女性の痛みも嫉妬も丹念に描いた『冥土めぐり』、芥川賞受賞なるか

冥土めぐり
『冥土めぐり』
鹿島田 真希
河出書房新社
1,512円(税込)
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 第147回芥川賞の候補が発表され、鹿島田真希氏の『冥土めぐり』がそのひとつに選ばれました。

 書籍には、表題にもなっている「冥土めぐり」と「99の接吻」の2作品を収録。「冥土めぐり」では、没落していながらも、裕福だった過去にすがる母と弟から逃れるため、主人公が「過去を振り返る」旅に出るという物語。この「過去にすがる母と弟」の執着ぶり、そしてその不愉快なまでの傲慢さが精緻に描かれていることで、そこから逃れたい主人公の心情を痛いまでに感じることができます。

 この精細な描写は、「99の接吻」でも活きています。谷根千界隈に住む四姉妹が、よそからやってきた一人の若い男に恋したことによってそれぞれに変化していく様子が、緻密にそして官能的に描かれています。純粋な長女、自分を強く持っている次女、したたかなところのある三女、そしてそんな姉たちを、異常なほどに愛してやまない、主人公である四女。主人公は姉たちを愛するがゆえ、彼女たちのわずかな変化も見逃しません。そしてその描写から、読む側は恋する女性の微妙な変化と、主人公の異常な姉妹愛とをリアルに感じることができます。

 女性同士の愛情、嫉妬、争い、そして精神と肉体の変化。鹿島田氏が描くそれらは、時に詩的なひびきさえ感じさせるものになっています。

 女性が精緻に描いた女性の姿。読者が男性であれ女性であれ、引き込む力をもった作品です。芥川賞の受賞はなるか、気になるところです。

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