バトン部の顧問は、グリコ・森永事件の「キツネ目の男」?

WANTED!!かい人21面相
『WANTED!!かい人21面相』
赤染 晶子
文藝春秋
1,234円(税込)
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 いまから27年前にあたる1984年。10月7日から13日にかけて、大阪府、兵庫県、京都府、愛知県のスーパーから青酸ソーダが混入されたお菓子が発見されました。日本中を震撼させた「グリコ・森永事件」です。

 この毒入りお菓子の発見は、江崎グリコ社長誘拐事件・脅迫事件に続き、森永製菓にもその脅迫がおよんだ時のこと。森永製菓のお菓子には、「どくいり きけん たべたら しぬで かい人21面相」と書かれた紙が貼られており、大手スーパーなどでは、森永製菓のお菓子を撤収するなど大きな影響を与えました。

 また、実際に毒入りお菓子が発見されたことで、多くの子どもを持つ親にも恐怖心を受け付けました。そんな同事件は、不審車両を取り逃がした滋賀県警の本部長が焼身自殺したのを機に、犯人側から終息を宣言する手紙が届き沈静化します。犯行の動機は不明。警察発表によると、「かい人21面相」と名乗る犯人グループは、ひとりの殺人も犯しておらず、一円の現金奪取にも成功していないのです。後に昭和最大のミステリーとまで言われる、世紀の大事件となりました。


 そんなミステリー事件に登場する「キツネ目の男」をテーマにしたのが、『乙女の密告』で第143回芥川賞を受賞した赤染晶子による受賞第一作目『WANTED!!かい人21面相』。

 京都府南部の高校に通う2年生のわたしと親友の楓。2人ともバトン部に所属しており、楓はレギュラー、わたしは万年補欠部員。ある日、パーマ屋のポスターを見た楓は、バトン部の顧問の先生を「キツネ目の男」だと信じ込んでしまいます。実は彼女たち、子どものころに「キツネ目の男」に会ったことがあるのです。

 「キツネ目の男」だと信じてやまない楓は、バトン部のセンターに選ばれなかったことで、顧問に「かい人21面相のくせに!」と言ってしまう。それに怒った顧問は楓をレギュラーからも外すと言いました。その腹いせに今度は、「顧問の先生、かい人21面相です」と、110番通報してしまうのです。

 負けん気の強い楓と、それに振り回されるわたし。顧問を失ったバトン部はどうなるのか。

 「グリコ・森永事件」の舞台になった京都府南部の高校でおこった小さな事件。はたして顧問は本当に「かい人21面相」なのか。芥川賞作家の赤染晶子が、破天荒な女子高生をユニークに表現しています。

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