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ぼくとネモ号と彼女たち
ぼくとネモ号と彼女たち
【河出書房新社】
角田光代
定価473円(税込)
2006年1月
ISBN-4309407803
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  久々湊 恵美
  評価:★★
 欲しかった中古車を購入した主人公。周りの友人に自慢するも、反応は薄い。
手に入れたことでそれまであった目的が全くなくなってしまい、愛車を誉めてくれた女性を乗せて走り出すところから物語が始まる。
どこに行くわけでもなく、ただ助手席の女性と他愛もない話をしながら進行していくのですが、本当に前に進んでいるかどうかもよくわからない。
自分探しの旅。このタイプの話はちょいと苦手だったりもします。結局は振り出しに戻るだけなのだから。
この旅でも物理的に移動した距離は遠くへ行ったようで、最終的には元のいた場所へ戻っただけのような気がします。
途中、女性達が車から降ろされたり自ら車を降りていったりして助手席の相手が変わっていきます。
女性達も、皆自分の居場所がいったいどこにあるのかわからないまま表面を言葉で飾ってみたり、いつでも捕まりそうな距離の分だけ逃げ出してみたり。
なんだか困っちゃう人ばかり登場するなあ、といった感想なのですが、自分も含めこういったタイプの女性は多いのかも知れません。
この著者の他作品は未読なのですが、もしかすると女性を描くことが上手い方なのかしら。

  松井 ゆかり
  評価:★★★
 角田さんの小説には、時折どうしようもなく勝手な人間が出てくる。この小説の主人公も“どうしようもなく”とまではいかないものの、かなり自己中心的な男の子だ。自分が初めて買った車に誰も乗ってくれないからといって家出するなよ…。
 それでも、そんな些細なことがきっかけで当てもなく遠くまで行きたいと思い、実際に実行に移してしまう勢いはすごい。次々と入れ替わる助手席の異性に導かれるように旅を続ける主人公の姿に、私だったらこんな行き当たりばったりな行動は起こせないなと感心にも似た感情がわく。
 主人公が出会う女性たちもつかみどころがなく、主人公を含めて正直誰にも共感しづらい。しかし、彼らの心の自由さにはちょっと憧れめいた気持ちを持った、不思議なロード・ノベル。

  島村 真理
  評価:★★★
 あてもなく遠くへもっと遠くへ…。“ぼく”は、買ったばかりの愛車「ネモ号」に高校の同級生を、バーで知り合ったトモコを、ヒッチハイクの年上の女を乗せて旅する。出たとこ勝負で流されっぱなしのたよりなさが漂う。
 「カップリング・ノーチューニング」ですでに一度読んでいた本でした。文庫版になる際にタイトルが変更されたんですね。初読の時から、“ぼく”が女の子たちと共に漂泊する様に一種すがすがしさを感じてました。一生のうちで一度くらいこういうバカをやれたらなと。だから嫉妬も少し。
 安定感のなさ、ぬるさ、いつまでも自分に(人にも)甘く過ごしていけたらなぁという空気が角田光代の小説にはあると思うんです。ちょっと気がぬけるその脱力が魅力。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★
 すごく読みやすくて、3時間くらいで読んでしまった。ストーリーが単純で、登場人物も少ないからだろう。主人公が手に入れたばかりの中古車ネモ号に、次々と入れ替わる三人の女性を乗せてぶらぶらする、というだけの話だ。
 三人の女性はそれぞれ一風変わった個性の主で、彼女たちによって主人公の「ぼく」はちょっとずつ揺さぶられる。でもそれで「ぼく」あるいは女性たちの中の何かが大きく変わったりするわけではない。女性たちは結局「ぼく」を通り過ぎてゆくだけだ。なにか事件を起こしたり、なんてことまではしなくとも、もうちょっとぐちゃぐちゃにしてもいいんじゃないかな、という気もする。が、作者は淡々と、過剰なドラマを排して書く。この力の抜き具合が、やっぱりうまいなあ、と思う。
 特に印象に残ったのが、最後の方で、「ぼく」がかけた間違い電話が、料金が無くなって切れてしまうところ。寄る辺ない「ぼく」の孤独感がよく伝わってきた。

  荒木 一人
  評価:★★
 行き先は風任せ、乗せる女は運任せ。青春に理由は不要だ。目的は運転する事。有りそうで無さそうな蛮勇を掻き集めて出発進行。理不尽ロード・ムービー小説。
親を騙して、中古で買った白いシビック。ぼくは、運転したいだけなのだが「ネモ号」と名づけ、意気揚々出発する。ついでに、兄貴の秘蔵のコレクションも軍資金にしよう。知り合いに見せびらかす事しか思い浮かばない。高校のときから、ふにゃふにゃした喋り方をする春香。バーなのか居酒屋なのか、少しお洒落な店で隣りあっただけの、見ず知らずのトモコ。古典的なヒッチハイクをしていた、二十九歳の女。走り出したら行ける所まで行くだけさ。
確かに、映像にしたらそれなりに楽しめるのかも知れないが。と言うか映像化が前提の様な小説に仕上がっているので、読み応えは残念ながらあまり無かった。
「カップリング・ノー・チューニング」を改題した本らしいが、改題はどうなんだろう?

  水野 裕明
  評価:★★
 直木賞受賞作後の作品で、ロードムービー仕立ての青春小説という、帯の紹介に期待して読み始めた。「文学賞系の女性作家の多くは女性を主人公にして一人称で書いている」という印象が強かったので、男性を主人公にして、しかも一人称なのでちょっと意外な気がした。そして、その主人公の男性の語り口がまったく違和感なく語られているのがさらに意外な感じ。たまたま手に入った中古車を友人たちに見せに行ってもあまり相手にされず、次々と友人を訪れ、ひょんなことから高校の同窓の女性を助手席に乗せて目的のないドライブに出る。典型的なロードノヴェルの出だしで、どんな出来事が起こるのかと期待させる展開である。1人目が高校の同窓生、2人目が食堂で隣り合わせた恋人から逃げ出した女性、3人目がヒッチハイカーと、横に乗せる女性もバリエーションに富んでいる。それぞれのキャラクターも個性的で、その女性たちとのやり取りから、主人公の男性の問題が何となく浮き彫りになってきて、ちょっと変化球的な面白さがあった。

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