西尾維新の「新境地」とは?~『少女不十分』

少女不十分 (講談社ノベルス)
『少女不十分 (講談社ノベルス)』
西尾 維新
講談社
907円(税込)
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 人気作家・西尾維新さんの最新作『少女不十分』(講談社ノベルス)が発売され話題を呼んでいる。

 デビュー作『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』に始まる〈戯言シリーズ〉や、テレビアニメ化され人気を博した『化物語』、『刀語』などで知られる西尾さんにとって、「原点回帰にして、新境地」を謳う本書。帯には「この本を書くのに、10年かかった」と記され、作者渾身の力作であることを伺わせる。

 物語は、作家志望の大学生がある日、一人の少女に出会い、忘れられない体験をするというもの。全編を通じて、作家になった主人公がこのときの事件を振り返る視点で描かれており、その語り口はまるで「主人公=西尾維新」であるかのようだ。

 同書の主人公は「20歳から10年作家を続けており」「非常に多作で」「もうすぐ30歳を迎える」というプロフィールを語る。これはすべて、作者の西尾さんと合致する事実。こう聞くと、これまで"推理もの"や"怪奇譚"を得意としてきた西尾さんが、まさか自身の体験を描いたのだろうかと仰天する読者は多いだろう。

 その真相は実際に同書を手にとって確認してほしい。たしかに「新境地」だと納得できる小説になっていて、今まで西尾さんの作品を敬遠してきた読者にも、西尾作品最初の一冊として推薦したい。一方、西尾作品でお馴染みの「強烈な個性のキャラクター」も登場するので、従来のファンも満足させる出来となっている。

 事前にネットで公開され話題となったカバー絵は、『Fellows!』(エンターブレイン)の表紙イラストで知られ、6月に刊行した画集も好評を博す気鋭のイラストレーター、碧風羽(みどり・ふう)さんが手がけた。廃屋のような場所で佇む少女の姿を描き、ヴィジュアルの面からも、これまでの西尾作品とは違ったイメージを生み出している。

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