天才絵師・狩野永徳は、墨の代わりに鼻血で絵を描いた? 

谷津矢車
学研パブリッシング
1,365円(税込)
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 現在、京都国立博物館で安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍した絵師、狩野山楽・山雪の作品を集めた特別展覧会『狩野山楽・山雪』が開催されています。同展では、歴史的絵師2人の作品を併せて80点以上を集め、狩野山楽の「龍虎図屏風」のような重要文化財も展示。また、新たに発見されたものや初公開の作品もあり、歴史的価値の高い展覧会となっています。

 山楽と山雪は日本画壇の代表的画派、「狩野派」から派生した「京狩野」をつくりあげた絵師。豊臣秀吉が没したあと、宗家を含む「狩野派」の多くは徳川家康に仕え江戸にむかいましたが、山楽は秀吉への忠誠から秀頼に仕え京に残りました。一方、江戸に出向いた大多数は「江戸狩野」と呼ばれ、その代表的存在にして日本の美術史上最も著名で重要な画人のひとりとされているのが、狩野永徳です。

 書籍『洛中洛外画狂伝』は、そんな狩野永徳の若き日を描いた時代小説。学研の第18回歴史群像大賞で優秀賞を受賞した26歳の著者・谷津矢車さんにとってはデビュー作となります。会社員でありながら某劇団の脚本も手掛けているという情報以外は一切の素性が明かされていない筆者ですが、文芸評論家の縄田一男氏をして「正に瞠目、二十代最強の歴史作家の誕生」と言わしめるなど、注目が集まっています。

――主人公の天才絵師・狩野永徳こと狩野源四郎は、専門画家集団「狩野派」の宗家に生まれた長男。絵を描くことへの意欲はあるものの"絵師は見本となる粉本を真似て描かねばならない"という父の教えに反発。"心が躍る絵が描きたい"と父との衝突を繰り返していた。

 ある日、祖父と出かけた街で闘鶏を目にした源四郎はそれを描きたい衝動に駆られる。しかし、肝心な墨を持ち合わせていない。すると源四郎鼻は、自分の鼻の穴に指を突っ込んで鼻血を出し、その赤で闘鶏を描く。その光景がひとりの貴人の子どもの目にとまり、運命が動きだすことになるとは。その子どもとは、源四郎に将来「洛中洛外図屏風」を描かせることになる足利義輝(室町幕府13代将軍)だった――。

 1574年に織田信長から上杉謙信に贈られたという「洛中洛外図屏風」は、京の都を一望し、中心部(洛中)と郊外(洛外)を様々な視点から描いた作品として歴史的価値が非常に高い国宝です。しかし、その制作の裏に"戦国の世に天下を狙う男"たちの熾烈な闘いが繰り広げられていたのかもしれないと思うと、その時代の空気そのものがいきいきと伝わってきます。

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