浅田真央もこうして育てられた!? 雫井脩介の最新作は、フィギュアスケートの世界を描いた長編小説『銀色の絆』

銀色の絆
『銀色の絆』
雫井 脩介
PHP研究所
1,728円(税込)
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 10代~40代の男女1000人に聞いた「2011年好きなスポーツ選手ランキング」で、女性部門の1位に選ばれたフィギュアスケートの浅田真央選手。今年の顔である、なでしこジャパン・澤穂希選手を抑えての堂々1位は、個人の魅力もさることながら、フィギュアスケートという競技の華やかさと無縁ではないのかもしれません。

 2011年‐2012年シーズンが10月に開幕したばかりのフィギュアスケートですが、そこにタイミングを合わせるかのように、その世界を舞台にした小説が発刊されました。タイトルは『銀色の絆』。著者は『犯人に告ぐ』『クローズド・ノート』を書いた雫井脩介氏です。

 主人公は、藤里小織と梨津子の二人で、一流スケーターを目指す高校一年生の娘と、それを支える母親の物語です。ある事情から名古屋へ引っ越すことになった母娘。それまでは"稽古事レベル"のスケートでしたが、素質を見込まれた小織は、世界女王やオリンピック選手を育てた名コーチに指導を受けることになります。

 早朝や夜間に行われる練習。選手本人も大変ですが、母親は娘のために身を粉にして働きます。その役割は細部にわたり、練習場への送迎にはじまり、体調管理、精神面・技術面のアドバイス、コーチへの弁当作りやコーヒーの差し入れにいたるまで...。最初は親に課せられた大きな負担に反発を覚える梨津子でしたが、次第に娘とともに成長していきます。

 ここで描かれるコーチ、母親、娘という女性ばかりの世界は、著者の丹念な取材の賜物でしょう。氷上での美しい演技の裏にある過酷な現実。浅田真央選手やその他の名スケーターたちがたどってきた道のりはどうだったのか。自然と想像する人も多いのではないでしょうか。

 映画化され、著者の代表作ともいえるミステリー、『犯人に告ぐ』を知る人からすると、この作品は異色なものに思えるかもしれません。けれど、雫石脩介という作家は、以前こう語っています。「描きたいのは人間ドラマ。事件は人を動かす道具でしかない。警察小説はもう書ききった」と。

 フィギュアスケートを引退した大学生の小織が、過去を回想する形で描かれている本作。なぜ彼女は、スケートに別れを告げたのか――。ミステリー作品ではありませんが、読者が読み進めたくなる仕掛けを作者はきちんと用意しています。

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