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ジャンヌ・ダルクまたはロメ
ジャンヌ・ダルクまたはロメ
【講談社文庫】
佐藤賢一 (著)
定価600円(税込)
ISBN-4062753189
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  久々湊 恵美
  評価:★★★

 西洋史に基づいて書かれた短編集。7作品。
 実は、世界史が滅法苦手なのです。長いカタカナの名前がズラズラと出てきてしまうと、もう何が誰やらになってしまって…。
 この本も、なかなか手が伸びなかったのですが、いざ読んでみると面白いです!
 登場する人物がすごく人間臭かったからでしょうか。って教科書じゃないので当たり前ですよね。
 でもここまで史実をどんどんと形を膨らませて変化させていくつも物語を紡いでしまうのは、本当にすごい。
 好きだったのは表題『ジャンヌ・ダルクまたはロメ』ジャンヌ・ダルクはどうして民衆に支持されたのか、辺りの話など面白かったです。
 学生時代、不思議だったんです。どうして女性が先陣きって戦地へ向かえたのか。
 もちろんここで書かれたものは、真実、というわけではないのですが、すごく納得いく話でした。

  松井 ゆかり
  評価:★★★★★

 すごいな。こんな小説を書く作家がいたんだ!
 とてもオリジナルなやり方で書かれているように思われるが、こういう話を書く人って他にもいるのだろうか。史実に虚構を少々織り交ぜて書く程度のことは多くの歴史小説家がやっていることだろう。しかし佐藤賢一という作家は、いくつかの史実があるとしてそこから導き出された推論によって物語を構築している(そもそも歴史に明るくないので的外れかもしれないのだが、私はそういう印象を受けた)。
 どこまでがほんとでどこからがうそなのか。もしかしたらすべてが真実なんじゃないのか?と思わせるほど大胆な筆致で、佐藤賢一は読者を煙に巻く。

  島村 真理
  評価:★★★

 ジャンヌ・ダルクに関して、映画、伝記と、過去に観たり読んだりできたけれども、表題作「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」が一番彼女の神秘を感じました。内容は彼女の素性を、シャルル七世の寵臣ジョルジュが、ジャンヌの故郷を訪ねて探るという形ですが、人づてに聞く人物像の不確かさとあやふやさといったら!ラストは恐るべしです。また、「ルーアン」では、ジャンヌ・ダルクが火刑となるまでの話を、いち聖職者の眼をとおして書かれているので、続けて読んでみると面白いかもしれません。
 全七篇が収められています。すでに決定されている歴史の隙間を埋めるような物語は、人の呼吸を感じます。どれも中世の西欧という時代の野蛮さと人間くささを感じられます。今よりもずっと生と死の境界が鮮明で興味深い時代だと思いました。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★

 高校時代、世界史で挫折して以来、西欧中世史というのは私にとって、いまだ神秘のヴェールに包まれた未開のジャンルである。魔女狩りに象徴される救いのない暗黒の時代というイメージが強くて、どうも手を出しづらいからなのだが、この作品には抵抗なくすっと入っていけた。歴史上の人物も、血の通った等身大の人間として、生き生きと描かれている。作品は7つの短編から成るが、前半の3篇がジャンヌ・ダルクと100年戦争に関わる物語、1つレコンキスタものを挟んで、後半3篇がレオナルド・ダ・ヴィンチに関わる物語、となっている。
 ジャンヌ・ダルクは果たして聖女だったのか、それとも黒幕に繰られるパラノイアの女に過ぎないのか、という疑問に惑いつつ、権勢を振るう自分の足元の覚束なさに思い至る筆頭侍従官ジョルジュの屈託を描く表題作が面白かった。また、天才ダ・ヴィンチの例の畢生の名作の成立と人力飛行機の実験の残酷なエピソードを絡めて描いた「ヴォラーレ」も鮮やかな印象を残した。

  荒木 一人
  評価:★★

 短編七編から成る、ヨーロッパを舞台にした歴史小説。史実を織り交ぜているのだが、全体的に流して読める。それ故、作品自体が印象にあまり残らず残念な気がする。好みは人間くさいヴェロッキオ親方。主人公達の感情部分にのめり込み難く、登場人物達があまり魅力的に映らない。

救世主ジャンヌ・ダルクとフランス王家の暗部が絡み合う。表題の「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」。
勇気凛々、百年戦争に参戦する若者二人が互いに交わした契約とは?!「戦争契約書」。
紀元一四三一年、ラ・ピュセルを裁く陪審員に抜擢された修道士の苦悩とは「ルーアン」。
カスティーリャ国の由緒有る貴族カルデナス家の家紋にある二つのS「エッセ・エス」。
良き師は、良き弟子を育てる。芸術家とし、弟子の才能に嫉妬しながらも……「ヴェロキオ親方」。
築城技術の腕だけを頼りにアントニオはフランス軍と対峙する「技師」。
万能の天才をも、芸術の魅力は狂わせる「ヴォラーレ」。