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勝手に目利き
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天涯の船(上)
天涯の船(上・下)
【新潮文庫】
玉岡かおる
上巻定価660円(税込)
下巻定価700円(税込)
2005年12月
ISBN-4101296154
ISBN-4101296162

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  久々湊 恵美
  評価:★★★
 姫路藩家老のひいさま酒井ミサオの身代わりとして生きるように命じられた主人公の、苦難に満ちた一生涯。
初めはただの身代わり人形でしか扱われなかった少女が、アメリカでの教育を受けるため渡航を通じて自分がやるべきことを見出していく姿はいじらしく、エールを送りたくなりました。
ここに登場する女性達は、常に“お家”という枠組みの中で大きく束縛され、自分の意思とは全く反した人生を送っていく。
思いを寄せる人に飛び込んでいきたいのだけれど、家柄のことを考えると、そして身代わりとして嘘を突き通しながら生きている自分の事を考えると躊躇してしまう主人公。
少しメロドラマチックだなあ、なんて思ったりもしたのだけれど、それは現代に生きている自分の考え方なのかな。
明治維新頃であれば、当然のことなんだし。男女が人前で口を聞くことすらはばかられる時代なんだし。
個人的に心に残った人物は、お勝さんですねえ。
当初はとても憎々しい人物だっただけに、その後の変化していく様と主人への熱い忠誠心が素敵でした。

  松井 ゆかり
  評価:★★★
 初めわくわく、中あれれ?、終わりよければすべてよし…という感じの話だった。上下巻合わせて1000ページ近くにも及ぶ大河小説についてこんなまとめ方も乱暴なのだが。
 前半はほんとおもしろかった。駆け落ちした良家の娘の身代わりとなり、アメリカへ留学させられることになった下働きの少女。過酷な試練に耐えながら、立派な淑女に成長したミサオはオーストリア貴族と結婚するが、その心には忘れられないひとりの男性光次郎がいた…。なんとやきもきさせられる展開!
 しかし下巻も半ばを過ぎてミサオと光次郎が結ばれてからが、ちょっと濃厚過ぎ!ハーレクインロマンス、ここに極まれり。別にメロドラマっぽいのが悪いとか、中年の恋がいけないとか言っているのではない。もう少し早くふたりの恋を成就させてあげればよかったのにという、純粋に主人公たちの心情を思い遣っての感想。もっと息子を大切にしてやれ、という不満がないでもないが、ハーレクインは女の夢ですから。

  西谷 昌子
  評価:★★★★
 日本が激動した時代、海を渡りオーストリィ人と結婚しながら、ひとつの恋を胸に秘める少女を描く大河小説。付き人として海を渡るはずが、あるじの身代わりにされ、厳しい教育を受ける少女時代は読んでいて息が詰まるほどハードではらはらさせる。留学時代、慣れない米国で生活する様子や、最初は折檻ばかりしてきた乳母と次第にうちとけていくさま、兄との関係が変容していくさまは見ごたえたっぷりだ。後半へ向かうにつれて物語が加速し、場面が飛び飛びになってしまうのが残念。後半の恋愛以外のエピソード、たとえば子育ての話やオーストリィ貴族としての誇りを身につけていく過程も見たかった。また、女性読者を必ず惹きつけるであろう豪華絢爛なアクセサリーやドレスの描写がいい。だんだん恋愛中心に話が進んでいくところといい、古き良き少女漫画を思い出してしまうのは私だけだろうか。

  島村 真理
  評価:★★★★★
 人生には山あり谷ありとはいうけれど、これほどに波乱万丈な生き方があるだろうか。ミサオの生涯は高浪に船が翻弄されるように弄ばれている。
 この本は、アメリカに留学するために向かう船に身代わりとして乗せられたミサオが、明治初期から太平洋戦争までの長い時代を生き抜く姿と波瀾に満ちた恋愛物語を描いている。
 なによりも心を揺さぶるのは、どんな苦境にも彼女が決して潰れてしまわないところ。それは、燃え盛る炎のような激しい情熱ではない。まだ残る武士の娘という、じっと耐える日本の女性の生き方である。しかし、泣き寝入りせず、凛として努力する姿は、静かに私の心を打った。
 厳しすぎる運命にあうミサオだが、一つだけ救われるところがある。それは愛する人がいるということ。これも物語を大きく引っ張っていく主題だけれど、懸命に生きる彼女に心の支えがあるというのはうれしい。日本の成長という時代の勢いとあわせ、気持ちを高揚させてくれる一冊だった。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★★★
 まさに大河小説。上巻では姫路藩家老の娘、美佐緒の身代わりのミサオとして、下働きの娘が蒸気船に乗せられアメリカに向かうところから、波乱の十年を経て、ヒンメルヴァンド子爵夫人となるまでを、そして下巻ではミサオと、アメリカ行きの蒸気船の中で出会った桜賀光次郎(後の川崎造船所社長)との道ならぬ恋の行方を描く。
 上巻のハイライト、ミサオが、光次郎の親友マックス(後のヒンメルヴァンド子爵)に求婚されると、ミサオに想いを寄せていた光次郎は黙って引き下がる。日本男児らしい不器用さゆえに求愛できないまま、親友に先を越され、恋と友情を秤にかけて身を引く光次郎。光次郎に想いを寄せながらもマックスの押しの一手に、最後は応えるミサオ。
 だが、互いへの想いを引きずるミサオと光次郎は、下巻では世界を股にかけて怒涛のメロドラマを繰り広げる。そこに孫文や吉田茂までが絡んでくるスケールのでかさ。もうあっぷあっぷである。完全に物語の世界に溺れてしまった。特筆すべきは、ミサオを美佐緒の身代わりとして船に乗せた計画の首謀者、お勝の造形。実に秀逸。

  荒木 一人
  評価:★★★★★
 号泣! 明治、大正、昭和、三つの時代を跨いだ大河ロマン小説。アンティークのオークションに絡む手紙から始まる。どこかで聞いた様な始まり方だが、暫く我慢すると、いきなり引き込まれのめり込める、波瀾万丈の大作。
明治維新、全ての価値観が覆り、父母を亡くし転落の一途を辿る姉妹。女衒に買い取られる寸前に奇跡的に助かる。そして、本当の始まりは、青い青い大海原をいく船上。姫路藩・家老家の息女・三佐緒の世話のために同行させられた、下働きの没落武士の姉・あやねは突然ミサオに仕立て上げられる。「おひいさま」になるべく繰り返される教育、厳しい叱責。ミサオは逃走を謀った。その時、運命の人・光次郎と出会う。
与えられたのは、運命か宿命か。すり替わった人生。どちらの生き方が幸せなのかは、誰にも判らない。真っ暗闇の中で見た一条の光を頼りに、必死に足掻くだけであろう。
ミサオと光次郎にモデルがいるのも興味深い。

  水野 裕明
  評価:★★★★
 明治の初め、アメリカへ渡った少女の波乱の生涯。それも表向きは旧姫路藩の家老の娘だが、実は身代わりとされた下働きの少女が、身代わりであることを隠しながら、しかも自立した人間へと成長していく生涯を描いた感動の力作。何かの作品の帯に人間と人間関係を描ききった作品と紹介されていたが、その本よりも、この「天涯の船」の方がその評価にふさわしいように感じた。主人公ミサオ(実は菊乃)と桜賀光二郎の明治、大正、昭和という3つの時代と日本、アメリカ大陸、ヨーロッパにまたがる大恋愛もさることながら、近代化を進める明治や戦争へ向かう大正の日本の様相がミサオという女性の目を通して描かれて、それもまた読む楽しみを与えてくれた。松方コレクションで有名な松方幸次郎とドイツの公爵家へ嫁いだクーデンホーフ光子、そして九鬼家の歴史にインスパイアされて書かれたのだろうが、キャラクター造形の秀逸さは、日本の女性作家では珍しいのではないだろうか。主人公と姪との巡り合いなどちょっと都合がよすぎじゃないと思うところはあるけれど、それも瑕疵と感じさせない、物語の愉悦を味あわせてくれる1冊(上下なので2冊?)であった。

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