賑わう浅草の「裏の顔」~『笑い三年、泣き三月。』

笑い三年、泣き三月。
『笑い三年、泣き三月。』
木内 昇
文藝春秋
1,728円(税込)
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 新たな年を迎え、正月の浅草は参拝客で賑わいました。着物を着て歩く人や人力車、雷門や平成中村座の建物などを見ると、「風情のある粋な浅草」に「日本人」ということを誇りに感じるものです。また、今年の5月にオープンするスカイツリーにも近く、ますます注目されるスポットになっていくことは間違いありません。

 そんな浅草にも、今では考えられないほどの「暗い時代」があったのをご存じでしょうか。今から67年前の東京大空襲。多くの人々を犠牲にしたこの戦争は、浅草にも焼け跡を残していきました。

 その暗い戦後の浅草を舞台に、切なくも明るい、おかしな人々が強く生き抜く様を描いた小説が『笑い三年、泣き三月。』。この作者は、昨年『漂砂のうたう』で第144回直木賞を受賞した木内昇氏。詳細に調べ上げられた背景と、架空のはずなのに、あたかも実在したかのようなリアルな登場人物が織り成す物語が展開されます。

 登場人物は、旅芸人、復員兵、戦争孤児、ストリップの踊り子といった個性も事情もばらばらな人々。戦後の浅草のストリップ劇場で、必死に笑い、必死に生きようとする前向きな言葉がこの本には散りばめられています。
 
 例えば、旅芸人の岡部善造は、「『死ぬ』に『~たい』って希望をつけるなんておかしかよ~。誰でも最後は必ず死ぬでしょう。そんな、誰でも必ずできることに、希望を込めた言葉をあてるのはおかしかよ~」と大笑いします。そして、善造は戦災孤児の武雄に言います。「どうぞ笑って生きてください。それがおじさんの、たったひとつの望みよ」

 今の楽しく賑やかな町に戻る前の浅草では、このような場面があちこちで繰り広げられたに違いありません。強く、たくましく生き抜いた先人たちが成し遂げた復興に想いを馳せながら浅草を巡ってみると、また違った町の表情を感じ取れるはずです。

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