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  お鳥見女房  お鳥見女房
  【新潮社】
  諸田玲子
  本体 各1,600円
  2001/6
  ISBN-4104235040
 

 
  今井 義男
  評価:AA
  代々御鳥見役を勤める矢島家で、二人の居候が出会い連作集の幕が開く。一人は妙齢の身ながら父の仇を追う多津、いま一人はその追われる当人の見るからにさえない中年脱藩浪人・源太夫である。人のよい矢島家の家族とこの訳ありの居候、プラス源太夫の可愛らしい子供たちが一つ屋根の下で暮らす大変に賑やかで面白いホームドラマである。食い意地の張った源太夫一家に目を細める珠世や娘の君枝、生真面目な二人の息子、珠世の父・久右衛門もそれぞれいい色合いを出している。恋や小さな事件をからめながら、全体にほのぼのとした作風の中に、御鳥見役の裏の任務で出立を命じられた当主・伴之助の消息や、多津の仇討ちの顛末など、興味の尽きない場面が随所に用意されていて、きりっと締まった時代小説に仕上がっている。大鷹狩のさなか、伴之助の苛酷な運命をさりげなく暗示した一節には、冷やりとした刃先を突きつけられたような緊張が走った。ところで続編は書かれるのだろうか。

 
  小園江 和之
  評価:C
  将軍家の鷹の餌となる鳥の生息状況を調べる役職で、実は隠密行動もすることもある、「お鳥見役」。その一家に浪人(五人の子持ち)と彼を親の仇と狙う女剣士が同時に転がり込んで居候となる、って書くといくらなんでも無茶っぽいつかみですが、この一家のお内儀・珠世さんの天真爛漫さがそれを不自然と思わせない仕掛けです。この後一年間、居候同居状態が続く間にいろんなことが起こるわけですが、珠世さんはのんびり屋のようで、実は細やかな心遣いをする人ですし、居候している人達も不器用ながら相手の心情を思いやる。まあ要するに真っ直ぐな心根の持ち主ばっかしなんですね。でもそれが不満というのではなく、そこはかとない温かみを味わえばそれでいいのだと思います。

 
  松本 真美
  評価:B
  またまた出ました時代小説の佳作。江戸時代、どーでもいい(?)鷹狩りなんぞを仕切ってたお鳥見役には隠密役という裏業があったのね。そういう裏業話好きです。その方向で続編読めそうだし今後も楽しみ。…とにかく、このお話は珠世の魅力に尽きる。江戸時代の肝っ玉かあさん。でもさ、実際の京塚昌子ってけっこうヤな性格だったんだって?関係ないし、若年層には「誰それ?」な話ね。…と、とにかく、心がねじれかけた珠世と同世代の女には沁みる逸品です。インコの響子も読めばよかったのにね。でも、珠世の菩薩観音ぶりがよけいに神経を逆撫でしたかも。まあ、源太夫一家とか多津は、ちょっと予定調和っぽいキャラだという気がするが、安心して見れる昔の8時台のホームドラマみたいでホッとします。カルピスとか提供でさ。…これって、まんま『肝っ玉かあさん』じゃん!

 
  石井 英和
  評価:D
  ホ−ムドラマ系の時代小説とでも言うべきか。ひょんな事から大家族(しかも色々と訳あり)となってしまった下級武士一家の生活が語られて行くのだが・・・テレビ化されるとしたら、膳を囲んだ家族がワイワイやりながら食事をするシ−ンなどが毎回の見せ場となるのであろう。各話において、毎回、事件らしきものも起こりはするのだが、それらもそんな「家族の風景」の中を吹きすぎるそよ風、程度の重さしか持たない。著者の最大の関心事はドラマを演出するよりも、移り行く時を共に過ごしながら心を触れ合わせる大家族たちの、日々の有り様を描く事なのだろう。そんな訳で・・・ごめんなさい、私には退屈でたまらなかった。が、まあ、これを読んで心温まる方もおられるでしょう。

 
  中川 大一
  評価:B
  連作短編集は、本全体を貫く大きなストーリーと、各編を盛り上げる小さなストーリーとからできあがっている。両者のハーモニーが肝になるわけだが、本書は十分合格! 7話の間に、大ストーリーを徐々に進行させつつ、一編ずつをも楽しませる。総じて、肩の凝らない軽い読みものといった仕上がりだ。時代小説は下手をすると説明っぽくなりがち。軽く読めるようできあがってるってことは、それだけ作者の語りがすぐれてるってことだね。ここで恥ずかしい告白を一つ。鷹狩りって、鷹を狩るのかと思ったら違うのね。鷹に獲物、例えば鶉を狩らせるのねえ。「八双」とか「鯉口」という言葉もよく知らなかったんだ。不肖、新刊採点員を拝命するまで時代小説はほとんど読んだことがなかったんです、お粗末!

 
  唐木 幸子
  評価:A
  題名にもなっているわけだが、ゴッドマザーのような珠代の存在が印象的だ。表向きは幕府のお鳥見役(鷹狩りの鷹の餌になるスズメの捕獲と調査が仕事。何だか暇そう)の夫が隠密裏家業で出かけた後、その女房の珠代は、隠居老人から腕白な子供たちまであふれ返る騒々しい大家族を賢く切り盛りして守りきる。この珠代、中年女性なのにえくぼが可愛いというのが良いなあ。彼女の手にかかれば、敵討ち同士でも一つ屋根の下に暮らして愛し合うようになってしまうのだ。こういう江戸時代ものは変にコミカルだったりしてつまらない思いをすることがあるが、本作はそういう受け狙いは一切なく、悲劇は悲劇として描かれるのが清々しい。家族ひとりひとりの人物描写も7つの各話のつながりも、考え抜かれて非常に丁寧に書かれており、宮部みゆきに対するとはまた一味違う好感を持った。

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