オウム事件を追った森達也が次に挑んだのは「オカルト」

オカルト  現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ
『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』
森 達也
角川書店(角川グループパブリッシング)
1,620円(税込)
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 特別指名手配犯、高橋克也容疑者の逮捕を受けて、久しぶりにオウム事件当時の熱狂を思い出したという人も多いのではないでしょうか。オウム事件をテーマにドキュメンタリー作品を世に送り出してきた映像作家、森達也氏。彼はその集大成として『A3』を執筆し、昨年度、講談社ノンフィクション賞を受賞しました。

 そんな氏の受賞後一作目となったのが、取材対象をオカルト(隠されたもの)に求めた『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』です。

 本書の取材対象者は、70年代に「スプーン曲げ少年」として、マスコミの寵児となった超能力者、清田益章氏をはじめ、UFO観測家、臨死体験者、メンタリストなど多岐にわたります。

 森氏は、彼らに直球の質問でぶつかっていきます。そして、実際に不可思議な現象を目の当たりにします。手を軽く触れただけでグニャグニャと曲がるスプーン。常連客が亡くなったあと、毎日、同時刻に誰もいないのに開閉する自動ドア。相手が心に思い描いた数字をピタリと言い当ててしまうメンタリスト......。

 それはトリックなのか、本当のオカルトなのか? 森氏は取材すればするほど、「わからない」と煩悶します。氏は、「超常現象やオカルトがあるのかないのかの二元論に埋没することがどうしてもできず、結局はその狭間(わからない)を定位置にしていることだろう。もちろんできることなら、肯定であれ否定であれ、断定したい。曖昧さを持続することは、実のところけっこうつらい。楽になりたいと時おりは本気で思う。でも断定できない。どうしても片端に行けない。専門家になれない」と。
 
 「わからない」を原動力に、次こそは、真相に迫れるかもしれないと、次の取材対象者に対峙する森氏。その一貫した姿勢に読者はひきこまれます。理解できないものを拒絶することは簡単ですが、氏は決して、思考を停止することをやめません。考え続けることの大切さ、わからないことに挑んでいくスリルを私たちに気づかせてくれるのです。

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