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鴨川ホルモー
鴨川ホルモー
万城目学 (著)
【産業編集センター】
定価1260円(税込)
2006年4月
ISBN-4916199820
 
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清水 裕美子
  評価:★★★

 おお京都だ! 学生時代、京都に住んだことのある方、京都旅行の前の方、後の方、存分に楽しめます! 藤井大丸などの建物名が普通に登場するので嬉しいです。
 葵祭りの行列バイトの日(そんなバイトが存在します)帰りかけた京都大学一回生の安部と高村はあるサークルに勧誘される。それは京都大学青龍会。イベント系サークルかと思いきや、実は京都に歴代続く「ホルモー」という競技を行う団体。陰陽道にのっとり、オニという式神を使って他大学と競う。なぜに「ホルモー」と言うかは恐ろしくて書けません。
 安部の「美しい鼻」に注ぐ熱い想いや高村の日本人アイデンティティの誤った(?)発露など、楽しい雰囲気に満ちています。他大学との競技場面の描写で、戦術について「強かった」というだけで終わらせてしまうのは少しもったいない気もするのですが。茶巾絞りオニ達や吉田神社で深夜に行われる儀式など、現代に生きる「リアル陰陽道」が愉快過ぎです。
 読後感:電車乗り過ごし系の面白さ。

  島田 美里
  評価:★★★★★

 読んでいる間に、頭のネジをゆるゆるに緩められてしまった。「ああ、理性がなくなっていく」と体をくねくねさせてしまうくらい面白かった。アホなことを勢いでやってしまえるのが若者の特権だが、この物語の学生たちは、アホを丸出しにしている。その見事なさらけ出しが、上質の青春小説へと昇華させているのだ。
 安倍を始めとする京大の新入生が所属するのは、鬼や式神を操る「ホルモー」という競技を行う京大青竜会。失恋やライバル同士の衝突といったありがちな出来事も、陰陽師もびっくりの奇妙なサークル活動のせいで、すごく特別なことに思える。学生パワーが充満している京都を舞台にしたのもベストチョイスだが、あやしすぎる割にホラーじゃないところもいい。彼らが操る「オニ」は、なんとなく「さるぼぼ」を彷彿させるようで、怖いどころか癒される。
 それにしても、レナウンのわんさか娘の歌を歌いながらの奉納の舞は、素晴らしいばかばかしさだった。ホルモーとはホルモンの意味ではないらしいが、笑っているうちに、何だかわけのわからないホルモンがいっぱい分泌された気分だ。

  松本 かおり
  評価:★★★★★

 いやー、オモロイ。もう単純明快に楽しい。よくもまぁ、こんな物語を思いついたもの。なんてったって「ホルモー」。のっけから「ホルモンではなく、『ー』と伸ばして、素直な感じで発音してもらいたい」と指示され、つい何度も発音練習してしまったが、その響きと語感の不思議なことよ。ネタバレを避けるべく「ホルモー」の詳細は省くとして、強調したいのが著者のユーモアセンス。特に「吉田代替りの儀」、これで笑わない人間はまずおるまい。なんという衝撃力&破壊力。私はしばし、笑涙にむせんだ。緩急自在の表現力&語彙力にも瞠目。「常に慣性航行中の原子力潜水艦並みの静けさ」「ぶなしめじのかさのような頭」「心のデフレ・スパイラル」といった絶妙比喩の連続技もビシバシ決まる。
 終始一貫「ホルモー」でありながら、青春の王道である恋愛・友情ネタも盛り込む隙のなさ。この完成度でデビュー作、次作が早く読みたいぞ。期待してます、万城目さんっ。

  佐久間 素子
  評価:★★★

 ホルモーとは、オニを使役し、戦わせて勝敗を競う、対戦型の競技のことをいう。ホルモーを競うのは、京都の東西南北に位置する四つの大学に代々続くサークル。これは、何の因果か、そんな京大青竜会に属することになった大学生のお話である。変な話だ。二十センチほどの大きさで、顔は茶巾絞りの如きオニは、ダメージを受けると、その絞りをめりこませ、しかし、レーズンを補給すると復活する。って何だそりゃな、変ルールの数々が具体的、かつ独創的。頭でっかちな、おこちゃま大学生に辟易しながら、割に醒めた目線で読んでいたのだけれど、途中でまきこまれてしまった。京都ならおこりかねない、大学生なら順応しかねない、大まじめなホラ話が熱く展開して愉快愉快。
 難を言えば、仮性変人しか出てこないのが少々物足りない。キャラがかぶるので、失礼して比べさせてもらえば、プライドと韜晦と妄想のせめぎあう『太陽の塔』の方が青春小説としても、一枚上手の感あり。

  延命 ゆり子
  評価:★★★★

 京大に入った安倍はなにやら怪しいサークルの勧誘を受ける。その名も京大青竜会。式神(鬼)を使って大学間で争いを繰り広げるというホルモーという競技を行うサークルだと言う上級生達に疑惑を隠しきれない安倍。だがその怪しさにいつしか魅かれてゆく。
鬼の形状やら、戦い方やら、よくもそんなことを思いつくものだと感心する。古来の神々へおうかがいを立てるため神社で儀式を行い(そのやり方がまた笑える)、鬼語を覚え、式神を自在に操るようになる。その発想力、妄想力、設定力(?)、それだけでもう素晴らしい。
 加えて、ホルモーを行う京大青竜会の仲間達と紡いで行く関係性がとても良いのだ。帰国子女で自分のアイデンティティが確立できない高村、大木凡人似の無口な司令塔楠木ふみ、完璧な鼻の形を持つ女早良京子。大学時代特有の、自由な、ぶつかり合うような友情と、不器用な恋愛模様。二度とやり直したくはないけれど、それは確かに私も経験したことのある青春というヤツで、懐かしくて、甘酸っぱい気持ちを如実に思い出した。
 面白い要素がてんこ盛りの力作、堪能しました。

  新冨 麻衣子
  評価:★★★

 京都を舞台にした、異色のファンタジー青春小説ってかんじでしょうかね。とにかく変な小説だ。「ホルモー」ですよ? 何やらそれは京都の4つの大学による秘密裏の合戦らしいが、状況によっては四条河原町で「ホルモー!!!」って絶叫しなきゃならないらしいですよ? なんなんだそりゃ。
 葵祭でバイトしていた京大一回生の阿部と高村は、帰りに変な新歓ビラをもらう。具体的な活動内容が書いてない怪しいチラシ。しかし新歓コンパを荒らして食事代を節約していた阿部はつい出向いてしまう。そこで理想の女の子と出会ってしまい……!?
 特異な設定を除けば、実はベタベタな学生生活が描かれているのだが、あまりの「ホルモー」のインパクトに隠れてしまってる気すらする。
 とにかく変で、パワフルな作品だ。次作はどんな作品を書くのか、興味あります。

  細野 淳
  評価:★★★★★

 大学でのサークルに入るきっかけなんて、結構単純なもの。何気なく受け取った一枚のビラ、そんなもので四年間過ごす場所を決めてしまうこともあるのだ。この物語に出てくる主人公たちもそう。でもなぜか、入ったサークルが京大青竜会というもの。名前からして、かなり怪しい。
 名前の疑惑はともかく、最初の頃は、普通に飲んだり、キャンプに行ったりするような、どこにでもあるようなサークルかと思っていた主人公たちだが、ある日突然、このサークルの本当の活動内容を知らされることになる。鬼を使って京都の大学生同士が戦う、ホルモーということをするというのだ。ホルモーって言う名称自体も、その内容もインパクトは大きい。そのようなものを考え出した作者の発想力には恐れ入る。
 でも、そんな不思議な出来事を取り扱っているにも関わらず、共感できることも大いにあるところが、この小説の魅力。現実で起こるような出来事と、非現実的な世界が、上手い具合に交じり合っているのだ。自分からみたら羨ましくて仕方ないような大学生活を、主人公たちは過ごしているように感じてしまう。