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第30回:金原ひとみさん (かねはら・ひとみ)

金原ひとみさん

デビュー作の『蛇にピアス』で、いきなり20歳で芥川賞を受賞し、04年初頭の読書界の話題をさらった金原ひとみさん。ご本人はというと、世間の大騒ぎに踊らされることなく、地に足のついた、非常にしっかりした印象の女の子。独自の文章世界を持ち、きらめく才能で我々を圧倒した彼女は、一体どんな本を読んできたのか。劇団「大人計画」が大好きという意外な一面も交えて、お話ししてくれました。

(プロフィール)
1983年8月東京都生まれ。99年文化学院高等課程中退。「蛇にピアス」で第27回すばる文学賞受賞。第130回芥川賞受賞。

【本のお話、はじまりはじまり】

――小さい頃って、本を読んでました?

金原ひとみ(以下金原) : いえ、読んでいませんでした(笑)。幼稚園にあがる前くらいの、本当に小さい頃は、親に読んでもらってはいたんですけれど。

――では、読書の喜びに目覚めたのはいつになるのでしょう。

金原 : 小学校6年生の時に、家族でアメリカに行って、1年間ほど暮らしたんです。そこで、日本語を忘れないようにと、父がジャパンセンターで何十冊も買ってきて。それで、ヒマだったこともあって、まあ読んでみようかな、と思って。平日は現地校、土曜日には日本人学校があったんですが、あまり行かずに家で本を読んだりしていました。

――どんな本だったんですか?

金原 : 何でもありましたよ。山田詠美さんの『放課後の音符(キイノート)』や村上龍さんの『69』、原田宗典さんの『スメル男』、宮部みゆきさんに中島らもさん…。父自身が好きな作家を買ってきていたようです。

【大好きな二人の作家】

――帰国後も、読書は習慣に?

金原 : はい。いろんなものを読むようにしていたんですけれど、だんだん自分も好きな作家さんがはっきりしてきたので、偏って読んでいましたね。村上さんとか、山田さんとか。

コインロッカー・ベイビーズ
『コインロッカー・ベイビーズ(上)』
村上龍(著)
講談社文庫
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ベッドタイムアイズ・指の戯れ・ジェシーの背骨
『ベッドタイムアイズ・指の戯れ・ジェシーの背骨』
山田 詠美(著)
新潮社
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――お二人の作品の中で特に好きなのは?

金原 : 村上さんの『コインロッカー・ベイビーズ』は、すごく衝撃があって、読んだあと放心状態になってしまって。たしか中1の時に読んだのですが、そこまで読後感が残る本ははじめてだったんです。山田さんはどれだろう。『ベッドタイムアイズ』も好きだし『蝶々の纏足』も好き。山田さんの本は、女の子の気持ちがすごく深く描かれていますよね。中学生くらいの頃って、ちょうど恋愛したい時期じゃないですか(笑)。だからどの作品もすごく新鮮で面白かったです。

――相当読まれたんでしょう。

金原 : 一時期、山田さんの本を制覇しようと思って、リストアップして読んだら消していく、というのをやっていたんですが、ものすごく多くて、半分ぐらいのところでいったん、挫折しました(笑)。でも今でも、新刊が出ると買っています。

――じゃあ、芥川賞の授賞式で山田さんが側にいた時は緊張したでしょう?

金原 : はい。すっごくステキでした。

――中学生くらいの頃からご自身でも書き始めたそうですが、山田さんや村上さんの文体を真似したりしていたのかしら。

金原 : いえいえ、真似しようとしてもできないですから、そういうことは考えなかったですね。でももしかしたら、気づかないところで影響は受けているかもしれません。

【「大人計画」との出会い】

ファンキー!―宇宙は見える所までしかない
『ファンキー!―宇宙は見える所までしかない』
松尾スズキ(著)
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大人失格―子供に生まれてスミマセン
『大人失格―子供に生まれてスミマセン』
松尾スズキ(著)
光文社文庫
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――実は松尾スズキさんや宮藤官九郎さんが好きだそうで。彼らとの出会いは?

金原 : 出会いはですね…(笑)。たまたま数年前に「ふくすけ」の再演を観にいって、すごく衝撃を受けたんです。その後、しばらくしてから、書店で松尾さんの本を見かけるようになって、読むようになりました。岸田国士戯曲賞をとった『ファンキー!』や、エッセイの『大人失格』とか。コラムも好きですね。

――宮藤さんに関心をもったきっかけは?

金原 : 「母を逃がす」という舞台ですごく色っぽい役をやっていて、この人誰だろう、と思ったら、それが宮藤さんだったんです。その後、いろいろ戯曲を書いていることを知って。

――宮藤さんの本でオススメは?

金原 : 全部オススメです(笑)! その世界にガッと入れて、何も考えずにいられる。私、落ち込むと絶対宮藤さんの本を読むんですよ。勝手に元気をもらっているという感じですが、すごい力だなって思います。

――彼らの作品が、書くことにも影響を与えていると思います?

金原 : 舞台って絶対小説では表現できないことをを表現しているって思う。でも、舞台を観た時のあの衝撃を、自分もできる限り、小説という形で表すことができたらいいな、と思います。

【その後の読書道】

――それからは、衝撃を受けた作家はいましたか?

血と骨(上)
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梁石日(著)
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闇の子供たち
『闇の子供たち』
梁石日(著)
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日曜日たち
『日曜日たち』
吉田修一(著)
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アッシュベイビー
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金原ひとみ(著)
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金原 : 梁石日さん。友達にすすめられて『血と骨』を借りて読みました。それと『闇の子供たち』も好きですね。書くものにすごく魂がこもっている感じがします。

――ちなみにお父さんの金原瑞人氏は翻訳家としても大活躍されていますが、海外文学は読まないのですか?

金原 : 10冊に1冊ぐらいの割合いですね。父に本をもらうこともあります。家に遊びにいくと父の訳した新刊が届いているので「サイン入れて、ちょうだい」といってもらっているんですけれど(笑)。あと、父とは村上さんや松尾さんなど、好きな作家が共通しているので、その人たちの本の話をすることもあります。

――本を選ぶ基準は?

金原 : 新刊を選ぶようにしていましたね。実は一昨年あたりに『recoreco』という雑誌に書評を書いていたんです。うちの父が書評の枠を持っており、冊数が多いので知り合いの作家さんたちと手分けしていて、そのなかのひとコマを私がもらっていて。それで、新刊について書かなくてはいけないので、いろんな作家さんの本をチェックするようになりました。

――なんと一昨年からすでに文筆業を…!

金原 : いえいえ、一昨年からといっても、数回しか書いていませんから。ただ、それがきっかけで、よく本屋さんに行くようにはなりました。

――ぱっと見て選ぶほう? それともじっくり選びます?

金原 : まず表紙を見て、帯であらすじを読んでから、開いてペラペラめくって、そして買う。すごい慎重です(笑)。私、面白くないと最後まで読みきれないので、石橋をたたいて本を選んでいます。だから一回本屋に行くと2時間くらいいますね。あ、でもそういえば、この間、吉田修一さんの『日曜日たち』は、装丁がかっこいいなあって思って、“ジャケ買い”しました。

――好きな本屋などはありますか?

金原 : どこでも好きですけれど、最近は六本木ヒルズの、スターバックスの隣りにある本屋さんが、品揃えがマニアックで好き。座って読めるので、ずーっといます。

――本を読む時のスタイルは?

金原 : 書くのは深夜でないとダメなんですけれど、読むのはいつでも大丈夫です。前までは電車の中で読むのは好きじゃなかったけれど、最近は周囲も気にならず、すっと本に集中できるようになりました。

――最近お忙しそうですが、本を読む時間はありますか?

金原 : そうなんです、今はちょっと、自分のことで精一杯なんです。私、花村萬月さんの『百万遍』もまだ読んでないんですよ。時間ができたらまずそれを読みたいですね。

――ご自身の新刊の予定も、もう決まっているんですよね。

金原 : はい。雑誌ですでに発表しました『アッシュベイビー』が4月中旬に出る予定です。絶対いい装丁になると思うので、今からすごく楽しみです。

(2004年)

取材・文:瀧井朝世

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