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柳生雨月抄
柳生雨月抄
荒山徹 (著)
【新潮社】
定価1890円(税込)
2006年4月
ISBN-4104607029

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清水 裕美子
  評価:★★★★

 いいんですか?いいのかなぁ〜?この『荒山伝奇』の奇想天外さ、歴史上の出来事の新解釈。
 柳生新陰流の血を継ぎ、柳生の剣の遣い手である友景。陰陽師の幸徳井家に養子に入り陰陽道もバッチリ、美貌は女と見間違うほど。そんな友景が魑魅魍魎の跋扈する江戸時代、淀君すり替え事件や関ヶ原の戦いを決した小早川秀秋の乗っ取られ事件に挑む。全ては恨の流れを汲む、朝鮮の日本征服組織「征東行中書省」の陰謀。彼らとの壮絶な妖術争が繰り広げられる。さらに最後の決戦は朝鮮半島へ場所を移し、朝鮮柳生の友景そっくり美男子・眞純との戦い。
 このあらすじでは、何が何だか……ですが、全編手に汗握る面白さ。しかし、完全没頭するのを拒む引っ掛かりもある。それは、作者の「名前」に関する冗談。春日の局はいいとして、男装美人についてはあり得ない。『フィクションです』のしるしをそんなところに付けずとも……。
 読後感:あり得ると思ってしまう新解釈

  島田 美里
  評価:★★★★

 日本と朝鮮との歴史的つながりと、柳生一族のスピリットという土台が、その上に出来上がった物語のスケールを大きくしている連作短編集だった。
 柳生友景は、柳生新陰流の剣士であり、陰陽師でもある。日本を滅ぼそうとする朝鮮の妖術師と戦う、クール・ビューティーな奴なのだ。男だけど。中でも情趣を感じたのは、若狭の高浜に朝鮮からの漂流船が現れ、流れ着いた女が、自分のことを淀君だと名乗る「柳生逆風ノ太刀」。妖術師の陰謀がからんでいるのだが、なぜ淀君が家康の国替え要求を拒否したのか、つじつまが合っているだけでなく、著者が創り出したストーリーが、とても情に訴えてくる。また、柳生の血をひく朝鮮の剣士との戦いを描いた最後の2編では、霊的なエピソードが、歴史と創作の隙間をうまく接合させているように思った。
 それはそうと、登場人物のネーミングにも注目である。なんと、安兜冽(アンドレ)、そして呉淑鞨(オスカル)という名の女剣士が登場するのだ。えっ、ベルばら? ロマンチックな要素も加味されて、そういう意味でもスケールが大きい。

  松本 かおり
  評価:★★★★★

 数年前、氏の『十兵衛両断』では朝鮮人名や地名に難儀した覚えがあるが、今回は違う。現在私は<韓流>の虜と化しており、韓国とはいかなる国なのか、歴史方面にもずずいと興味拡大中。ちょうど李氏朝鮮関係の本を読んだところで本書と遭遇したのは幸運の一言。
 朝鮮による「一千年宿願たる日本征服」。キーワードは「恨(ハン)」。暴君・光海君のこの陰謀を阻止し護国に尽くすは、卓越した霊的能力を保持する陰陽師でもある柳生新陰流剣士・友景。大阪冬・夏ノ陣やら関ケ原の合戦に朝鮮妖術師がからむや複雑怪奇な大活劇の誕生、時空を超越して繰り広げられる霊戦にハラハラ、冴え渡る友景の剣に恍惚の境地。
 怪獣や女剣士コンビの懐かしい名前も<昭和の少女>には嬉しいオマケ。韓ドラ「チャングム」風の歌まで登場、思わず口ずさんだのは、他でもない「オナラ オナラ〜」。史実と創作と著者のサービス精神(?)が結集、相乗効果抜群の痛快作だ。