満たされていないから、読む――エリートヤンキー橘みのる 本の宵 #0 読書芸人の夜

 『アメトーーク!』の「本が大好き! 読書好き芸人」にも出演した漫才コンビ・エリートヤンキーの橘みのるが、今、注目の本屋「B&B」でトークライブを開催。ライターのおーちようこを聞き手に、小説にまつわる公開インタビューとピンネタを披露。静かに雨音が響く夜、まるで学校の図書室のような空間で繰り広げられた、公開インタビューとレポをお届け。

 小説との出会いは小学生当時、同級生の父の書斎。

「ずらりと本棚が並んでいたなかから、宗田理さんの『ぼくらの七日間戦争』を読んだんです。それがおもしろくて『ぼくらシリーズ』を全部を読みました。両親も小説が好きで、灰谷健次郎さんの小説は母が、たぶん読みかけだったんだけど貸してくれました。絶版になってしまっていますが『砂場の少年』がいちばん好きですね」

 しかし、その後、少しぐれる(笑)。小説から離れることに。

「でも中学2年生になって、萩庭先生という学年主任で国語の先生がやってきて、僕らを家に招いてくれたりと、すごく向き合ってくれたんです。それが、あるとき授業を抜け出そうとしたら止められて。僕らは騒いで邪魔になっちゃいけないと思っていたから外に出ていたんだけど、それだとどこでなにしているかわからなくなっちゃうので『何をしていてもいいから教室にいろ』と言われて。

 なら教室にいようと、でも騒いだら悪いからどうしようかと考えていたときに、じゃあ本を読もうと。そうしたら『感想を教えてくれ』と言われ、書くのはいやだけど話すことはできると思って読んでは話しに行きました。

 たぶん、ぐれる、っていうのは思春期に言葉を使って自分の気持ちを伝える術を知らなくて、もどかしいがゆえにそうなってしまっていた。それが本を読み、感想を口にすることが僕にとっては心を整理し、伝えることにとても大きく作用したと思うんです」

 同時に他者と共有するためのものだったとも。

「当時は意識していなかったけれど、今は仕事として考えると、アウトプットすることでみんなとたとえば話題や時間を共有したかったのかもしれません。基本的に人はつながるために生きているんだと思うから」

 なぜ、小説なのか?

「考えるに自分がワガママだからかな、と。好き勝手に想像できるから。よく、想像力豊かですね、といわれますが、それはちがっていて作品世界に対してワガママでいたいだけなんです」

 そんな自身はコントのネタを考えることも。

「普段は相方(西島永悟)がネタを書くんですが、ピンネタと単独ライブのときだけネタを書きます。なぜか人が死んでしまう話が多いんですが(笑)、小説から言葉はだいぶいただいているなと思います。

 ただ、決してアウトプットのためだけに読んでいるわけでもないんです。ご存じの方もおられるかと思いますが、僕は普段は暗いので(笑)、ひとりでいることが多くて、そのときに本を読むことが楽しみなんです。もしも最初に出会ったのがゲームだったらずっとゲームをやっているかもしれませんが、小説でした。それに、読んでいるときはいやなことがあってもどこか別の場所に連れて行ってもらえるから......これは私感ですが、もしも身も心も満たされていたら、たぶん娯楽なんてひとつも要らなくて、大切な人と語らうだけでいいと思っているんです。そういう意味では、しばし満たされるために僕は小説を読むのかもしれません」

 公開インタビューのち、休憩を挟んでの後半はピンネタの小咄を披露し、夏目漱石や太宰治の台詞を題材にした大喜利へ。参加者とともに見学に来ていた後輩芸人、田畑藤本の藤本淳史、ツインドライブのメメ高橋も果敢に参戦。東大卒でクイズ番組にも出演する藤本が大真面目な回答を披露すると「硬い、硬い!」と橘がいなし、意外にも参加者の回答が場を湧かす一幕も。

 また、この日は「みのる図書館」と題して、自身の選書も販売。慈しむように一冊、一冊の思い出も語り、本に浸った二時間は瞬く間にすぎた。終演後、「楽しかった。やりたいことも見つかったので続けていきたい」と今後の豊富も。12月には#1の開催を予定。

文/おーちようこ

#0 みのる図書館 リスト

「夜のピクニック」「ドミノ」恩田陸
「兎の目」灰谷健二郎
「イン・ザ・プール」「邪魔」奥田英郎
「民宿雪国」「さらば雑司が谷」樋口毅宏
「空飛ぶタイヤ」「民王」池井戸潤
「十角館の殺人」「水車館の殺人」綾辻行人 ※「辻」は二点のしんにょう辺
「冷たい校舎の時は止まる」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」辻村深月
「潮騒」三島由起夫
「リミット」野沢尚
「禿鷹の夜」逢坂剛
「オリンピックの身代金」奥田英朗
「スイミー -ちいさなかしこいさかなのはなし-」レニ・レオニ(谷川俊太郎 訳)

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