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アノヒトの読書遍歴 久住昌之さん(前編)

中学は文庫本、高校は安部公房がかっこいいと思っていた。
"青春ノイローゼ"の一種だったね(笑)


 漫画家、漫画原作者としてだけでなく、音楽活動や切り絵作家としても活躍する久住昌之さん。今年に入って、代表作でもある著書『孤独のグルメ』がテレビドラマ化され、また最新刊『昼のセント酒』も話題になっています。久住さんの多彩な才能はどこから生まれたのか。どうやら、その答えは本にあるようです。

 「子どものための百科事典で『絵本百科』というものを、僕が幼稚園の頃に母が買ってくれました。森羅万象の事柄を全5巻で、アイウエオ順に並べているんですね。見開きで一項目を絵で見せていて、たとえば、『い』だったら『家』。次が『石』。『犬』『色』『印刷』『インディアン』とか、ものすごくランダムにいろんなことが出てくる。『う』は最初が『うお』。さかなのさじゃなくて、うお(笑)。『牛』と続いて、急に『宇宙』に行っちゃうというね。しかも、宇宙旅行が描かれていて、『宇宙船は火星に到着しました』って書いてある。『してないんじゃなかたっけ、まだ』って思ったり...(笑)。めちゃくちゃといってもいいくらいの脈絡のなさとざっくり加減がおもしろかったですね。これが僕の今やっていることの元になっている本。読んだというより、ものすごく見て、自分のセンスに刷り込まれていった。本当に影響を受けていると思います」(久住さん)

 B4サイズくらいの大判の本で、久住さんに見せていただいたものは、当時実際に読んでいた初版本。約50年前に出版されたそれは色あせていましたが、ページ全体に描かれた絵の数々を見れば、子どもが夢中になったのもわかります。写実的だったり、イラスト的だったりと、絵の雰囲気が統一されていないのも百科事典らしさなのかもしれません。

 ほかにも、バージニア・リー・バートン著の『せいめいのれきし』という絵本が大のお気に入りで、ボロボロになるまで読んだそうです。どちらも、子どもっぽい絵やデザインではなく、大人でも十分に楽しめる作りこまれた本。子どもに"媚びたような絵"でないところも久住さんが惹かれる理由です。

 「子どもは絵本を子供っぽくしなくても楽しむものなんだ、おもしろがるものなんだと思うんです。動物図鑑や昆虫図鑑も大好きだったのですが、子どもっぽく描かれるより、大人っぽく描いてくれたほうがいい。小さいころからそう思っていました。だから逆に大人になっても、幼稚園の時のセンスっていう(笑)。そういう部分はあまり変わらないんじゃないですかね」

 小学校に入ってからも読書は好きで、低学年のころは感想文を書いては先生にほめられていたという久住少年。しかし、そんなことがたびたび続いたのち、わざと本は読まなくなったそう。それは、感想文をほめられるより、スポーツができる男の子のほうがかっこいいと思ったから。それが、元の本好きに戻ったのは、こんな事柄がきっかけ。

 「小学6年のときに、クラスの友達が文庫本を読んでいて、それがかっこいいなと。最初はシャーロック・ホームズの『まだらの紐』。中学に入ると、友達が星新一を読んでいて、それをかっこいいなと思って。自分もいっぱい読みました。読みやすいしね。いま思い出すとちょっと恥ずかしい。中二病ですね」

 男のかっこよさと本には深い関係があるんですね。中学に入ると漫画を読みはじめ、つげ義春、林静一の作品に初めて触れたのもこのころ。高校に入ると、読書家の友人に影響を受けたそうです。

 「ある友達が『太宰治は教科書に載っているのはおもしろくないんだ』と言うんですね。それで短編を読んでみたら、笑える作品があって、太宰のおもしろさ、文章の面白さを思い知りました。別の友人に『安部公房を読まなきゃダメだよ』って言われて『砂の女』とか『箱男』とか、何が書いてあるかわけがわからないんだけど、そこがかっこいいと思いながら読みました。中学は文庫本、高校は安部公房読んでりゃかっこいいと思っていた(笑)。"青春ノイローゼ"の一種ですね」

 若き日のころを思い出して、苦笑する久住さん。少し背伸びをした青年時代に本が重要な役割を担っていたんですね。

 後編は、漫画家としてデビュー後、念願かなって作った本や、本が連れてきた不思議な縁についてのお話を。


<プロフィール>
久住昌之 くすみまさゆき
漫画家。1958年東京生まれ。大学在学中、美術学校で赤瀬川原平に師事する。1981年にその同期生である泉晴紀と組み「泉昌之」名義で、漫画誌『ガロ』でデビュー。1990年に実弟・久住卓也とのユニット「QBB」で発表した『中学生日記』で第45回文藝春秋漫画賞を受賞する。代表作のひとつである『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著)は現在テレビドラマ化され、オンエア中。最新刊は『昼のセント酒』。

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