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第73回:宮田 珠己さん (ミヤタ・タマキ)

宮田 珠己さん 写真

海外の各地でシュノーケルをしたり、国内の巨大仏像を見て巡ったり。旅をベースに、エンターテインメント系のノンフィクションを発表し続けている宮田珠己さん。なんともいえないユーモアの漂う作風は一体どこから生まれたのか? その読書道、はかなり個性的。読んでみたくなるユニークな本が次々登場します。

(プロフィール)
兵庫県生まれ。旅とレジャーのエッセイを中心に執筆活動を続ける。著書に『ポチ迷路』『ふしぎ盆栽ホンノンボ』『晴れた日は巨大仏を見に』『ウはウミウシのウ〜シュノーケル偏愛旅行記』『東南アジア四次元日記』など。

【冒険が好きな少年】

――幼少の頃からの読書体験をおうかがいしたいのですが…。

宮田 : この取材の前に、過去のみなさんの読書道を読んだんです。みなさん、すごい記憶力だなと思いました。僕なんて、記憶があるのは小学校4年生くらいからです。幼稚園のころにどんな絵本を読んでもらったかなんて、全然覚えていないので、もう、どうしようかと…。

――4年生までの記憶がない!?

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宮田 : 断片的な記憶はありますよ。プールの光景とか。でも、そこで何があったのかは覚えていないですね。絵本の一風景も覚えています。人形を並べた模型みたいなものの写真を載せた本ですが、タイトルを調べようにも、絵に描くこともできないし、調べようがなくて。なので、僕が本の話を始めるとすると、小4からなんです。

――では、その頃に読んでいた本は。

宮田 : 図書館にあった、少年向けのSF全集のような本を、片っ端から読んでいたのが最初の記憶です。覚えているのは『火星のジョン・カーター』という本が面白かったこと。後々、ちゃんと読むことになるんですけれど。

――なぜSFだったんでしょうね。何が好きな子供だったんですか?

宮田 : SFを選んだのは、やっぱり「ウルトラマン」などのテレビから連想したのかもしれません。好きだったことは、探検。本格的にはできないので、児童公園にある灌木の植え込みの中にしゃがんで、小さなプラモデルを持って、乗っているつもりで植え込みからはみ出さないように1周する…。というようなことをしていました。自転車であちこち行くのも好きだったんですが、そこから先には行くなと言われているトンネルがあって。トンネルの先に、池があると記憶していたんですが、大人になって行ってみたら、池もなく、埋め立てたような跡もなくておかしいなあと思いました。

ドリトル先生月へゆく
『ドリトル先生月へゆく』
ヒュー・ロフティング(著)
井伏鱒二(訳)
岩波少年文庫
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ロビンソン・クルーソー
『ロビンソン・クルーソー』
D.デフォー(著)
福音館文庫
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新八犬伝 上の巻
『新八犬伝 上の巻』
石山 透(著)
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――当時から冒険好きだったんですね。読書は他には? 

宮田 : みんなが読んでいた江戸川乱歩の少年探偵団などはまったく興味がなかったんです。新しい風景が出てこないから。好きだったのは、どこかへ移動する話。だから「ドリトル先生」のシリーズは大好きなんです。図書館に並んでいるのを1冊ずつ借りて、いつまでも読んでいたいと思っていましたね。『ドリトル先生月へゆく』が特に好きでした。

――小説も、冒険の要素があるものが好きだったんですね。

宮田 : 『ロビンソン・クルーソー』が好きでした。あれは2回遭難して無人島に辿り着き、そこで黒人のフライデーと出会って、帰ってくる。2回目の遭難で、島に積み荷を引っぱりあげ、最初は海っぺたで暮らしはじめるんですよね。ある時探検して島の反対側に行くと、果樹園が広がっていて、いいところだということで家を移すんです。僕はこの果樹園を発見するくだりがものすごく好きで。うわっと視界が開けて、世界が広がる感じがいいんです。そこばかり繰り返して読むから、その先に出てくるはずのフライデーが全然出てこない(笑)。当時、果樹園が広がる景色は扇状だと思っていたんですが、後に読み返したら、扇状地でもなんでもなく、それほど広い場所でもなかったんですけれど。

――フライデーには会わずじまいですか。

宮田 : フライデーが出てくる部分は読んでいませんが、たぶん人間関係の話になってしまうだろうと思って。冒険ものなら『十五少年漂流記』もあるけれど、あれも15人も人がいるのが嫌で(笑)。一人で遭難したいんです。

――ならば、他に夢中になったものというと…。

宮田 : 小学校5年か6年の頃、NHKで『新八犬伝』という人形劇をやっていたんです。辻村ジュサブローの人形で、ナレーターは坂本九で。ひいおばあちゃんの家に行ったら見ていたので、一緒に見たら面白くてハマりました。脚本を小説にした本が出ていて、その全3巻がほしくてほしくて、親にちょっとずつ買ってきてもらい、今度は読み終えるのが惜しくて惜しくて、それで、この続きは俺が書く! と、書き始めたわけです。小学生だからちゃんとした話ではなく、同じ登場人物が右往左往するくらいのものでした。でも、それが楽しくて、将来は物書きになりたいと思っていましたね。卒業文集にも「将来は小説家になりたい」と書きました。ただそれは、「プロ野球選手になりたい」「パイロットになりたい」みたいなのと同じ、子供の夢のレベルですが。

【小学生から今に至るまで、続けているのが…】

――ものを書くのが好きだったんですか。

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宮田 : 5年の時に日記をつけ始めて、それが面白くて趣味になりました。当時は日記を書くなんて暗い、というイメージがあったので、カミングアウトできませんでしたが。

――当時の日記、とってありますか?

宮田 : 今もつけてますよ。その時から、ずっと。学生時代は毎日つけて、社会人になると週のうち3日分くらいだけですけれど。全部とってあります。70冊くらいになりますね。

――うわー!!

宮田 : 今回も、読んで印象的だった本は日記に書いてあるだろうと思って、読み返してきました。まあ、毎回たっぷり書くわけではないですよ。流行りすたりがあるというか、ある時期はたっぷり書いていて、ある時期は1日1行だったりする。だいたい、悩んでいる時期は、日記が長くなりますね。順調な時ほど短い。好きな女の子がいたりすると、恥ずかしくて名前が書けない(笑)。「あの子の席はあそこで、僕はここだ」とか日記に書いてある。…ああ、恥ずかしいですね。今まで、誰にも読ませていません。

――中学生時代は。

地底世界ペルシダー
『地底世界ペルシダー』
バロース(著)
ハヤカワ文庫
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宮田 : やっぱりSFが好きで。さきほど『火星のジョン・カーター』といいましたが、それはエドガー・ライス・バローズの「火星シリーズ」が元の本だったんです。『火星のプリンセス』など、東京創元社から出ているんですが、他にも「金星シリーズ」や『地底世界ペルシダー』などのシリーズがあって。「ペルシダー」は、地底深くにいくと別世界がある話なんですが、本に地図がついているんです。その地図が好きで。「火星」や「金星」には地図がないけれど、これにはあるので夢中になりました。あと、ロバート・E・ハワードの『コナン』……『コナン・ザ・グレート』という映画にもなりましたが、それがヒロイック・ファンタジーの先駆けみたいな作品で、それも読みました。ただ、僕はどうも魔法が出てくるものがダメなんです。ファンタジーが嫌いというわけではなく、魔法まで出てくると、嘘のような気になるんです。そもそもヒロイック・ファンタジー自体、嘘の話ですけれど(笑)。魔法が出てくると何でもあり、みたいになるのが嫌で。自分なりにリアリティを求めているんですよね(笑)。謎の世界に行って、地図があって、魔法はなし! という小説が好きだと気づきました。あとは、星新一さんのショート・ショートも読んでいたし、『新八犬伝』の流れで、滝沢馬琴の『椿説弓張月』や、子供向けの『太平記』といった時代小説っぽいものも面白がっていました。

――本屋さんで買っていたんですか?

宮田 : 「火星シリーズ」などを、お金がないからちょっとずつ買うのが楽しみで。わりと、シリーズものが好きでしたね。1巻で完結してしまう小説だと面白くない。最低5巻はほしい。そのほうが虚構の世界のリアリティが立ち上がってきて、本の中に紛れ込める気がするんです。

――中学時代は、自分では書いていたんですか?

宮田 : 書こうと思って、まず地図を作って、それにハマって地図を延々作りつづけ、いつまでたっても話が始まらなかった(笑)。

【旅への目覚め】

――さて、高校生になりますと。

全東洋街道(上)
『全東洋街道(上)』
藤原新也(著)
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宮田 : 冒険小説的なSFだけでなく、フィリップ・K・ディックやスタニスワフ・レムや、J・G・バラードなど幅広く読むようになりました。また、その頃テレビで「シルクロード」をやっていて、その写真集が出ていたんです。高いので親に頼むと、親も旅行が好きだったのでそういう本は買ってくれた。それを見て、ああ、シルクロードに行きたい! と思いました。本の中で冒険するよりも、現実にどこかに行くことに気持ちが向かっていきました。それで、学生らしく夏目漱石なども読みつつも、主に読む本は現実に旅行するための本にシフトしていきました。藤原新也さんの『全東洋街道』が好きで、オレもユーラシア大陸を横断したい、と思いましたね。開高健さんの『もっと広く』『オーパ!』、椎名誠さんの『あやしい探検隊』シリーズや『インドでわしも考えた』など、旅行ものが出ているとすぐに買いました。金子光晴の『どくろ杯』も。小説でも、檀一雄の『火宅の人』が、結構旅行の要素があるので読みました。夏目漱石にしても一番面白かったのは『草枕』だったりする。旅行している感じがよくて。『坑夫』というルポタージュみたいなものがあって、それも好きでした。人間の中身をほじくる作品よりも、風景をほじくるもののほうが、やっぱり好きなんです。
でも、そのあたりになると、もう大学生になっていたかな。

もっと広く! 南北両アメリカ大陸縦断記・南米篇(上)
『もっと広く! 南北両アメリカ大陸縦断記・南米篇(上)』
開高健(著)
文春文庫
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オーパ!
『オーパ!』
開高健(著)
集英社文庫
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あやしい探検隊北へ
『あやしい探検隊北へ』
椎名誠(著)
角川文庫
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インドでわしも考えた
『インドでわしも考えた』
椎名誠(著)
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どくろ杯
『どくろ杯』
金子光晴(著)
中公文庫
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火宅の人(上)
『火宅の人(上) 』
檀一雄(著)
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草枕
『草枕』
夏目漱石(著)
岩波文庫
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坑夫
『坑夫』
夏目漱石(著)
新潮文庫
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――自分で旅に行く計画は立てたのですか。

宮田 : 大学に行ってから、国内は一人で旅するようになりました。海外は、大学3年生の時に、一人で中国に1か月ほど。それが、自分の中ではものすごく感動した体験だったんです。当時、84年ですが、中国国内では自由旅行もできなくて、団体旅行で入国したあとで解散、という。古い時代に来た感じがありましたね。シルクロードが念頭にあったので、敦煌と、万里の長城の、西の外れの嘉峪関(かよくかん)に行きました。そこではみんな日本人なんて見たことがなくて。ウイグル族かどこかの民族衣装を着ている人に道を聞いた時、中国語が話せないので地名だけ発音したら、向こうは「はあ〜?」という反応で。「シェマ?」って言われたんですが、その言葉がとっても異様なものに聞こえて(笑)。オレ、すごいところに来た! とロビンソン・クルーソーのように感じた瞬間でした(笑)。もう、一生旅行したい! と思いました。

――旅行する時、事前に現地のことをいろいろ調べるのですか?

宮田 : 旅行をしていて思うのは、自分はその国の文化や生活そのものに興味があるのではないんですね。それより、「ぽつん」というのが好き。オレ今、どこかよく分からないところに一人でいる! という感覚。あまりに現地のことを知っていると、その感覚が味わえない。夢が覚めてしまうんです。訳が分からないところに行きたい、道に迷いたい。「どうしようー…」となりたい(笑)。そんなに危険なことはしないですよ。「今夜の宿も決まってないしどうしよう」という程度で、いくぶんか寂しい感じになりたいんです。

――旅行記の中で、この描き方が好きだとか、印象に残っているものは?

貧困旅行記
『貧困旅行記』
つげ義春(著)
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第一阿房列車
『第一阿房列車』
内田百閒(著)
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宮田 : 当時は『全東洋街道』が格好いいと思っていました。だからといって、自分も同じように書こうとは思いませんでしたね。今はつげ義春の『貧困旅行記』が好きなんですが、それとか、内田百閒の『阿房列車』のようなものが好きです。相手のことを理解しようとはしていない旅行記が好きなんですよね。現地のことをよく勉強して、他文化を紹介するような旅行記もありますが、僕は私小説のようなものが好みなんです。

――さて、初の中国旅行の後は。

宮田 : 僕、理系だったんですよ。学生って自分の得意分野で将来を決めると思うんですが、僕はたまたま理系が得意だったんです。理系だと夏休みも学校に行かなくちゃいけなかったりして、なかなか旅行をする時間がない。学生のうちはその後ネパールに行ったくらいで、そのまま就職しなくちゃいけなくなって。

――それではなおさら、旅行したい! と心残りになりますね。

宮田 : 就職した後も、いつか辞めて全東洋街道に行きたい、とずーっと思っていました。3回の休み…GW、夏休み、年始年末は必ずどこかに行くんですが、期間は短いしお金の問題もあるから、近場のアジアばかり行っていました。当時は『地球の歩き方』はもうありましたが、まわりに旅好きもいないし、ネットもないから情報もない。中国に行くと友人に言うと、ものすごい冒険をしていると思われていました(笑)。泥水を吸ってもろ過されて水が飲めるストローなんかをくれるんです。そこまでサバイバルでなく、町中を旅行するしているだけなのに。

――「どうしよう」となりたいけれど、一応『地球の歩き方』は買っていたんですね。

宮田 : 現地での切符の買い方などはわからないとやっぱり困る(笑)。

――本は読んでいました?

宮田 : 三島由起夫、安部公房なども読んでいましたけれど…。写真集をよく見ていました。カメラマンが誰、ということではなく、サハラ砂漠とあれば見て、アマゾンの源流とくれば見る。SFは読まなくなっていましたね。フィリップ・K・ディックを読んだら、後は何を読んでも面白くなくなってしまって。

【旅のお供となる本】

――旅行先でも、日記はつけているんですか?

宮田 : あまり丁寧にはつけていませんね。当時はモノの金額などは書いていなかったんですが、最近は反省して書き留めるようになりました。多感な頃なんで、人生どうするか、みたいなことばかり書いていましたね。

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――本は持っていかれるのですか。

宮田 : 持っていきすぎて重いくらい。10冊と決めているんですが、それじゃあおさまらない。なかなかベストな10冊を決めることができないんですよね。飛行機が怖いので、それを乗り越えるための本も必要だし…。

――えっ、飛行機が苦手?

宮田 : これまでに100回くらい飛行機に乗っているのに、実は苦手なんです(笑)。なので、没頭して読める、シンプルで長いエンターテインメントが必要になる。ほかに現地で読むために、2種類持っていきますね。ひとつは、普段は手にとらない、難しい本。向こうでもやっぱり読まないんですけれどね(笑)。あとは、最近なんですが、何回も読めるものを1、2冊。

――ちなみにそれは…?

宮田 : 幸田文の『崩れ』など。これは日本各地にある、山が崩れた場所を見て回っている。観光地でなく“崩れ”を見て回るというところが面白くて。チャペックの『園芸家12カ月』も味わいがあって何度も読みます。ルネ・ドーマルの『類推の山』も、いろんな宗教で世界の中心にあると言われている山を探しに行く話。実はこれ、いよいよ山を登る、というところまで書いて著者が亡くなってしまって。オレが続きを書きたい、と思いました(笑)。『ボートの三人男』も、川を旅行する話だから繰り返し読みます。

――その一方で、持っていったのにまったく読まない本もあるわけですね。

宮田 : ベンヤミンの『パサージュ論』は、旅先なら読むだろうと毎回持っていって、毎回読まない。なので、何度も読んだかのようにボロボロになっています(笑)。

崩れ
『崩れ』
幸田文(著)
講談社文庫
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園芸家12カ月
『園芸家12カ月』
カレル・チャペック(著)
中公文庫
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類推の山
『類推の山』
R・ドーマル(著)
河出文庫
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ボートの三人男
『ボートの三人男』
ジェローム・K・ジェローム(著)
中公文庫
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【オモシロ本あれこれ】

タオ自然学―現代物理学の先端から「東洋の世紀」がはじまる
『タオ自然学―現代物理学の先端から「東洋の世紀」がはじまる』
F・カプラ(著)
工作舎
2,310円(税込)
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精神と自然―生きた世界の認識論
『精神と自然―生きた世界の認識論』
グレゴリー・ベイトソン(著)
新思索社
2,100円(税込)
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雪片曲線論
『雪片曲線論』
中沢新一(著)
中公文庫
820円(税込)
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森のバロック
『森のバロック』
中沢新一(著)
講談社学術文庫
1,260円(税込)
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熊野集
『熊野集』
中上健次(著)
講談社文芸文庫
1,260円(税込)
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奇景の図像学
『奇景の図像学』
中野美代子(著)
角川春樹事務所
3,568円(税込)
※品切・重版未定
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アンリ・ルソー楽園の謎
『アンリ・ルソー楽園の謎』
岡谷公二(著)
平凡社ライブラリー
1,365円(税込)
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郵便配達夫シュヴァルの理想宮
『郵便配達夫シュヴァルの理想宮』
岡谷公二(著)
河出文庫
798円(税込)
※品切・重版未定
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ピエル・ロティの館
『ピエル・ロティの館』
岡谷 公二(著)
作品社
2,940円(税込)
※品切・重版未定
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ふしぎ盆栽ホンノンボ
『ふしぎ盆栽ホンノンボ』
宮田珠己(著)
ポプラ社
1,575円(税込)
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――会社には、どれくらい勤めたのですか。

宮田 : 10年くらいですね。20代半ばの頃は、ニューサイエンスが流行っていて、フリッチョフ・カプラの『タオ自然学』やベイトソンの『精神と自然』などを読みました。中沢新一の『雪片曲線論』や、南方熊楠について書かれた『森のバロック』とか。世界をどういう風に把握するか、ということに興味を持っていたんでしょうね。仕事の傍らに読んでいました。

――お仕事は忙しかったのですか。

宮田 : はじめの4年間くらいはヒマだったんですが、仕事が嫌で本を楽しむどころでなく「この先どうしよう、オレはここでやっていくのか?」と悩んでいました。日記も長い(笑)。それで、タオなどという本を読んでいたわけです。その後、異動して忙しくなって。今度は本を読むヒマがなかったんですが、それでも中上健次をむさぼるように読んで。『熊野集』とか。あと、中野美代子さんの架空の地理についての本が好きで。中野さんは『西遊記』を訳した人なんですが、『奇景の図像学』などの著作があり、例えば山水画で、山の中腹に寺が描かれているのをみて、いろいろ学術的に解読したりするんです。あり得ない風景について語っている。もう、オレのために書かれているのかと思うほど気に入って、中野さんの地理関連の本はたぶん全部持っていると思います。『奇景の図像学』は自分の中ではベスト3にはいっているかもしれません。

――面白そうですね。

宮田 : 岡谷公二さんも好きです。『アンリ・ルソー 楽園の謎』もヘンな場所を夢想した画家の話だし、『郵便配達夫シュヴァルの理想宮』というのも、石でヘンな宮殿を作り上げた人の伝記っぽい話。『ピエル・ロティの館』は明治時代に日本のことを書いた人の話で、彼のオリエンタリズムが甚だしくて(笑)。でも、その歪んだ日本が面白いんです。岡谷さんが翻訳した『幻のアフリカ』という本は、著者のミシェル・レリスがアフリカに行って書いたルポ。植民地支配のため、情報を集める調査官として派遣されたのに、恋愛感情とか自分のことばかり書いている。面白くて読むんですけれど、もったいなくて全部読めない(笑)。岡谷さんも、中野さんと同じく、新刊は必ずチェックしています。もう一人、ヴィクトル・セガレンも好きです。『〈エグゾティスム〉に関する試論/羈旅』は中国旅行の話なんですが、中国のことがまったく出てこない。何を書いているのかというと“行く前に想像していたものよりも、行って見たもののほうがレベルが低い気がするのはなぜか”などと延々と考えていて。それが共感できるんですよね。これも自分の中で上位に入る本です。

――そうした本を、どうやって見つけているんですか?

宮田 : 以前阿佐ヶ谷に住んでいたんですが、「書原」という本屋さんにはマニアックな人文書が置いてありました。あと、そういう本を1冊見つけると、巻末に参考文献が書いてあるので、そこから広がっていく。僕が書いた『ふしぎ盆栽ホンノンボ』で紹介しているベトナムの盆栽も、中野美代子さんの本の中に『盆栽の宇宙誌』が紹介されていて知ったのだし。

――そうした、印象に残った本はすべて日記に書いてあるんですか。

宮田 : あります。でも、面白い本は日記を読み返さなくても覚えていますね。気になる部分に線をひくんですが、これらの本は、赤線がいっぱい引いてある。他に日記に書いてあったを挙げると、まずロラン・バルトの『偶景』はなんでもない一瞬の風景を数行書いているだけなのに、世界がわーっと広がる感じがして好きでした。ガストン・バシュラールの『空間の詩学』は、家の隅っこなど、微妙な場所の持つ感じをあれこれ考察している。文化人類学のレヴィ・ストロースの『野生の思考』や赤瀬川原平の『路上観察学入門』も面白いですね。

偶景
『偶景』
ロラン・バルト(著)
みすず書房
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空間の詩学
『空間の詩学』
ガストン・バシュラール(著)
ちくま学芸文庫
1,680円(税込)
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野生の思考
『野生の思考』
クロード・レヴィ・ストロース(著)
みすず書房
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路上観察学入門
『路上観察学入門』
赤瀬川原平(著)
ちくま文庫
819円(税込)
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【社内報の作成、そして…】

――お仕事を辞められた経緯は。

宮田 : 10年間働いて、最後は求人広告を作っていたんです。周囲もクリエイティブのつもりでやっている人が多くて、何か面白いことをしようと思い、社内報を作り始めたんです。半分は業務連絡、半分は何でもありの遊びの内容で。でもみんな忙しくて書いてくれない。僕一人やる気満々で、みんなが口を出したくなるような記事を書こうと思いたって、内輪ネタにしたんです。「●●クンに彼女ができるように、キャッチコピーをつけてください」とか(笑)。お題を出すと、みんなも面白がって考えてくれて、だんだん盛り上がって。その中で、旅行記を書いていたんですよね。それをまとめて本にしようとしたんですが、持ち込みで断られ、自費出版しました。それで、本当は何がやりたいんだろう、やっぱりコピーライターとしてでなく、自分で書きたいことが書きたい、と思うようになって。会社を辞めてライターになることにしたんです。と同時に、旅行しまくろうと思って。実際退職後は、東南アジアに行ったり、国内では熊野に行ったりしました。

――そして、旅行を題材に書くように。

宮田 : 予定調和でない旅行記が書きたかった。現地に行って予定通り事が運んでみんなと仲良くなって、別れぎわには涙して…というのではなく、破綻した旅行記。はみだしたものが書きたいという欲望がありました。

晴れた日は巨大仏を見に
『晴れた日は巨大仏を見に』
宮田珠己(著)
白水社
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ポチ迷路
『ポチ迷路』
宮田珠己(著)
幻冬舎
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――確かに宮田さんの著作はユニーク。『晴れた日は巨大仏を見に』は、各地の巨大な仏像を見に行く内容。現地の人は見慣れてしまっていて、その存在を忘れている。そのように、普段人が意識していないものを取り上げるのがうまいですよね。旅行記以外にも、『ポチ迷路』のような迷路の絵本も出されたり。

宮田 : 意識はしていないんですけれど、いろんなものに目がいく。でも、風景やモノばかり見て、人を見ていないんですよね(笑)。『ポチ迷路』は、以前からなんとなく落書きで書いていて。何か本を出さないかと言われた時に、迷路ならすぐ書ける、と言って出来た本です(笑)。ただ、まわりから難しすぎる、と言われてますが…。

――文章も非常に楽しいのですが、文体などどう意識されているのですか。

宮田 : さきほど挙げたつげ義春さんの『貧乏旅行記』は文章を書くスタンスという意味では参考にしています。しょぼい場所が好きだけど、このしょぼさはよくて、あのしょぼさはダメ、と、本人にしか分からないような基準がある。そうしたものをちまちま真剣に書いていると、いつのまにかギャグになるんですよね。笑わせようという下心があると、それが表に出てしまうのでダメだなあと。なるべく真面目に書きたいと思っています。

【最近の読書生活】

――その後、新たにハマっている著者はいますか?

クレオール主義
『クレオール主義』
今福竜太(著)
ちくま学芸文庫
1,470円(税込)
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今昔物語集 天竺・震旦部
『今昔物語集 天竺・震旦部』
池上洵一(著)
岩波文庫
798円(税込)
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三大陸周遊記抄
『三大陸周遊記抄』
イブン・バットゥータ(著)
中公文庫
1,200円(税込)
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ヌガラ 19世紀バリの劇場国家
『ヌガラ 19世紀バリの劇場国家』
クリフォード・ギアツ(著)
みすず書房
5,460円(税込)
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高丘親王航海記
『高丘親王航海記』
渋沢竜彦(著)
文春文庫
470円(税込)
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山海経―中国古代の神話世界
『山海経―中国古代の神話世界』
高馬三良(著)
平凡社
897円(税込)
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和漢三才図会 (1)
『和漢三才図会 (1) 』
寺島良安(著)
平凡社
3,360円(税込)
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ときどき意味もなくずんずん歩く
『ときどき意味もなくずんずん歩く』
宮田珠己(著)
幻冬舎
560円(税込)
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宮田 : 『クレオール主義』などの今福龍太さんはここ2、3年読ハマっています。感覚で世界を見ようとしているんですよね。足が踏んでいる地面を、足の裏で感じようとしている。それと、著者がどう、ということではないんですが、古地図をよく見ています。大航海時代の地図とかって、かなり間違っているでしょう。日本が日本じゃない形をしていたり、北海道がなかったり。眺めながら、この世界ってどんな感じなんだろう、と空想する。それを入り口に、中世の歴史に興味が出てきて、あの頃の人たちは世界をどう見ていたんだろう、と思い始めて。世界というものの概念も違うんじゃないかな、と。網野善彦さんや黒田日出男さんらは、そうした世界観を書いていて、よく読んでいます。『今昔物語集』を読むと、日本にあるはずのない島のことが書かれていたりしますが、そういうのを舞台に話が書けないかなと考えます。イブン・バットゥータの『三大陸周遊記』は、アラビアよりの土地の記述はまともなのに、こちら側に来るほど嘘になる。それも、犬の頭をした人間がいるとかいった、大嘘で。そういう世界を見たいんですよね。架空の陸地や架空の生き物が、本当にいると信じられていたのなら、その頃の人たちが見ていた世界は、今とは全然違うんじゃないかな、と。他に、クリフォード・ギアツの『ヌガラ――19世紀バリの劇場国家』はバリ島の研究書ですが、劇場のように国家が形成され、人々はその中で演じていた、と書かれている。言葉にするとそれだけですが、人生の意味が演劇することだと国をあげて謳う社会で暮らす人々の世界観って、僕らとは全然違うんだろうなあと思う。

――まったく違うんでしょうね。

宮田 : 今一番自分の中でホットなのは澁澤龍彦の『高丘親王航海記』です。天竺へ行く話ですが、東南アジアのあたりでうろうろするんです。高校生の頃に読んでもピンとこなかったのに、今や再読に次ぐ再読で何度読んだことか。あとは、中国の古典で『山海経』というのがあって、中国のまわりがどうなっていたかが書かれていますが、これがデタラメもいいところで。博物図鑑の『和漢三才図会』も、本当に実在するものも書かれているのに、架空の生き物も登場する。日本のまわりの外国人のことも、朝鮮半島などはまともなのに、遠くなるにつれ片手片足の人だとか胸に穴の開いている人間だとかがいると書かれてあって。それを平賀源内が風来山人というペンネームで、『風流志道軒伝』という小説にしています。そういうのを、自分も書きたいと思う。

――あくまでも楽しいもの。

宮田 : 今はやっているファンタジーでも、教訓くさいものはピンとこないですね。単純に訳がわからない、出会い頭で、オチがない。世界ってそういうものだと思うから、そんなエンターテインメントが書けたら、と思います。

――それはぜひ。では、今後の刊行予定は。

宮田 : 『52%調子のいい旅』を改題し、12月に幻冬舎から『ときどき意味もなくずんずん歩く』というタイトルで文庫が出ます。あとは、今言ったような小説を近いうちに出せたらと思っています。

(2007年11月30日更新)

取材・文:瀧井朝世

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