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  【角川文庫】
  古川日出男
  本体 800円
  2002/1
  ISBN-4043636016
 

 
  内山 沙貴
  評価:C
  15歳の独自の感性を持った少年響一と、ザイールで人猿の研究をしていた従兄の関口を通じて響一と知り合った未開地に棲むウライネ。独特の神話と狩と採集に支配されるジョ族のウライネの下に響一は溶け込んでゆき、やがてそこで神を識り、求めるようになる。彼の人生は穏やかでいて時に激しく、静かな己を見せるようでいて実は強烈な意志を槍に進む。そんな彼の人生はモノクローム、明暗の世界。だが彼の脳の中に在る一つの世界から全ての下界に向かって羽ばたく鮮やかな蝶の様に色彩が溢れる・・・・・そして彼は色彩を治める。解き放たれた無秩序を理解し世界の形に支配する。響一と色と彼を取り巻く人々の遍歴は、ちょっとだけ異常でひどく蠱惑的な世界の物語だった。

 
  大場 義行
  評価:B
   色を見せる事ができないという、小説のハンデを持ちながら、それを逆に利用してしまった凄い作品だったと思う。小説という文字だけの媒体ゆえに、読者はそれぞれ皆違う神の色彩を幻視したのではなかろうか。凄いと思うなあこの小説は。第一部では天才的な色彩感覚を持つ響一や神の子ローミを描き、第二部ではいきなり映画オタクかと思わせるような発言飛び出すハリウッド。文体も一部と二部では違うし(時間が空いていたのか、作為的なのかは判らないけれど)、展開の速さがすでに違うという点も楽しめた。いやあ、凄い作家になりそうだけどなあ。実はこの著者古川日出男はもっともっと頑張って欲しいと前々から思っていた人だったりする。もっと有名になってもいい作家だとは思うのだが。

 
  北山 玲子
  評価:C
   自分の求める色を探す少年、という設定には心惹かれるものがあった。そういう人生も面白そうだなと。色彩がマシンガンのように次から次へと視覚を刺激する。これはすごい。著者の、どうしてもこの話を書きたいんだ!という情熱をものすごく感じた。第一部・ザイール編までは…。第二部・ハリウッド編になると一気にトーンダウン。登場する白人達も、彼らが交わす会話もなんだか日本人の考えた外人という感じで類型的。第一部に登場するジョ族の人々が生き生きと描かれていただけに、その落差にはがっくりきた。転換の早い小説に慣れている人には、じっくり進行していく内容にイライラするかもしれない。でも、この話はじっくりと向きあって、主人公響一と共に色彩の渦に巻き込まれて欲しい。ジョ族の信仰する神の存在が少しでも理解できるから。

 
  佐久間 素子
  評価:A
   作者も作品も全くノーチェック。予備知識なしで読み始めてまもなく、背筋がぞくぞくしてきた。みっしりと書かれた行間から色がこぼれ出ているのだ。教室に塗りつけた何千種類もの色の中で、色覚異常の天才児、響一はつぶやく。「まだ足りないんだ」このシーンだけで既に惑ってしまいそうなのだが、こんなの序の口。舞台がザイールの森に移ると色彩の明度が格段に上がる。湿度があれば香りだって立ち上る。音だって聞こえてくる。そんな世界で、ザイールの森の霊界を体験した響一と、西洋の神を心に宿したザイールの少女の物語が、徐々に交わっていくのだ。もう、酔ってしまいそう。第一部があまりに鮮烈なため、軽やかな第二部はまるで長いエピローグのようだ。ラストでさらりと裏切られて、気がついたら物語の外にいる。とにかく、文章を読む行為自体が気持ちよいのだ。しかけられた物語の面白さがじわじわとわかってくるのは読後しばらくたってからである。

 
  山田 岳
  評価:AAA
   ありきたりなタイトル、陳腐な帯コピー、ピカソの絵がダサく見えてしまう装丁、どこにでもいる人物のようなペンネーム、出版業界はいま、<ポスト村上龍>の旗手を世に送り出すマーケッティング力を失っている。活字に色彩をぬりたくっていく第1部は「限りなく透明に近いブルー」に、アメリカの映画業界を描いた第2部は「メランコリア」等ドラッグ3部作に匹敵する。
「すべての網膜の終り」こそが正しいタイトルだろう。

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