J-WAVE「BOOK BAR」×BOOKSTAND
「たぶん酔ってたんでしょうね、純文学読んでるオレみたいなことに」 アノヒトの読書遍歴:渋谷直角さん(前編)

渋谷直角さん、僕の文章技術は五島勉仕込み。

90年代に雑誌『relax』などで活躍し、現在にいたるまでサブカル界隈の中心人物であり続けるライターの渋谷直角さん。今年上梓した、90年代サブカル愛好者たちの末路を描いた漫画『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』も話題です。今回は、独自のセンスと嗜好と思考を形作ってきた、渋谷さんの読書遍歴に迫ります!

「子供の頃は、基本的に漫画ばかりでした。母親の実家に、当時母親が読んでいた『ガロ』とか『COM』とか、70年代の『チャンピオン』や『マガジン』とかがいっぱい置いてあって。子供って漫画なら何でも読みますからね。『キン肉マン』とか、コロコロ的なものとかを読みながら、つげ義春の『チーコ』でどんよりしたり(笑)。そういう感じでしたね」

ちなみに渋谷さんの名前「直角」(本名)は、小山ゆうさんの漫画『おれは直角』が由来だそうで、漫画の星の下に生まれてきたような、そんな感じなのかも知れません。

「漫画以外にも小学校3年ぐらいの時に読んで、トラウマになった本があります。当時ベストセラーだった、五島勉先生の『ノストラダムスの大予言』。でも、中学・高校ぐらいになって気付いたんですよ。他の人が書いたノストラダムスの本、あんま面白くねーぞって。五島勉がすごいんじゃないかって。それから五島勉ばっかり買うようになったんです。上手いんですよね、文章が。ごまかしがすごいんですよ(笑)。全然辻褄が合ってなくて、冷静に読むとおかしくねーか、これって思ったり。何年か後に読み返してみると、82年にこんなことが起きると書いてあるけど全然起きてないとか。あれ、これ嘘なんじゃないか?って思うんですけど、それをいかにもリアリティがあるように錯覚させる文章のスキルがすごいんです」

そして驚きの告白も。実は渋谷さんのライター業の礎にあるものも、五島勉なのだそうです。そんなに!?

「中学の卒業文集を、五島勉っぽい文体で描いたんです。国語の先生には低評価だったんですけど、親は爆笑してました(笑)。僕のライターとしての文章の技術的なところは、五島勉仕込みなんです(笑)。内容自体を信じてはないですけど、単純にエンターテイメントとして、五島勉さんの『ノストラダムスの大予言』は超面白い。今も出してるんですよね、予言の本。ノストラダムスは流石にもう説得力ないだろう的なことで、釈迦とか。でもね、今年出した新刊が、けっこうキレッキレで」

『宇宙戦争』や『タイムマシン』などの名著を残し、SFの父ともいわれるH.G.ウェルズには、実は予知能力があった!?とする『H.G.ウェルズの予言された未来の記録』です。

「"アーモンドの花が咲く"という詩みたいなものが、ウェルズの作品の一節にあって。そういう意味深なワードから妄想して、その一コで最後まで引っ張っていくんです。あと、突飛なことを仮定で言ってきて、もしそうであるならば!と、どんどん発想を飛躍させて、どんどんごまかしていくんですよね。大人になってライターをやって、改めて五島勉を読むと、文章うまいなぁって思うんです。あの技術はなかなか真似できないですし、もう結構な高齢なのにいまだ衰えないスキルもすごいですね。エンターテイメントとして読める人にはお勧めです。闇雲に信じちゃう人には危険なので、冷静な感じで読んでいただけるといいと思います」

ちなみに五島勉以外に、思い出に残っている本はありますか?

「サリンジャー的なところから、三島、太宰とかも読んでましたけど。自分の中の要素として、ほんと一切残ってないですね(笑)。たぶん酔ってたんでしょうね、純文学読んでるオレみたいなことに。今読んでも、全然思い出せないですもん」

......あるあるです。

後編では、『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』に影響を与えた本たちをうかがいます! お楽しみに!

【プロフィール】
渋谷直角
しぶや・ちょっかく/1975年東京練馬区生まれ。ライター、漫画家。出版社勤務を経て、『SPA!』(扶桑社)、『ケトル』(太田出版)、『GINZA』(マガジンハウス)など、雑誌&WEB等で連載多数。著書に『直角主義』(新書館)、漫画『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』など。12月9日に、『RELAX BOY』(小学館クリエイティヴ)が発売!
http://chokkaku.jugem.jp

取材・文=根本美保子

81.3 FM J-WAVE : BOOK BAR

« 前のページ | 次のページ »

BOOK STANDプレミアム