お巡りさんが、芥川賞作家・川上未映子氏を警戒?

ぜんぶの後に残るもの
『ぜんぶの後に残るもの』
川上 未映子
新潮社
1,296円(税込)
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 芥川賞作家の川上未映子氏が、『週刊新潮』『日本系座新聞』で連載していたエッセイを一冊にまとめたのが、書籍『ぜんぶの後に残るもの』。独特な感性と文章が魅力的な彼女の心温まるエッセイが、数多く収録されています。

 「大阪市阿倍野区で、下校中の女子が自転車に乗った50歳くらいの男に『Hしたいな、Hしたいな』と声をかけられる事案が発生した」、たまたま川上氏が見つけたニュースです。

 ここで出てきた「事案」という言葉。事案というのは被害届こそ提出されていない(事件になっていない)が、通報などによって、どこどこでこれこれこういうことがあったので、皆さん警戒してくださいね、と、報告&警告されているという意味で、なんと、メールマガジンもあるのです。川上氏が調べたある日の配信数は78件。圧倒的に多いのは、子どもに対する「声かけ」で、「触らせて」といった露骨なものがほとんどですが、「えっ、それも事案になるのか」といった内容のものもあるそうです。

 たとえば、「ラブホテルとおぼしき場所で遊んでいた児童に『こんなとこで遊んでいたらあかん』と男性が声をかけた事案が発生」、「老人が下校中の女子児童に対して『家どこ』と声をかけ、同児童が『分からん』と答えると『もう家に帰り』と言い、その場に立って児童が帰る方向をしばらく見ていた後、男はいずれかに立ち去った」みたいなものも事案として報告されているのです。

 それは普通のコミュニケーションでは? と思ってしまうようなことも事案としてあがっていますが、実際にその場では気持ち悪い感じがしたからこその事案なのです。

 川上氏も、ある晴れた日に公園で子供たちににこにこ笑って手を振っていたところ、お巡りさんがやってきて「きょうは、どうされました」と話しかけられた経験があるといいます。その後、住まいや仕事など続けて質問され、「そうですか、じゃ」みたいな感じで去っていったそうで、いつのまにか事案に参加していたのです。

 いつどんな時に事件が起こるかわからない世の中ですが、人の親切を警戒しすぎるのも気持ちの良いものではありません。何事もバランスが必要ということなのでしょうか。

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