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強運の持ち主
強運の持ち主
瀬尾まいこ (著)
【文藝春秋】
定価1300円(税込)
2006年5月
ISBN-4163249001
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清水 裕美子
  評価:★★★

 占い師になる人には元・ライター、コピーライターの人が少なからずいるそうだ。もしかすると、霊感が強いというよりも物語をその場で紡ぎ出せる人だから……?
 本書に登場するのは、若い女性占い師・ルイーズ。いんちき占いと自分で称し、どちらかいうと問題の解決は人物を見た直感から。同棲中の強運の持ち主(ほんとに?)の彼氏は、運命というより手練手管を尽くしてゲットした。お客さんの女子高生が言う「悩みなんて、人に話せた時点で半分解決している」。そんなファミリーに関する問題がいくつか登場する本書。話の中で、アシスタントの竹子さんが言うには、占い師も「色々な人の人生を一緒に考えられるのって幸せ」なのだそうだ。占ってもらう私たちの側からは、誰かが自分に言葉を尽くしてくれる幸せってことなのかもしれない。
 読後感:当たるも八卦、当たらぬも八卦、ほんわか〜

  島田 美里
  評価:★★★★

 「強運体質の女になる」というような女性誌の見出しを見かけると、ピクッと反応してしまう人に、ぜひおすすめしたい。この連作短編を読めば、運に振り回されなくなる気がする。
 元OLの占い師・ルイーズ吉田の占いは、ホロスコープも姓名判断もあまり使わない。彼女の商売道具は、ただの直感。だけど、この物語は決して占いを冒涜しているのではない。つかみどころがない占いに対して、素人にも実践しやすい洞察力という対抗軸を立てることにより、自分で運を切り開くコツが見えてくるのだ。
 家族関係や恋に悩んでいる人の気持ちを、どんどん前向きに変えるルイーズだが、「物事の終わりが見える」という霊感青年の予言のせいで、自らも迷える子羊に。マイペースを貫いてきた人がこの作品を読んだら、そんなこと改めていわれなくてもわかってるよと思うかもしれない。だけど、他人に影響されやすい人は、微妙に強運体質に変わるんじゃないだろうか。1冊読み終えるころには、自分の本当の気持ちを、いろんなものから守るバリアが、きっと丈夫になってます。

  松本 かおり
  評価:★★★

 コイヌマユキ氏の装画のままに、可愛らしい物語が4編。微笑ましく心和む。読後感ほわほわ・やわやわ・ふわふわ。なんつーか、ソファでくったりと昼寝している子猫みたいなのだ。イヤなやつは出こないし、事件も起きない。オチも途中でわかっちゃったりして、物足りないといえば非常に物足りない。だのに、まぁいっかーと思えるのは、主人公の占い師・ルイーズ吉田の性格のよさゆえだろう。
 ルイーズ嬢、「誰にもでも当てはまりそうなことを、それらしく話しておけばいいのだ」「結局は話術だ」といいつつも、実は世話好きで面倒見がいい。小学生男子からの相談でもおざなりにしない。自分の言葉が彼の人生を変えてしまうのでは、と気をもみ、休日返上でフォロー。彼女は自分の直感で占うのだが、これが案外とツボを突いた生き方指南になってたりもする。気楽にやってるようでもやはりプロ。たいしたもんだよ。

  佐久間 素子
  評価:★★★

 帯の「がんばって。きっといいことがあるわ」は、OLから転職して占い師になった本書の主人公・ルイーズ吉田(笑)の営業トーク。彼女、占いは適当、直感がたよりの占い師だから、けっこういい加減なのだが、人間観察の的確さがきいて、評判も上々なのだ。思い切り女子向けのパッケージだし、間口が狭い小説かと心配したが、ミステリ風味で飽きさせないし、現実的で前向きな素直さがいい。こういうまっとうな明るさは、みかけ以上の価値があると思うのだ。
 表題作。「強運の持ち主」でありながら、とてもそうは見えない、のんき彼氏の星回りに危機が訪れて、ルイーズがあわてふためく話である。たかが占い、されど占い。「自分で踏み込まないと根本的なことは何もわからない」とわかっちゃいるのに、占いにとらわれてしまうのが女ってもの。そんな彼女が最後に出す結論やいかに。占いはいいことだけを信じることにしているのー、といいつつ、悪いことも気になっちゃう小心者は読んでみてはいかが。

  延命 ゆり子
  評価:★★★★

 主人公は占い師。と言っても元OLだ。上司との折り合いがつかず会社を辞めて、人間関係のわずらわしさがないからということで始めた占い稼業。お客さんの雰囲気を見て直感でモノを言うし、お客さんにいきなり自分の打ち明け話を始めたり。占いよりも話術でもたせてしまうような、そんな占い師、ルイーズ吉田。本名吉田幸子。
 しかしその大らかでほんわかとした雰囲気と、お姉さん然とした振る舞いに心が癒される。占う相手から思わず頼られたり、ミステリじみた相談を解決したりするのもむべなるかな。
 驚くのは、主人公が彼氏と一番行きたいデートの場所が、少し離れたところにあるダイエーだというところだ。実用的な物を買うときに二人であれこれ会話をせざるを得ない。それが楽しいという。私にはない発想で、この人は本当に日常のささやかな幸せを愛しているのだなあと感じる。作者の人柄が良く出ているような。人生で何が一番大切なのかを知っている人の文章はいつ読んだって心に優しい。

  新冨 麻衣子
  評価:★★

 主人公は元OLの占い師であるルイーズ吉田。占いブースを訪れる人のそれぞれの悩み、そしてルイーズこと吉田幸子と同棲中の恋人との関係を温かく描いた連作短編集。
 いい話ですねぇ。キャラの作り方もいいし、幸子と通彦の関係を描くあたりなんかホント、ほんわかしてて読みながらホッとする。とくに二人の間の食べ物の話なんていいし。
 だけど正直、薄味感は否めない。「ニベア」は真相に気付くの遅すぎだろう。「ファミリーセンター」は何か無理矢理だろう。「おしまい予言」と「強運の持ち主」はラストにガクっときちゃうだろう。なんて突っ込みを入れてしまう。
 さらさらと読みやすいし、瀬尾まいこの世界はそのままだからファンは楽しめるのかもしれない。でも日常系ミステリの体裁をとるなら、それなりの展開を期待したいところだった。

  細野 淳
  評価:★★★

 駅ビルやデパートにある占いの館、みたいな場所。通るたびに気になるのだけれども、実際に行ったことは無い。どんな格好の人が、どんなことをして占っているのかなー、などと思ってしまう。テレビでは有名な占い師が毎日のように出てきているけれども、実際に占い師にみてもらっている訳では無い。自分にとっては未知の領域で働く人が主人公の話だ。
 とはいっても、主人公のルイーズ吉田なる人物は、真剣な占い師などでは決して無くて、来る人に対して適当なことを言いながら、のらりくらりと占いを済ますような人物。でも、時には親身になって他人のことを考えることもある。「ニベア」や「ファミリーセンター」で、来る相談者に対して、占いの範囲を超えたような相談に親身になって協力しようとする姿が、この人はスゴイという気にさせる。表題作の「強運の持ち主」では、運気が下がっているらしい夫のためにせっせと幸運グッズを集めて、どうにか運気を向上させようとする姿が、面白くも健気に思えてしまう。単なる占い師を超えた、ルイーズ吉田の奥深い魅力。そこに惹き付けられてしまうのだ。