WEB本の雑誌によると、もうすぐ高野さんの新刊
『放っておいても明日は来る』が出るらしい。普通に就職しないで生きている9人のはみだし者との対談が載っているようで、面白そうだ。だいたいタイトルがいいのであって、タイトルがいい本はだいたい名著である。略してアスクルだそう。まるでポケモンの名前か、地方都市の複合商業施設のようだ。
この夏四万十川をカヌーで下った際、ツアー参加者のひとりで、50代のおじさんが、ずっとフリーな職業に憧れていたが結局なれなかったと嘆いていた。結局なれないのは、決断力がなかったとか、実力がなかったからだとかいうと、それで話は終わってしまうけれど、実のところ逃げ方の問題ではないかと思う。現地語もできないまま単身海外に渡ってしまって、そこでビジネスをやっていると聞けば、それはそれは凄い勇気と行動力と潜在能力があった人間であるかのように思ってしまうが、おそらく現実には、最初からそんな能力があって目標に向かってガンガン邁進したわけではなく、うまく逃げた結果、後は転がるようにそこまで勝手に状況が進んだのではなかろうか。
私が会社を辞めてフリーになったときも、果たして会社を辞めてしまって私はやっていけるのかまるで心もとない感じで、一度気持ちを落ち着けて、辞めた場合のメリット・デメリットをノートに書き出し、比較考察したことがあった。そうやって分析すれば、それはもう辞めないほうがいいという結果が出るのは明白で、勝間和代みたいな人はそれでも目算が立つかもしれないが、そうでない一般庶民には何の勝算も見えてこない。
そうすると、結局なんとかなる秘訣としては、情熱があったかどうかという話にまとまりやすい。そりゃあ、情熱はあったほうがいいし、まさしくそこが決め手と言われれば反論の余地はないのだけれども、情熱を持ち続けるのもなかなかしんどいものである。
私の場合は、仮にこのまま勤め続けたとして、きっと10年経っても、往生際の悪い自分はまだ辞めて旅に出たいと思っているだろう、そのときにやっと勇気が出て辞めたとして、だったら10年前のあのときにさっさと辞めておけばよかったと後悔するはずだから、その10年前のあのときである今辞めようと考え、ずっと行きたかった長旅に出たのだった。
しかし、そうやってど〜んと蛮勇を持って、辞めてから考えればいいのだ、なんて言って辞めてしまって、そのまま何の芽も出ないで身動きが取れなくなっていく事態は、十分にあり得たはずで、それがなんとか今までなんとかやってこれたのは、凹むと旅に出る癖が自分にあったからではないかと思う。
私は、凹んだり、気力が萎えたりすると旅に出る習性がある。これは情熱とは正反対で、情熱がなくなると、旅へ逃避したくなるのだ。そうするとどういうことになるか。私は仕事が思い通りにいかなかったり、プライドが傷ついたり、体調が悪くなったりすると、旅に出てしまう。そうしてひとりでぼんやりする。
ところがそこはネタの宝庫であるから、結果としてするつもりもないのに取材したも同然になり、気力が回復したときには、同時にあらたなネタを手にしているという復活のスパイラルが出来ていたのである。
そう考えると、情熱もいいが、無理してそれを奮い起こすより、むしろ情熱のない凹んだときにやってしまいがちなことを仕事にすればいいという方程式が成り立つのではなかろうか。
凹んだときゲームに逃避する人は、ゲームクリエイターになるべきである。凹んだときに暴飲暴食する人は、グルメ関係の仕事か、できれば料理人になるのが一番いい。そうして気力充実しているときは、ゲームやグルメに邁進し、調子の出ないときは、ゲームしたりおいしいもの食ったりしていればいいのだ。そこで何か発見があれば、後で仕事にフィードバックする。趣味を仕事にするのと似ているが、似ているようで全然違う。趣味ではなく逃避であるところが肝心だ。趣味は情熱でできており、逃避は無気力と嫌気でできている。
ここで唐突だが、人工衛星を考えてみる。
人工衛星は最初こそ大気圏を脱出するために膨大な燃料を使うが、一度うまい軌道に乗ってしまうと、あとは落下する一方である。重力に委ねてどんどん落下していたら、あとは自然に前に進むというか、落下してこその人工衛星というか、ときどきズレた軌道を修正するときだけ、燃料を燃やして噴射すればいい。それだけで、立派な仕事をする。
この人工衛星を自分に、大気圏を世間もしくは先入観に、燃料を情熱に、落下を逃避に置き換えたらどうなるか。
アスクルにどんな人たちが出てくるのかは知らないけれど、彼らは、逃げれば逃げるほど仕事の糧になるという逆転のスパイラルを、知らず知らず持っていたのではあるまいか。本人がそれを逃避と認めるかどうかは別にしても。
だからこそ「放っておいても明日は来」たのではないか。
逃避という言葉に感じる、かすかな嫌悪、ダメな感じ、プライドが許さないといった後ろめたさ。まずはそういった先入観から逃れ、高らかに逃避せよ。
そして大気圏を脱したら、あとは人工衛星のように生きるのだ。