作家の読書道 第135回:新野剛志さん

ツアー会社の空港支店に勤務する青年の奮闘を描いた、笑いと涙たっぷりのエンタメ小説『あぽやん』がドラマ化され話題となった新野剛志さん。江戸川乱歩賞受賞のデビュー作『八月のマルクス』をはじめ著作には硬質なミステリも多数。こうした作風の源となった読書遍歴とは? デビュー当時の話も含めて来し方をたっぷりうかがいました。

その1「格好いい装丁の本が好きだった」 (1/5)

  • ([え]2-2)少年探偵団 江戸川乱歩・少年探偵2 (ポプラ文庫クラシック)
  • 『([え]2-2)少年探偵団 江戸川乱歩・少年探偵2 (ポプラ文庫クラシック)』
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  • ああ無情 (こども世界名作童話)
  • 『ああ無情 (こども世界名作童話)』
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――幼い頃の読書の思い出を教えてください。

新野:最初に浮かぶのが乱歩先生の「少年探偵団」のシリーズですね。小学校2年生くらいだったのかな。そういう小説に憧れがありましたね。将来警察官や刑事になりたいと思ったりしたのかもしれません。あとはいわゆる世界名作シリーズ。子ども向けのダイジェスト版ですが、あれを読んだがために後から大人向けのものを読む気がなくなってしまいました。『ああ無情』もそうですし、『罪と罰』などもそれで読みました。

――家にそうした本があったのですか。

新野:父がはやくに亡くなって、母の姉夫婦のところに間借りしていたんです。伯母の家には僕より10歳以上年上の男の子が二人いて、そのおさがりの本だったと思います。伯母の旦那さんが学校の先生で、子どもに本をよく買い与えていたようです。小学校3年生になると自分でポプラ社のルパンやホームズのシリーズを買ってもらって読みました。

――本が好きな子どもだったんでしょうか。

新野:そう思います。読書そのものというよりも、従兄弟のお兄さんたちがそばにいたからか背伸びしたかったし、「頭がいい」ということに憧れがあって読んでいたんでしょうね。本そのものも好きでした。「少年探偵団」のシリーズは装丁の力が大きかった。よく憶えているんですが、おさがりでもらったなかで『青銅の魔人』はカバーがなくなっていて、それだけで読む気がしませんでした。岩波のドリトル先生のシリーズも「少年探偵団」と同じで、装丁が好きでした。あれは中の挿絵もよかった。高学年向けなので難しくて中味をはっきり分かっていたわけではないんですけれど、あの本を持って歩くのが好きだったんです。家の中で持って歩いていました(笑)。祖母がやって来た時なんか、わざわざ本を持って階下に降りていったりして。その本を持っている自分が素敵、みたいなイメージがあったんでしょうね。

――可愛らしい。読むのは探偵小説や冒険小説が多かったんですか。

新野:そうですね。「ハルとロジャーの冒険大作戦」のシリーズも好きでした。中学生くらいの兄弟が主人公で、お父さんが学者で、海外の火山に行って噴火を見たり、アフリカに行ったりするんです。集英社から全12巻で出ていたようです。

――小説以外のものは読みましたか。例えば図鑑や偉人伝とか。

新野:百科事典は小学校の頃に2回買ってもらいました。低学年用のやさしいものと、高学年になってから買ってもらった写真などが載っているものと。どちらも好きでした。後ろのほうに人名図鑑があって、偉人たちのやったことの簡単な説明が載っている。そこをペラペラとめくってよく見ていました。

――自分で物語を作ったりはしなかったのですか。

新野:一人で書いてみたいと思ったことはなかったんですが、小3の頃かな、学校の給食時間に一組か二組ずつくらい何か出し物をやることになっていて、自分も仲間3人で劇をやろうということになったんです。それで台本を書いたのが、はじめての創作ということになりますね。アフリカに冒険に行く話でした。「アフリカに行こう、でもアフリカっていうのは国の名前じゃないんだぜ」という台詞を入れたのを憶えています。小3くらいではまだみんな分かっていないので、小ネタとして気に入っていたんです。劇の話自体は、あまりまとまってなかったように思います。あとは物語ではないんですが、小2くらいの頃に即興で落語をやりました。自分でも「キマッた」と思うくらいまわりが笑ってくれたんです。もちろんちゃんとした落語ではなかったと思いますが。それでもう1回やったら今後は思い切りすべって、もう二度とやりませんでした。

――クラスの中心的な存在だったんでしょうか。

新野:僕自身はガキ大将だと思っていたんです。授業中にも茶々をいれるような子どもでしたから。幼稚園くらいの頃は5月生まれだから身体も大きいほうだったし、ケンカしても負けなかった。小学校でもガキ大将のつもりでいたら、ある日「新野って怒ると怖い」と言われて、つまりは怒っていない時は怖くないんだ! と気づきました。

――作文は得意でしたか。

新野:得意だったイメージはないですね。好きでもなかった。でも目立ちたがりだったのか、読書感想文を勝手に書いて提出したことがありました。「書いてもいいよ」みたいに言われて、必須ではないから他に誰も書いてこなかったのに自分だけ提出しました。E・R・バローズのジュブナイル系のSFだったと思います。早川書房の、ポケミスと同じような判型のビニールカバーのかかった本で、それが格好いいと思いましたね。

――漫画は読みましたか。

新野:男臭いものが好きでした。『愛と誠』とか『男組』といった、しっかりした絵のものが好きでした。僕自身も小学校の頃までは漫画家になりたかったんです。中学生くらいまで絵を描いていました...というほど描いてはなかったかな。4年生の頃に課内活動で漫画クラブに入って描いていました。話は探偵ものだったと思いますが、完成させられませんでした。ストーリーがまともに浮かばなかったんです。絵は自信があったんですけれども。写生のように、何かを見てきっちり描くことは得意だったんです。

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プロフィール

1965年東京都生まれ。立教大学卒。1999年『八月のマルクス』で第45回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2008年『あぽやん』で直木賞候補。連続テレビドラマ「あぽやん」が放映中。最新刊『美しい家』は、理想的な家族とは縁の薄い人生を送ってきた三人の男女が、家族を求めて引きおこす悲劇を描いた鮮烈なミステリー長編。