安野モヨコさんが漫画『働きマン』を再開しにくい理由

日経プレミアPLUS VOL.3
『日経プレミアPLUS VOL.3』
日本経済新聞出版社
751円(税込)
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 体調不良のため、漫画の執筆を一時中断している安野モヨコさん。現在は、朝日新聞での連載『オチビサン』(毎週1ページ)を書きながら、ゆっくり体調を整えています。

 安野さんの代表作の一つ、『働きマン』。密かに同作の復活を楽しみにしているファンもいると思います。『働きマン』休載から5年が経とうとしている今、安野さんは同作についてどう考えているのでしょうか。書籍『日経プレミアPLUS VOL.3』のなかで明かしています。

 体調不良から回復しつつある安野さんは、10ページ以上のネーム(漫画の構想メモ。コマ割りを記したもの)を作れるようにまで回復しており、自身も元気になれば『働きマン』の続きを描きたいと考えているそう。しかし、一つ大きな問題があるのです。同作は、体調不良とは別に、休載前から書き続けにくさがあったと言うのです。

 その理由は、舞台となっている出版業界(主人公は週刊誌編集者)。出版業界は、現在非常に厳しい状態が続いており、休載前よりも更に状況が悪化しています。

「正直な感触で言えば、誌面を見ていても、これじゃダメなんじゃないかと思うところがありました」

「主人公の弘子なら、いまの週刊誌の現実を前にしたら、『この雑誌ではダメだ』と思うだろうな、と。でも、だからと言って弘子が雑誌をどう変えるかという話を考えてみても、どうしても、実際にはどうにもならなかったというストーリーにしかならなくて」(安野さん)

 安野さんが実際に出版社を取材した際、業界に危機感を持っている人に話を聞かせてもらったそうです。しかし、出版のプロでさえも「どうにもできない構造」があるというのです。

 これを漫画にするとなると、相当の気力・体力が必要となってしまいます。業界の行き詰まりの表現は避けて通れないと考えている安野さんにとっては、『働きマン』再開は、非常に難しい業務になるでしょう。同作再開の前に、まず日本の景気回復と、出版社の構造改革を願った方が良いのかもしれません。

 「週刊誌の世界の厳しさを描くなら、広い意味では同じ出版業界の一端にいる自分の立ち位置は......とすごい考えてしまう。そういう環境の中で描くのは、かなりむずかしいことだなと思うんです」(安野さん)

 もし、『働きマン』が再開することになれば、それは、出版業界にとっても明るいニュースとなることでしょう。

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