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勝手に目利き
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主婦と恋愛
主婦と恋愛
藤野千夜 (著)
【小学館】
定価1575円(税込)
2006年6月
ISBN-4093797374
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清水 裕美子
  評価:★★

 夫以外の男性への恋ごころ。帯には「繊細で、優しく笑える暖かさ」とあったが、私は笑えなかった。痛々しくて、ぐだぐだで。
 近頃仕事を辞めた・主人公チエミは主婦。サッカーファンの夫・忠彦と二人暮らし。ワールドカップの1ヶ月前後、新しい出会いがいくつかあった。チエミの視点から描かれる出来事や他の人物の会話には、チエミ的・細かい突っ込みが入るのだが、そのコメントが「さもしい」感じでツラい。ここで共感や「あるある」と思えなければ撃沈してしまう。べつに夢見るようなウットリ感は求めないけれど、何も起こさない、気づいていないフリをする状態が長すぎるのかも。そう、願望の反映という意味では(?)ハーレクインロマンスと対極にありますね。5日間だけ自分に許す恋心もウロウロしただけで終わる。えーーー、一体何だったの?と肩透かしな気持ちで一杯になるのは、自分に広い心が欠けているから?つい自問自答してしまう。
 読後感:美少女ワカナちゃんの「ナントカッす」という喋りがツラい。

  島田 美里
  評価:★★★★

 まじめな主婦の恋愛が、こんなに笑えるとは思わなかった。いい年をした女が、「まだ似合うかも」と、学生服を着ようとしているみたいで、かわいいけれど滑稽なのだ。
 日韓ワールドカップサッカーのお祭り気分と、久々に恋をした専業主婦・チエミの浮かれ気分とが、うまい具合にマッチしているのがいい。チエミは、あるホームパーティーで出逢ったフリーカメラマンのサカマキに惹かれるが、彼は人畜無害な夫とは対照的な優男。
チエミが、彼のホームページを夫に隠れてこっそり見ている場面は、まるで親に隠れて好きな人の写真を眺めている少女のようである。なんか照れる。読んでいて、恥ずかしさが伝染してくるのだ。つかみどころのないサカマキの色気や、サッカー観戦で知り合った年下のワカナの快活さが、凪の状態の夫婦に、ちょっとだけさざ波を立てる、その「ちょっと」がスパイシーな作品だ。
「せつないねえ」と言ってあげたいけど、主婦のドキドキに始まって主婦のドキドキで終わるという、一貫したひとり相撲が、やっぱり笑える。

  松本 かおり
  評価:★★

 忠彦と結婚して4年になる31歳のチエミが、先輩宅での鍋パーティでサカマキなる男に出会う。第一印象があんまりよくなかった男が、どういうわけかだんだん気になる存在になり、最初の違和感がいつの間にやら好感に……。ありがちな展開。主婦だって恋くらいするわな〜、だからなんなのよ〜、それがどーしたのよ〜、ツッコミの山誕生。
 チエミは20歳でやっと初恋人ができたようなオクテのせいか、31歳にもなって自意識過剰すぎ。サカマキの一挙手一投足に反応、緊張、幼いのなんの。そんなに免疫がないんじゃ、コロッと悪い男に騙されるでよ。馴染みの若い美容師とハンバーガー屋でダベったくらいで、夫の顔色を伺ったり勘繰ったりするのも面倒臭い性格だしなぁ。忠彦も人がよさそうなだけで何を考えてるんだかわからんし、チエミいうところの「地味な夫の地味な抗議行動」も不気味。嗚呼、どうしても馴染めないデス、この夫婦。

  佐久間 素子
  評価:★★★★

 熱にうかされたような日韓ワールドカップの開催中、サッカー好きの地味な夫と、雰囲気にのっかる妻と、なんとなくお近づきになった人々との日々がえがかれる。北海道のドイツ戦で知り合った、フランクな女の子との、サッカー談義にそわそわする夫。カニパーティーで知り合った、フリーカメラマンに微妙にむかつく妻。格別、理性的でも感情的でもない彼らのゆらぎは、小学生ですら恋愛と呼ぶにはためらうような淡いもの。恋愛と銘打つにはあまりにも曖昧。お祭り騒ぎの非日常というにはあまりにも平凡。何事もなさげな毎日に、ふわふわただよっているさびしさやあたたかさは、切実なものではないけれど、やっぱりこころは波だってしまって、途方にくれるしかない。途方にくれたところで、立ち向かいもしないのだから、様々な感情は名前もつけられないまま、時間と一緒に溶けて流れていくのだ。 
 皮肉も感傷もドラマもない、あっさりした小説だ。でも、平凡を平凡のまま書いて、読みごたえのある小説にしあげるのは、きっと簡単なことではない。

  延命 ゆり子
  評価:★★

 とにかく主人公の行動の意図が不明だ。夫を好きではないことはわかった。
「四年前から一緒に住んでいる黒縁眼鏡の男」「あの口先だけの高校教師」「なで肩夫の
忠彦」「地味なだけが取り柄の高校教師」これ全部夫を評した妻の言葉だ。これはないんじゃなかろうか。底辺に愛が感じられない。ここまで夫をこき下ろす御仁はさぞ大層な仕事をされているのでしょうねぇ、といえばただのお気楽主婦である。他の男とデートをしてみたり。モテる男の暇つぶしのようなメールに一喜一憂してみたり。それで夫に「どうぞ聞きたいことがあったらなんでも言って」と逆ギレしてみたり(何もしてねーじゃねえか)。自意識過剰が過ぎるのだ。もう、構ってほしくてたまらないのだこの人は。浮気したくて誰かに認めてほしくて仕様がないのだ。ゆる〜い不機嫌な果実。主婦の地位を貶めるのもたいがいにしてほしい。……キレそうです私。ゴーマンかましてよかですか。
 そんなに嫌なら別れろ! 覚悟を決めろ! 働け! 泥を喰え! 好きなら違う男の胸にでも飛び込め! その勇気がないならスッこんでろーーーー!! と、言いたい。

  新冨 麻衣子
  評価:★★★★★

 舞台は四年前、初の自国開催(日韓共催)のワールドカップに湧く日本。主人公のチエコと夫・忠彦、サッカーマニアのワカナ、近所に住むカメラマンのサカマキさん、何故か四人はTV観戦のためしょっちゅう集まることになるが……。
 相変わらず藤野千夜は、すくえるかすくえないか難しいくらいのものを的確に描く。小さな嫉妬、あるかないかわからないくらいの恋心。そしてぶつけるまでもない微妙ないらだち、もうイッソのこと……という想像上のみの思い切り。倦みかけた生活の中で無意識に生まれた「揺れ」への動揺。
 不満がないわけじゃないけど、別れる気なんてない。浮気する気なんてない。浮気してほしくもない。でも心は、いつでも小幅に揺れる。安心の上に立つ「揺れ」に、99%の信頼を置きながらもふと不安になる「嫉妬」。それはどちらも地味ながら甘美で切ない。胸が痛くなった。

  細野 淳
  評価:★★★

 ワールドカップが出てくる作品。とはいってもこの小説に出てくるのは、四年前の日韓ワールドカップ。そういえば、こんな試合があったよなー、などと読みながら少し懐かしくなってくる。当時のワールドカップの頃って、スタジアムに直接応援に行ったりしていない人でも、皆でワイワイとテレビを見たりしながら、色々と盛り上がっていたものだ。
 というわけで、そのような盛り上がりの中から、新たな繋がりが生まれたような人も多いのではなかったのだろうか? 本書の登場人物たちもそう。直接的・間接的にせよワールドカップによって、繋がっていった人たちの話だ。
 夫である忠彦と一緒に二人で暮らしている専業主婦、チエミが物語の主人公。ワールドカップの期間中に新たに知り合った近所のサカマキさんに密かな恋心を抱きつつも、うやむやになってしまったまま。そしてワールドカップが終わると共に、またどこか遠い存在となってしまう。ほんの少しの間だけれども、ドキドキするような日常とはちょっとだけ離れた体験。恋愛にかぎらず、この期間にそんな体験をした人は多いのではないのでしょうか?