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勝手に目利き
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数学的にありえない
数学的にありえない(上・下)
アダム・ファウアー(著)
【文藝春秋】
定価2200円(税込)
2006年8月
ISBN-4163253106
ISBN-4163253203
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  清水 裕美子
 
評価:★★★★★
 一年を締めるにふさわしい堂々の大作に狂喜乱舞、一気読み。『パズル・パレス』より面白く『ロシア皇帝の密約』のように最後まで手に汗握る。ネタもサブカル的に大満足(笑)。
 賭けのテーブルの席で統計学の学者・ケインに訪れた危険な能力の発露。それは未来にアクセスできる力。いくつもの選択肢をたどり、望む未来を実現できる。双子の兄と共にどこまでが妄想なのか分からない中で、ロシア出身の美女諜報員に追われ&そして共に逃げる日々に突入。あっ!と驚く「おまえが黒幕かー!」なドンデン返しに派手な爆破とアクション。統計学のウンチクも素晴らしい。京極夏彦に慣れた読書人にはアッサリ風味に思えるが、きっと欧米では東洋の神秘も感じられるのだろう。映像化しがいのある構成です!
 読後感:読ませて下さってありがとう!

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  島田 美里
 
評価:★★★★☆
 思いっきり数学の話なんだろうなあと悲しい気持ちで読んでいたら、国語の読解問題みたいに、答えがたくさんあるような柔軟な物語だったので、ほっとした。主人公は、カジノでぼろ負けして借金を背負った元統計学講師のケイン。その脇を、CIAの女工作員、愛人を被験者にして研究をする科学者、宝くじに当たって億万長者になった男などが固めるが、全部読まないとどんな関係なのかさっぱりわからない。ケインは、癲癇の発作に悩んだ末、開発中の実験薬を服用し、ありえない能力を手にする。ここで、「ありえねえ」とシラケないでほしい。最後までシラケなければ、確率の世界って最後まで希望を打ち消さない世界なのね!という感動が待っている。
 訳者のあとがきにあった「ノンストップ・サスペンス」という言葉に反して、何度か立ち止まった。本筋とは関係ない脱線話が面白いのだ。統計学、確率論、精神分析学など、豊富な専門知識の大放出。読者相手の特別講義といった感じで、ちょっと難易度の高い、平成教育委員会みたいである。

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  佐久間 素子
 
評価:★★★☆☆
 癲癇の発作で苦しむ数学者ケインは、実験用の抗癲癇薬による治療を決意する。覚悟していた副作用のかわりに得た能力は、思いもかけないもので、彼は国家安全保障局に狙われる身となってしまう。というのが本流で、そこに、ケインがカードゲームで負けた借金を回収しようとするロシア人やら、ケインを北朝鮮に売ろうとするCIAの女工作員やら、ケインの能力と関係ありげな研究を行う科学者やらが絡んで、ストーリーは怒濤のごとく流れ出す。
 そんなご都合主義的な展開「ありえない」という批判を、完膚なきまでにたたきのめす問題作。て、笑うところだ。実際、そこんとこをおさえられちゃったら、どんな展開にも文句はいえやしない。アイデアの勝利だねえ。しかも、立派なのは、ご都合主義を理論武装で正当化しておきながら、ストーリーの先を読ませないことで、確かに読み出したらとまらない。確率論や、量子力学論がぽんぽん出てくるけれど、高濃度のトンデモ本なので心配は無用。それどころか、何となくわかった気になっちゃったりするおまけもありで、楽しく読みました。

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  新冨 麻衣子
 
評価:★☆☆☆☆
「超絶ノンストップ・サスペンスの傑作!!」……ていうかヘタなSFじゃないですか?
 一番嫌だったのは、この小説にはまったく「人間」が描かれてないことだ。作者は登場人物をゲームを進めるコマとしてしか扱っていない。サスペンスであろうとSFであろうと登場人物に魅力がなけりゃ面白くも何ともないというのに。分厚い上下二巻であるにもかかわらず、読み終わっても登場人物たちがどんな人間だったのかさっぱりつかめない。それがもっとも顕著にわかるのは、上巻のラスト、17ページに渡ってナヴァという女の半生がつらつらと書かれているところだろうか。そこには「事実」しか描かれていない。ナヴァのキャラがまったくわからない。意識してやってるとは思えないですね。この表現の薄っぺらさ加減は。
 小説はプロットだけじゃダメでしょ。かといってこの小説のプロットがそういいとは思えないけどね。アイディアは買いたいが、小説でしか味わえない喜びが欠如している。それが一番の難点だ。

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  細野 淳
 
評価:★★★☆☆
 あのときにこうしていれば今ごろは……、でもああしていれば今ごろは……。などということを考え出すとキリがなくなってしまう。本書の主人公、ケインが得ることになる力はまさにそのようなキリがなくなるほどの選択肢を見極め、未来を自分の手で選択することのできる能力。未来を予知する人物が登場する小説は数多くあるが、無数の可能性の中から選び出す、というような設定をしたものは珍しいのではないか。
 そのような力を持った人物が出てくる小説であるから、未来を見極める瞬間の描写も、かなり独特。主人公が一度に沢山の未来の可能性を見ることができるため、同じような、でも少しずつ違う場面が、何回も現れる。人によっては、それがくどいように感じられてしまうかも知れない。でもこの描写こそが本書の魅力であり、骨格を成している部分であるのだ。
 そのような描写の他、面白かったのは、数学、特に確率論の話。講義のような形になっているので、読んでいると多少なりとも頭を使うことになる。コインを四回投げて、表が二回出る確率って……。高校を出て以来、数学にはほとんど触れたことが無かったので、久しぶりに数学のことを考えた。確率論って、実はかなり奥が深い学問なのであるのだ。

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