力は言語道断だし、育児放棄も無遠慮も癇に障る)、実はいちばん嫌なのは克也だ。しっかり者の奥さんと素直な息子がいるのに、何をふらふらしとるか!「みんなたいへんなんだよなあ」と身につまされるだけに(すなわち重松さんの筆力によってリアルに描かれているだけに)、よけい気が塞ぐ。とはいえ結局、重松清のうまさに難癖付ける自分がいちばん嫌なやつなのかなあ…。

  西谷 昌子
  評価:★★★
 26年ぶりに小学校の同級生と再会し、埋めていたタイムカプセルを開ける。天才と呼ばれていた少年はリストラの危機にさらされ、ガキ大将だった少年とクラスのアイドルだった少女は冷え切った夫婦生活を送っている。物静かだった少女は、有名な予備校講師として名を馳せたものの、今はかつての人気も出ず、独身生活に不安を抱いている。輝かしいニュータウンだった街は、住む人も少なく寂れてしまった。そんな彼らが、太陽の塔に象徴される、あの頃見ていた輝かしい未来を突きつけられてしまう。特異な感情をではなく、誰でも体験がありそうな感情を描き、どこにでもいそうな「普通の人」がドラマを織り成すのがポイント。ただあまり共感できなかったのは、自分がまだ若いせいだろうか、それとも小学校時代にバブルが崩壊し、輝かしい未来を無条件に信じられなかった世代だからだろうか。

  島村 真理
  評価:★★★
 子供の頃、21世紀は進歩と滅亡の不安が渦巻きながら、ワクワクするような希望の光があったような気がする。
登場人物たちよりは少し若い世代の私。よく知っているアイテムの登場には懐かしみつつも、過去と現在との隔たりに戸惑わされた。あの頃の夢を叶えられた人はどれくらいいるのだろう。現実はそんなに甘くもないし、どこかで折り合いをつけなければいけない。そんな現実を再確認させられるのは、不毛な切なさを感じるが、この小説はもう一度夢をみるチャンスを与えてくれる。
26年ぶりにタイムカプセルを開くために再会した同級生たちは、実際いろいろな悩みを抱えている。止まった時が動き出すように、過去を一気に飛び越えて再会した彼らは奇妙に交錯していく。40歳で人生が黄昏れるにはまだ早いよ!負けんなよ!という優しい励ましが含まれているような気がした。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★
 人生の岐路に立つ登場人物たちがタイムカプセルを開封するために26年ぶりに母校の小学校に集う。笑顔と歓声の再会。でもそれぞれの人物が、実はリストラに直面していたり、家庭が崩壊していたり。彼らは再会を機に、遠い過去を振り返りながら、見失いかけている幸せを改めて探しなおそうとする。  
 ところで、小学校時代の友人に会ったとして、何の抵抗もなく相手と当時のあだ名で呼び合うなんてことができるだろうか。その上あだ名がドラえもんのキャラそのままだったとしたら。自分にはまず絶対無理だ。恥ずかしすぎる。
 で、四十を目前にしても互いに「のび太」「ジャイアン」なんて呼び合うような登場人物たちが繰り広げるドラマは、みじめで、切なく、そして救いがたく格好悪い。読んでいて腹がたった。しかし腹が立つほど感情移入して読んでしまったのも、自分が彼らと同世代だからだろう。

  荒木 一人
  評価:★★★★★
 夢見る頃を過ぎても…。 そう!あの頃みていた21世紀の未来は、もっと希望に満ち溢れ、輝いていた。「1970年代型少年少女」には、堪らない物語。
自分の想像出来るより以上の、先の事を未来と呼ぶのだろう。私は、まさに重松氏や主人公達と同時代を生きて来た人間である。大阪万博、ドラえもん、あげ連ねれば切りが無い、眩しい未来。
煮詰まり、苛つく、人生の半分を過ぎた折り返し地点、39歳の主人公達。小学校卒業記念に埋めたタイムカプセルを26年ぶりに開けるために集まった同級生。トワイライト、黄昏、誰そ彼(たそかれ)。人生の夕闇が迫りだし、楽しさも苦さも知っている年代。何処にでも居そうな普通の人達の、普通の人生。彼らの過去は?現在は?未来は?
現実は、肉体の衰え、精神の廃退。後ろを振り向く気が無くても、つい懐かしみ思い出す過去。突き付けられる現在の現実。見たくも無いのに、見せられる未来と言う名の老後。

  水野 裕明
  評価:★
 40歳を前に、小学校の卒業記念に埋めたタイムカプセルを開けるというので集まった同窓生たちの、タイムカプセルオープンからの1週間を描いた長編。リストラに合いそうなソフトウェア会社の課長補佐や、同窓生同士で結婚しながら家庭崩壊・離婚に面している夫婦、人気が落ち目の予備校の有名講師などが集まる。さて、タイムカプセルが開けられて、隠されていたそれぞれのトワイライトがあからさまになっていくのだが……。確かに“ある、ある”とは思うエピソードなんだが、40歳前でたそがれるのは、あまりに早すぎないか?と思えて、読んでいて共感できなかった。描かれているそれぞれの事情──リストラや家庭内暴力による家庭崩壊、離婚──はあるにしろ、大なり小なり“自業自得”という気もして、なおさら引いて読んでしまった。作中、杉本という結婚もせず重い肝臓病の同窓生が、家庭崩壊・離婚の危機にある友人に「家族のため、子どものため、奥さんのせいといいながら、実は自分のためにがんばって、自分のせいで失敗した。自業自得っていうか……」と語らせる場面がある。当を得た一言という感じで、この一言のためにこの長い物語が書かれたのではないだろうか。