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勝手に目利き
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小鳥たち
小鳥たち
【新潮文庫】
アナイス・ニン
定価500円(税込)
2006年3月
ISBN-4102159215
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  久々湊 恵美
  評価:★★★
女性作家アナイス・ニンがあるコレクターのために、匿名で書いたエロチック13本の短編集。
あまりこのタイプのものは、読んだ事がないのでドキドキしちゃいました。
ただ、女性が書いたものだからなのか、それともお国が違うからってことなのか、とても上品。
セックスに関する一連の描写も本当、上品なのです。
文章に書かれていることを想像してみるとかなりドギツイんですが。
『砂丘の女』なんかはちょっと幻想的、『モデル』の飽くなき性への探究心が面白かったなあ。
全編を通して性描写盛りだくさんではありますが、そこから立ち上がってくる人間の業のようなものが非常に興味深いです。
官能小説って男性の視点から書かれたものが多いのだろうけれど、女性が書いたものを読むのってあまりないかも。
細やかな性に対する憧れと降ってくるような官能の連続。
男性が読んだら、「女性ってこう感じているんだ」なんて思えるかもしれないです。

  松井 ゆかり
  評価:★★★
 昔観た「ヘンリー&ジューン 私が愛した男と女」という映画を思い出した。無名時代の作家ヘンリー・ミラーとその妻ジューン、そしてこの本の作者であるアナイス・ニンが出てくる。『小鳥たち』みたいな雰囲気の映画。細部はもうほとんど覚えていないが、記憶にあるアナイス役のマリア・デ・メディロスという女優がカバーの折り返しにある写真とそっくりで驚く。
 …というような閑話を書き連ねているのも、この短編集そのものについて語る気恥ずかしさを回避したいためだ。解説で我らが三浦しをんさんが「…(この本について)誰かと語り合いたいと思った。どの物語が好きだったか…(略)」と書かれているが、残念ながら私には表題作の「小鳥たち」くらいが限度だ。性犯罪者めいた主人公の行動が滑稽であり物哀しくもあり。
 別に道徳的な人間ぶるつもりは微塵もないけれども、現代ほど情報が氾濫していないが故に極限まで煮詰められた感のあるエロティックさが、ちょっと息苦しい。

  西谷 昌子
  評価:★★★★
 女流作家が生活のために書いたエロティカ。読んで驚いたのは、恋愛の過程や、SMなどの趣向が排除され、肉体、とくに性器の直接的な描写に重きがおかれていることだ。直接的な描写はエロスを通り越して無機的になりそうなものなのに、原作の筆力に加えて翻訳が素晴らしいのだろう、ただ性器を描写しただけの文がとても官能的だ。日本の官能小説にありがちなねっとりした性ではなく、あかるく牧歌的なのになまめかしい、という不思議なエロスをかもし出している。心理描写もさらりと書かれることで、熱情だけが強調されている。愛や恋の縛りがなく、ただ無邪気に交わって身をゆだねる様子が、どこか可愛らしいような、それでいて色っぽいような奇妙な感じ。何も考えずに文章に酔う、という体験ができる一冊だと思う。

  島村 真理
  評価:★★★
 女流作家が書くエロチックな世界。今となってはたいして驚くことではないが、当時としてはきっと珍しいことだっただろう。一人の好事家のためだけに書かれたというこの作品集は、アナイス・ニンがまえおきするほど性のみが全面に押し出されていないと思う。もちろん、あられもない性の物語だけれども、美しく繊細な愛の詩のようなところもあって結構楽しめた。
 短く鮮烈に描かれている世界の一つ一つが、他人の記憶をのぞき見している密かな楽しみを与えてくれる。書く人によってはもっと生々しい印象になるのだろうけれど、交わされる会話と行為にためらいがなくて、ちょっと気の利いたお芝居っぽい。綺麗な裸の写真のようで、手元に置いて、こっそりと本棚に並べ、時々ひらいてみたくなる本だと思う。

  浅谷 佳秀
  評価:★
 女性作家が、男性の依頼主のために書いた短編集だという。作家自身のまえがきによれば、彼女は窮乏状態にあり、現金収入を得るためにエロティックなものを書かざるを得なかった。それも「本来の執筆がなおざりになるほど」エロティカに打ち込んだとある。それでも作家本人は、自分の本来書くべきものと、そうでなくて生活のために書かざるを得なかったものとを明白に区別していたようだ。
 さて、そういう経緯はまあどうでもよい。本作品集を構成する短編は、どれもごく短時間のうちに書かれた即興的スケッチという感じがする。全力を投入したという前書きとは裏腹に、気楽に、かつ散漫に書き流している印象のものばかりだ。男と女が出てきて、やるべきことをやる。それだけの話がパターンを変えていくつも並んでいるだけ。特に何か趣向がこらされているということもなく、帯に書かれているような繊細さ、妖しさなんてものも別段感じなかった。結局、若く美しい女性が、金を払う男のためにこれを書いたという行為自体がエロティカなのであり、作品はおまけみたいなものだ。