本当は違った「草食男子」の意味

ニュースの裏を読む技術 「もっともらしいこと」ほど疑いなさい (PHPビジネス新書)
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深澤 真紀
PHP研究所
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「最近の若者は、草食化して内向きだ」
「今年の新入社員は、草食男子なので鍛えがいがない」

 最近の日本男子を語るうえで、「草食系」のキーワードは外せないものとなっています。しかし、この「草食男子」の名付け親であり、コラムニスト・編集者でもある深澤真紀氏は、本来の意味とは違った形で浸透していることを心配しています。

 2006年10月にできた「草食男子」。そもそもは、「団塊の世代やバブル世代と比べても、フラットで付き合いやすい」という、ポジティブな意味でした。現在の「消極的で内向的な男性」とは180度違うのです。

 深澤氏自身が、団塊の世代から叩かれたバブル世代のため、同じことを若い世代にしたくないと思い作った言葉だったのですが、いつの間にか若者を苦しめる言葉となってしまったのです。そんな深澤氏は、全国で中高年向けと若者向けに講演をすることが多いのですが、その際に誤解を解くべく真意を話すようです。しかし、講演中に不思議な光景を目の当たりにするといいます。

 「中高年の聴衆の方はなぜか私が若者叩きをしてくれることを期待しているので、私が若者をほめると、がっかりするのです」

 なぜ、がっかりするのでしょうか。深澤氏の考えでは、現在の若者を育てたのは中高年。これからの日本を支える若者が魅力的であることは、悪い話ではないはずです。逆に若者の聴衆は、「中高年世代の人が、自分たちの世代をほめるのを初めて聞いた」と、驚くそうです。「ほめてばかりいないで、自分たちの悪いところも指摘してほしい」と言い出す若者さえいるとのこと。「叩かれている若者の方が、叩いている中高年よりも、よほど大人なのかもしれません」とは深澤氏。

 草食男子のみならず、そもそも「イマドキの若者」というものは、どんな時代でも評判の悪いもの。これは世の常です。草食男子を叩こうとする団塊世代やバブル世代も、若者時代には評判が悪かったのです。深澤氏の著書『ニュースの裏を読む技術』では、こう紹介されています。

 「団塊世代は、長髪にジーンズ、漫画を読み、学生運動に身を投じる若者もいて、親世代の戦中派から『退廃して嘆かわしい』と言われたのです。そして、私も同世代ですが、バブル世代は新人類、偏差値世代、マニュアル世代などと呼ばれ、『自分の頭で考えない』などと、今度は団塊世代から批判されました」

 上の世代もいまの草食系世代と同様に、叩かれていたのです。ただ、上の世代の場合は、高度経済成長期やバブル期と、経済的に余裕のあった時代だったので、当時の若者は少々叩かれても、自分たちの居場所はあったのです。しかし、今の若者は様子が違うと深澤氏は指摘します。

 「今の時代の若者叩きは、『経済状況が悪いのも若者のせい』という論調です。しかし、もし今の時代が悪いのだとしたら(私はそう思いませんが)、その原因は今の日本を作ってきた団塊の世代や私たちバブル世代にあるはずなのですが」

 「草食男子」を叩き、経済不況を嘆けば、もっともらしいことを言っているように聞こえるでしょう。そして、世の中には、そんなもっともらしいニュースで溢れかえっています。そんなニュースを何の疑いもなく信用してもいいのでしょうか。現に「草食男子」は違ったかたちで浸透しています。大人たるもの、もっともらしい記事を読んで、もっともらしいことを言うだけでなく、物事を自分なりに掘り下げて理解することも、時には必要なのではないでしょうか。

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