フィリピンの刑務所で頂点に立った日本人~『バタス――刑務所の掟』

バタス――刑務所の掟
『バタス――刑務所の掟』
藤野 眞功
講談社
2,380円(税込)
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 異国の地で突然の逮捕、そして死刑判決。2万人を超える囚人が収容された刑務所で19年にわたり服役し、プリズン・ギャング(刑務所内のギャング組織)の頂点に立った日本人。こんな、嘘のような本当の話があるのをご存知でしょうか? その人の名は大沢努さん。フィリピンで営利誘拐、不法監禁の罪で逮捕、死刑判決を受け、1986年に同国最大の規模を持つモンテンルパ刑務所に収容されました。
 刑務所内で生き残るために必要なのは暴力と金しかありません。旅行代理店のトップセールスマンだった経歴を持つ大沢さんは、囚人たちを操り、刑務所内でビジネスを始めます。ハンディ・クラフトの製作、覚せい剤の流通、密造酒の製造、野菜の栽培、さらには金融業やDVDレンタルまで。
 絶え間ない抗争で囚人同士の殺し合いも日常茶飯事のなか、次々とビジネスを成功させた大沢さんは外国人というハンデを乗り越え信頼を勝ち得ていきます。そして入所から7年が経った1993年、同刑務所で60年代から続くプリズン・ギャングの歴史において、史上初めて外国人としてコマンダーと呼ばれる組織のトップに立つことになりました。
 これを快挙と呼ぶべきか、それとも同じ日本人として恥ずべきか。大沢さんに1年にわたり取材を続け、その半生を描いた『バタス----刑務所の掟』の著者・藤野眞功さんは、「彼は紛れもない悪党」と言います。しかし同時に、「僕らの歴史は悪党を愛でる」とも言っています。
 前述の『バタス----刑務所の掟』には、刑務所で成功を掴む痛快なエピソードもあれば、命がけで仲間を守る悪党の姿や、それとは真逆に目を覆いたくなるような凶悪な描写も多分に含まれています。魅力ある悪党・大沢努という男はいったい何者なのか。善悪はともかく、その存在に触れてみる価値は十分にありそうです。

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