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「スットコランド日記」が書籍化されました。

スットコランド日記
『スットコランド日記』
宮田 珠己
本の雑誌社
1,680円(税込)
2009年8月3日搬入
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『スットコランド日記 深煎り』
宮田珠己
本の雑誌社
1,785円(税込)
2010年8月4日搬入
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3月28日(日)

 寒い1日。
 2月中旬並みの寒さだったらしい。
 このところ週末はうりゃうりゃSCの試合だのイベントにばかり参加している。目下、人生の休日は息子のサッカー一色である。まさか自分が親になってそんな日々を送るようになるとは、独身時代は想像だにしなかった。結婚さえしないと思っていたのである。それがいまや、なんと平凡な生活を送っていることであろうか。と同時に、そうは言いつつ週末を楽しみにしている自分の不思議。
 で、今日もイベントがあり、リフティングコンテストをやっていた。優勝した小学5年生はなんと6000数回だという。すごすぎる。
 ちなみにフットサルチーム得点王のニックさんは、35回だそうだ。私の小1の息子以下だが、サッカーはリフティングの回数ではない、ゴールへ向かう意志だ、と言っておいてくれ、とのことである。

3月29日(月)

北条時宗と蒙古襲来―時代・世界・個人を読む (NHKブックス)
『北条時宗と蒙古襲来―時代・世界・個人を読む (NHKブックス)』
村井 章介
日本放送出版協会
1,124円(税込)
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 朝から冷たい雨。
 書評の締め切りが迫っているので、本を読みまくっているが、なかなかこれという本に当たらない。今読んでいるのは、村井章介『北条時宗と蒙古襲来』(NHKブックス)。元寇好きなので、読んでいて面白いが、これも書評向きではない気がする。
 書評向きの本には、どこかに笑いが必要だ。 

3月30日(火)

 朝は冷え込んで庭に霜柱が立ったが、空は見事に晴れて、冷たいミネラルウォーターのような日和。通勤途中の道から、富士山の白い頂がくっきり見えた。
 今年はなかなか桜が咲かない。
 地球温暖化も、ここ数年、足踏み状態らしい。太陽の磁場が弱まって、逆に寒冷化に向かうとか言ってる科学者もあるようだ。もう温暖化について考えるのもだんだん面倒くさくなってきた。
 ともあれ、あんまりいい天気なので、書評はあきらめ、どこかに出かけようと思ったのだが、そういえば明日ニックさんと鳥を見に行く予定になっているので、今日は我慢して、ひたすら本探しに徹する。

3月31日(水)

 上野公園へ行き、ニックさんと落ち合う。
 ニックさんから「鳥を見に行きませんか」と、意味不明な誘いを受けたのだった。せっかく動物園に行くならと、家族を連れて行った。
 ツンドラにあるわが家のまわりは、桜などまだ一分咲き程度だけれど、上野公園の桜は五分咲きぐらいはあって、もう十分花見に堪えるだけのうららかさである。
 ニックさんはハシビロコウという、妙に嘴のガバガバした鳥を見たかったらしい。そいつは私の息子ぐらいも背丈があって檻のなかにひとり立ちしていた。ふしぎな存在感で、たしかにわざわざ見に来るだけの味わいがあった。
 ニックさんは言った。
「一日20枚書いたって、すごいじゃないですか」
 先週の日記に書いた温泉紀行のことだ。
「今年中に長編小説ひとつぐらい書けるんじゃないですか」
 無理、と反射的に答えたが、桜が咲いて暖かくなれば、そういうこともありうるようなそんな気分だった。
「あれも書きましょうよ、大陸横断の旅行記」
 うううう。
 長編小説も横断旅行記も、中途挫折したまま何年過ぎたことか。書けるものもあれば、書けないものもある。書けないものが書けるように転じる瞬間を、私はしばらく味わっていない気がする。惰性でやってるのだろうか、サラリーマンだった頃のように。
 
 ──挑戦しなければ。
  
「あと温泉付き合いますよ。温泉行きましょう。新潟の」
「新潟?」
「仙台でもいいです」
 熱烈なレッズサポであり、アウェー観戦は年1回までと妻に釘を刺されているニックさんの魂胆が、ありありと透けて見えてきた。

4月1日(木)・最終回

 雲間に日の射す暖かい朝。 
 仕事場へ向かおうと玄関を出ると、庭の芝生が全体に緑がかって、もうてっきり冬を越せないで絶滅したものと思っていたのに、いつの間にか復活している。小さな花壇にデタラメに植えたチューリップも、パンジーの葉を突き破ってロケットのように咲いていた。
 牧場の脇を通りかかると、フェンスのほころびから、この冬に生まれた子羊が外に出て、道端の草を食んでいた。
 おお、羊逃げとるがな! 
 と思ったら、やがて母羊のもとへ、ふたたびフェンスの穴を抜けて帰っていった。
 なんだかどこかへ桜を見に行きたいような気がして、気がつくと私は、仕事場へ向かう道をはずれ、デタラメにキャベツ畑のほうへ歩いていた。キャベツはもう収穫されたのか、今は茶色い畝だけが続いている。
 駐車場の脇に、桜が咲いていた。こんなところにあったとは知らなかった。しかもそれが見事な桜で、もうすぐ満開という風情だったのであって、デタラメに歩いてみるのも捨てたもんじゃないと思ったのだった。


 2年にわたって書き続けたスットコランド日記ですが、このへんでおしまいにしようと思います。そのうちまた日記を書くこともあるかもしれないし、金輪際ないかもしれないし、案外またすぐ書いたりするのかもしれないし、その日記は全部嘘だったりするかもしれません。2年間、どうもありがとうございました。
※これ以前の日記は単行本に収録されました

宮田珠己




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